おいしいごはんのつくりかた~したごしらえ編 その春まで、スクアーロはごく普通の少年だと自分のことを思っていた。確かにそう思っていたのだ。 十代初めのころの少年のほとんどがそうであるように、自分が好きなことに一生懸命で、いつもお腹がすいていて、勉強はそれほど好きでもなく、ちょっとばかり女の子に興味があって、自分に向けられる異性の視線の意味がわかり始めてくる、そんな年齢の、普通の少年だと思っていたのだ。「……スクアーロも女の子に興味とかあんの?」「ねーわけねーだろぉがぁ跳ね馬ぁあ!! おめーだって興味あんだろぉ?」「……あるけど…」「この前、中庭の奥で女子棟の子と、イイ雰囲気だったじゃねぇかぁ?」「見てたの、スクアーロ?」「見えたんだぁ」 スクアーロの同室のディーノはキャバッローネという、ボンゴレの中では中堅どころのファミリーのドンの、遅くに出来た一粒種だった。女の子みたいな顔で、きらきらの金髪にふんわりした青い目の、まるで女の子みたいな、可愛らしい少年だった。 少女といっても通用する、細い中性的な体と柔らかい物腰は、意外と女生徒に人気があるようで、そのぶん、男子生徒の嫉妬を買っていた部分も多かった。 それでもそれを鼻にかけることはなかったし、本人は自分のファミリーを継ぐことをあまり好いていないようだった。おどおどして男子には格好のいじめの対象であったが、それでもへこたれず、学校に通い、勉強をすることをやめないあたりは、流石に御曹司としての教育を受けてきたということなのかスクアーロは思っていた。 どんなにカジュアルに装ってもどこか上品だったし、学校の制服もよく似合っていた。 当然、未来のドン・キャバッローネになるだろう男を狙う女はすでに数多く、そうでなくてもディーノの愛らしさ、美しさは蜜のように女たちをひきつけた。「で、どうした、ヤッたのかぁ?」「そ、そんなことするわけないだろ!!」「なんでだぁ? おまえくらいの顔してたら、女なんかよりどりみどりだろぉ?」「俺そういうの好きじゃないから!」「じゃつきあわねぇのか?」「……そういうわけじゃないけど」「だったらいいじゃねーかぁ。あ、避妊はきちんとしろよぉ! 中絶はやっちゃいけねぇかんなぁ」「そんなんあたりまえだろ! それくらい知ってるよ」「今から練習しとけよぉ? いざとなったら『使えません』とかだったら恥ずかしいぜぇ! おまえ、毛を巻き込んで萎えそうじゃねぇかぁ!」「そんなことしないって!」「どうだかなぁ?」 そんなことを寮で同室のディーノと、軽口を叩きながら話せるくらいには、ごくごく普通の少年だった。 そのはずだった。 [8回]PR