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とつぜん

突然唐突にボスさんがきゅーっと愛しくなって息が止まるわ!死ぬわ!萌えで!とかいう気分になってくるのは原稿中だからなのだろうか…これがいわゆる「受から入って攻に抜ける」というやつか(なんかイヤラシイ響きだなこれ)。
仕事中は手足は動かしているが脳味噌は激しく暇なのでそんなことを考えるからだろうか
しかし今日寒いわ…毛糸の靴下を編みながら指が真っ赤になってしまったわ…。
晴れの属性を持っているおかんが旅行に行っていると、おかんの旅行先の近くでは漏れなく天気が荒れるというジンクスがあるのだが、うちの親もしかしなくても晴の守護者か?
今日こそジャンプ行ってきますー!











 春が近いとキチガイが増える。

 日本でもよくそういわれているが、欧州はもっと普遍的に言われていることらしい。
比較的南に位置するこの地でも、緯度からすれば東京よりはるかに上に位置するのだ。同じ緯度なら日本なら雪が多くて冬は年中曇っているか、強い風が冬の間中、びゅうびゅうふいているばかり。
 だからこそ急に、太陽が照る時間が長くなれば、ずっと曇った空の下で、早い夕暮れ遅い朝(国境を越えればすぐに、昼間の太陽が拝める時間ががくんと減る)太陽を浴びずにいた魂が、命と活力を満たす明日の光に焦がれて焼けて、ネジを緩めて狂ってしまう。案外簡単に、そうなってしまうのは、動物だから仕方ないのかもしれない。
 冬に光を浴びないと危ないのは――夜を跋扈する仕事を為している彼らも例外ではなく。

 毎年春になるとおかしくなる。誰がってここの組織のメンバーはいつもおかしいが、冬から春になるとここ数年、時々壊れた人間の悲鳴が聞こえる。
「……スイッチ入っちゃったんだ?」
「そうなのよ、ごめんなさいね、ドン・ボンゴレ。せっかく来ていただいたのに」
「いいよ別に、近くにきたから寄ってみた…ってわけじゃないけど、ザンザスに渡してくれ、ってこれを」
「あら、まぁかわいい! なにこのかわいらしいの、なんなの?」
 いつもここに来るときに、接待してくれるのは彼と、もう一人の銀の副官くらいだ。赤い目のボスは人に命令はするけれど、自分では滅多に茶を入れることなどしない。
 それこそ完璧に、嫌味なほどに紅茶のサーブもコーヒーを入れるのも、上手にできるくせに。
「お菓子なんだ。うちの母親が、年末に来てくれたお礼だって送ってきたんだけど…長持ちするからまだしばらくは平気だと思うよ」
「まぁ、これ食べられるの? すごいわねぇ」
「春先の限定品なんだって」
「なにかしら、これ?」
「日本の行事なんだ。おひなさまなんだって。女の子のお祭りだから、俺全然縁がなくて」
「あら」
 母は何を思ってこれを送ってきたのだろうか。正月に自分と入れ替わりで日本を訪れて、母の様子を見に行っているあの二人の関係に、何か感じるところがあるのだろうか、と、十代目ドン・ボンゴレは考える。
「これはお殿様と姫かしら」
「そうなんだって。女の子の祭りだから、……よい家庭を守れってことみたい」
「まぁ、……それにしても、細かいわね」
「頭からがぶっと齧れるんだって」
「まぁ、ザンコク!」
「だよねー…」
 と、話ながら、回廊の奥から何かが投げられた音が聞こえる。割れた音はなんだろう、あの部屋の窓ガラスはそうそう簡単に割れないから、ガラスの食器でも投げたのだろうか。
 二人してお茶を飲みながらお菓子をつまむ。今日のお菓子はパティスリーミヤケのいちごのマカロンと、ルッスーリアお手製のりんごパイ。
「……最近どう?」
「この前、寒波がきたでしょう。雪が降って」
「ああ、……」
「その後からね、…ちょっと駄目になっちゃって」
「外に出たの?」
「仕事でね。行くときは風が強いくらいだったんだけど、……帰って来るときなんか雪まみれで、コートの下はシャツ一枚だったわ」
 ドン・ボンゴレは少し顔をしかめる。その寒さが肌に感じられてチリチリする。
「ザンザスがいるの?」
「――だから静かでしょう?」
 確かに。
 モノが壊れたり、投げる音はするけれども、分厚いドアを越えてもなお、漏れ聞こえてくるあの悲鳴は聞こえない。それはザンザスがいる証拠で、寒くなると、雪が降ると、風が強いと、突然壊れてしまう恋人の手を握って、ずっと撫でている証拠。
 絶対にザンザスにぶつけない位置でものを投げて壊す、そうして息を荒げれば今度はただ、ぎゅうぎゅうと殺されそうな強さで抱きしめて、泣きわめきつかれるまで名前を呼んで、呼んで、呼んで眠る。
 目が覚めたら元に戻ることもある、そのままどこかおかしいままの時もある。
 太陽が出て、暖かくなって、春になって、鳥が北に帰るまで、断続的にそれは来る。
「今日は静かだね」
「もう一週間ですもの」
「今回は長いね」
「そうね」
 ―――戻ってこない、こともある。
「いつか」
 その先を彼はいわない。ドン・ボンゴレも言わない。たぶんあの、赤い目の男も言わない。その先を、絶対に、口には。
 彼をそうしてしまった人はもうこの世にはいない。関係していた人間はすでに鬼籍に入った。最後はあまり、よいものではなかった。それが報いというものだと、うっそりと十代目は思ったこともあった。自分の血に連なる人間を看病しながら、早く死ねばいいと、少しでも生きていて欲しいと、何度も思ったこともあった。
 今あの扉の中にいるこの城の王は、あのときの自分と同じことを、腕の中の固い骨ばった細い背中を抱きしめながら、思ったことがあるのだろうか。

 いまでもあの銀の髪の副官は、傲慢な鮫の名を持つ白銀の死神は、冷たい氷の迷宮で、いなくなった主を探して探して探し続けているのだろうか。忘れさせられた悲しみや、忘れさせようとした忠誠や、信頼や、恋慕や思慕や哀切や――それこそすべてを越えて人を動かす、愛情という名の毒に、少しずつ犯されているのだろうか。
 主はまだ見つからないのだろうか、迷宮に閉じ込めた悲しみは、父と彼の人が握りつぶしたかまだ青い恋の記憶は。

「今年は早く春になるって言ってたよ」
「そうね、早く春になるといいわね」

 厚い氷は、まだ溶けそうにない。

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