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一ヶ月遅れ

何の折だったか忘れたが。

「そういえばそろそろおまえの誕生日じゃねぇかぁ?」

バレンタインの当日に仕事の話をしている自分たちもいい加減悲しいところではあるが、そんなことを一週間も過ぎてから言われても、ねぇ、という面持ちで、ディーノはくるんくるんの金髪をひらひらさせながら考えた。

スクアーロは「さもすごいことを今思いついた!」と言わんばかりの顔で、ディーノの前で彼を心持上目遣いで見上げている。
普通そんな表情をしても気持ち悪いだけだが、いかんせん顔が綺麗だというのは得がたい資質である。
そんな顔するだけでぐっとくるんだから詐欺だよな、と思わないではないが。

「そろそろっていうか過ぎた。一週間ちょい前」
「え!?そうだったかぁ?てっきりおまえの誕生日、今頃かと思ってたぜぇ!?」
「もっと前だよ。四日。二月の」
「そうだったのかぁ?俺なんか十二日ごろかと思ってたぜぇ」
「ホントかよー」
「ああ。ずっとそう思ってたみてぇ」
「ずっとかよー! 十年も間違って覚えてたんだ?」
「だってその時期におまえにあう機会なんかねぇだろぉ? …そういやいつも二月頭にワイン送ってくるのってもしかしてそれだったのか?」
「………今頃気がつくんだ………」

そんな軽口をたたきながら、ショックだー、と大げさな身振りでテーブルに突っ伏す。
いかにもな嘆きのポーズで、ああ、なんてこったい!と手を振りあげた。

「いやー、悪ぃ!」
「どうせおまえらヴァレンチーノのプレゼント選ぶんで俺のことなんか忘れてるだろ…」
「そりゃしょーがねぇだろぉー? おまえは友達だけど、ボスは違うしなぁ!」
「はいはい」

そんなことを言いながら、持ってきた書類を確認してもらう。本当はザンザスがするべき書類なのだが、あいにくザンザスは、今日のために前倒しで終わらせていた仕事が終わったところに無理矢理、別の急な案件をねじ込まれて必死になってそれを片付けている。
とりあえず必要な調査の見積もりを出す算段と連絡だけつけるところまでやるから、その間は誰が来ても絶対取り次ぐな!と地獄の看守のような顔つきでにらまれたものだから、スクアーロは黙って門番のように控えて、ボスの執務室に届けられる品物を仕分けし、書類を止めて中を確認して、重要書類でもない書類を持ってきて、スクアーロの顔を見に来たドン・キャバッローネを接待している。

せっかくの恋人同士の日だというのに、忙しいことだ。

「いやー、ごめんなぁ。毎年いないから、今日はプレゼントだけ渡して帰ろうかと思ってたんだけどさ」
「今年は運が悪かったぜぇ…」
「悪いな! せっかくの日に邪魔するつもりはなかったんだぜ」
「つーか、なんでこの日に来るんだ…」
「今日しかあいてなかったんだよ」
「んなわけあるか! おまえがこの日にオンナいないなんて信じられ……あ、なんだ、直前に振られたのか、もしかして」
「………言うな……」

笑っているが少しだけ、ディーノの顔が引きつっている。そっかー、気落ちすんなよぉ? こんな時期におまえを捨てるなんて太っ腹な女だな、プレゼント貰ってから別れればいいのによぉ、などと、慰めにもならない慰めの言葉がかけられて、ディーノは力なく笑う。
湿っぽく謝られたらちょっときつかったが、スクアーロの慰めは多少的外れでかえって心が軽くなった。

「おまえもよく仕事なんかしてるなぁ」
「んー、だってボスにディナー誘われてて、一緒に行くつもりだったからなぁ。ボスがいけないんじゃ俺もすることねぇし」
「休みにしてたの?」
「あー、毎年この時期はボスが俺連れてどっか行ってるからなぁ。強制的に休みになんだぁ」
「あ、そういうこと…」
「そうだぁ。まぁ、一応そーゆーことだしよぉー」

内外にカップルであると認められているということを言外に滲ませるスクアーロに照れも気負いもない。すでに慣れているということなのか、すでに「そう」であるということか。

「じゃ替わりに俺とごはん食べようよ~」
「おめぇボスさんに殺されてぇのかぁ?」
「今日はザンザスの仕事が終わるまで、ここから動けないんだろ? パニーニとサラダ届けさせるから、ここで食べようぜ!」
「うちの中でピクニックかぁー? おまえ何考えてるんだぁ」
「ザンザスも一緒に食べる?」
「ボスさんはメシに昼メシに時間かけるの嫌いだかんなぁ」
「じゃ、その後でいいからさ」
「…まぁ、しょうがねぇなぁ。女に振られたカワイソウなボスさんを慰めてさしあげてやるぜぇ。酒はナシだがなぁ」
「えー? ワインも一応持ってきたのにー」
「ボスさんが仕事してんのに護衛が酒飲めるわけねぇだろぉ!」

そういいながらスクアーロは内線をとって、昼食の指示を出す。なんだかんだ言いながら付き合ってくれるスクアーロに驚きながら、ザンザスに内心ちょっとだけ詫びた。

勿論ロマーリオがいないディーノは食事が始まるとすぐに、気を緩めるとすぐにぼろぼろ、食べ物をこぼしてしまうことになって、スクアーロが青筋を立てて怒り出すことになるのだが。
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3月3日は恋人同士の日らしいです。

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