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きみは三日月の夜の星

微妙な内容なのでおりたたみ。DSのようなDXのようなDHのようなHDのような
そして激しく中途半端


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「俺本当はスクアーロが好きなんじゃないのかも」

そんなことを言う跳ね馬は完全に酔っ払っていて、とろんとした瞳はまるで甘い甘い、はちみつのキャンディみたい。舐めたらおいしそう、そんな気がする。
気のせい?

「そうなの? …そうかもしれないね」
「おいキョウヤぁ、そこで否定してくれよなー」
「してほしいならそういう顔すれば。あと名前で呼んでいいって言ってないって何度言えば覚えるんだい」

日本酒って結構、慣れないと回るんだよね。そういえば前にもおんなじこと、あったっけ。
あのときはもうとんでもなく手間がかかってうんざりしたけど。
イタリア人ってもっとお酒強いと思ってた。ワインだったら大丈夫なのかな。

「俺本当はザンザスになりたかったんだよなぁ」
「ふぅん」
「ザンザスはぁー、昔っから、つっても俺、あいつに会ったのってあいつがぁ、養子になってからなんだけどさぁ、そんでもさぁ、なんつーか、すごかったんだよー」
「そう」
「きゅうだいめは俺の名づけ親だけどさー、九代目の親類はみんな俺より年上で大人だしさー、子どもはザンザスしかいないしさぁ……俺がこんにちはって言ったらさー、あいつすげー顔でにらみつけてきてさぁ……もー、俺さぁ、怖くって泣いちゃってさぁ」
「馬鹿だねキミ、あいかわらず」
「なんでだよー? したらすっげぇ勢いで鼻で笑われてさぁ……悔しいというより怖くって。でも結局、他に子どもいないしさー、俺、結局ザンザスに話かけて一緒に遊んだ…ような? 気がするだんだけど、パーティから帰ったら、熱出して三日寝込んだんだぜ」
「知恵熱だね、間違いなく」
「だよなぁー。もうホント怖くって、笑われた顔、夢にみたもん」

日本酒は蔵出しの一番もの。グラスは切子。でも跳ね馬にそんなの渡したら絶対割られるから、そっちには焼き物で勘弁してもらう。そっちのほうがそう簡単に割れない…はずだけど。

「ザンザスはさぁ、子どものときから体大きくて、かっこよくてさぁ…学校でもすげぇ強くて、女なんかみんなザンザスの恋人になりたがってたんだぜ」
「キミもなりたかったの?」
「そういうんじゃないけどさ、……たぶん。でも俺、スクアーロがザンザスの、……ザンザスに気に入られてなかったら、今まで興味が続いてなかったのかもなぁ…って思うこと、あるんだよなぁー」
「別にいいんじゃないのかい。そういうことって、よくあるんじゃない。それで?」
「話聞いてくれるのか、キョウヤぁ」
「なれなれしく呼ぶなって言ってるでしょ。それで?」
「あー、うん、そんでさぁ、俺、」

続きを待って、手酌て酒を注ぐ。冷やした日本酒が喉を落ちるのは本当に、いい気持ち。酒の肴は秋茄子をオリーブオイルでじっくり焼いて、山椒塩を散らしたもの。噛み締めるとじんわりと甘い。酢でしめた魚を細かく叩いて、紫蘇醤油と酢で合えて、醤油にゴマ油をひとたらし。こっちもおいしい。酒にあう。
肴は草壁が作ってくれるのだけれど、かなり本格的。
一応調理師の免許、持ってるんだよね。取らせたんだけど、僕が。
そんなものを口に入れていると、ふと、あたりが妙に静かになっていることに気づく。
視線をあげれば、机に突っ伏して、跳ね馬はすっかり意識をなくしている。
すやすや寝息が聞こえるほどだ。ふわふわのハニーブロンドがキラキラしていて、投げ出した腕の刺青が少し、普段より鮮やかに見える。

「話聞くんじゃないのかい?」

大袈裟に溜息をついても、突っ伏した背中はぴくりとも動かない。完全に沈んじゃって、まったくもう、馬鹿じゃないか。

「……残念、せっかくつきあってもらおうかと思ったのに。案外、弱いんだね、キミたち」

机の上の鈴を鳴らす。次の間にいた草壁が入ってくる。

「それ片付けて」
「あれ、潰れちゃってんですか、ディーノさん」
「返すの面倒だから寝かしといて」
「そうですね、じゃちょっと失礼します」

草壁はすぐに隣の部屋から布団を持ってきて、机に突っ伏したディーノの脇に手を入れ、そこに横にする。ベルトを引き抜いて、腰元をゆるめ、胸元も大きく開けて横にする。それから腰と腹に布団をかけるところまで、流れるような見事な動き。さすがに酔っ払いの介抱は手馴れている。こなした数が全然違うから当たり前だ。

「ちょっとつきあわないかい」
「では、ご相伴に預かります」

杯を傾ければ、伏せたガラスの猪口を返してくるのに一口、注ぐ。

「外国人ってもっと酒に強いかと思ったけど、そうでもないんだね。つまらないよ」
「種類が違うんでしょう、アルコールの。ディーノさんも、スクアーロさんも、日本酒は初めてだ、とおっしゃってましたし」
「あんなに何度も日本に来てるのに、ビールしか飲んでないなんて許さないところだよ」
「それは確かに」
「ふたりとも見事に潰れちゃって、……つまんないな」
「明日は二日酔いですかね」
「そんなの、噛み殺せないじゃない」

退屈。せっかく相手してやってるのに、先に潰れてぐうぐう寝るとか、殺しちゃうよ、本当に。
飲み干した杯を返す。手にした酒の瓶は空になった。

「片付けといて。寝る」
「おやすみなさい、恭さん」

まったく、僕に惚気るだけ惚気て寝るのって失礼じゃない?
おとなしく聞いてやってる僕も相当物好きだけど。
今日は気が向いたんだよ、珍しく。
感謝してほしいくらいだよ、ディーノ。

ディーノはあれで、ものすごい強欲で自己中心的。
ほしいもの、ひとつだけなんて我慢しないんだ。
どっちも欲しいから、どっちもそれでいてほしいから、だからなんでしょ、手を伸ばすの。
僕だって両方、欲しいもの。一つなんて選ばない。
だってオトコノコだもの。
欲しいものは、我慢しないんだよ。

「金の斧も銀の斧も、どうせなら両方欲しいもの」

もちろん赤いルビーも、大振りの琥珀も欲しいもの。
我慢なんて、しない。
みんなとってもおいしそう。
噛み締めたら、どんな味がするんだろう?

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