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これは神の甘露

「…んなことすんなよぉ…」
「黙れ」
「………だ、って……ひ、んっ!」

ぺろ、と真っ赤な舌が見える。見たくないのに見える。見てしまう。見ずにおられるわけがない。そうだたぶんどんなことだって、彼がすることを見ずにおられない。

スクアーロは珍しく、一人掛けのソファに座っていた。背もたれに体をよりかからせて、半分腰が抜けたような姿勢でだらしなく座っている。両手で顔を隠しながら、それでも足元を見ることを止められない。

スクアーロの足元には広い背中がある。大きな広い背中がある。いつもはその背中に、手を回すことをするのも躊躇うのに、その背中が自分の、足元に膝をついているなんて信じられない。
そんなことをこの男にさせるなんてとんでもない。ありえない。貴人に膝をつかせるなんて、それは部下のすることではない。ありえない。

なのにこの男はそれをする。最初ソファに座らされたときは、このままここで抱かれるのかと思っていたのだが、どうやらそうではないらしい。……いや、そのつもりであることは、確かなのだろうけれど。

足の指が性感帯であると、教わったのはこの男からだ。足の指だけでなく、膝の裏、ふくらはぎ、かかとや足の裏さえも、この男が舐めて触れるところは全部、熱を生む源になることを知ったのは、この男がそこに触れたからだ。

「う、…うぅ…っ」

泣きそうな顔で足元を見る、スクアーロの頬は燃えるように赤い。がっしり掴まれた足は、なんとか逃げようともがいていたけれども、ボスの舌が指の間を舐めはじめてしまったら、もう1ミリも動かすことはできるわけがない。この男に怪我をさせることなど、出来るわけがないのだし、逃がすつもりもないザンザスの、掴む指は確実に、力の入るところを押さえていて、動かすことが少しも出来ない。

なんでこんな。こんなことに。

静かな部屋にかすかに、指の間を舐める音だけが聞こえる。犬が水を飲む音のよう、それが耳に入るだけで、スクアーロはもう、死んでしまいそうになる。心臓が信じられない脈動を打つ、体温が恐ろしいほど上がる。指が震える、力が抜ける。

「なんで、んな、こと……っ……」

涙腺が緩む。視界がぼやける。なんで泣きそうになるのかわからない。悲しいわけじゃない。じゃなんだ、いったいなんでこんなことになってるんだ。嬉しいのか? 嬉しいわけがない。

湿った音がして、ザンザスの舌がスクアーロの、小指を舐め終わって唇を離す。形はよいが少し歪んでいるスクアーロの爪と、ザンザスの舌の間に、細い糸の橋が架かる。

「なんでだと?」

長い黒髪の間から、赤い瞳が上目使いに覗き込んでくる。目のふちがほんのり赤くなっているように見えるのは、光の加減か、気のせいか。

「理由なんか決まってるだろ」

食われてるのか、といまさらながらにスクアーロは気がつく。もしかしなくてもいま、食事中だったりするのか…と、スクアーロは真っ赤な顔はそのままで、自分の足元に膝をつく男の顔をマジマジと見る。
ザンザスはいままで舐めていた足を、そっと、うやうやしいほど丁寧に床に置き、今度は反対の足を手に取る。ひくっと動いた足の指をちらりと見下ろして、掴んだ足を、ぐっと引き寄せようとする。先に脱がされた足は冷えていて、表面が少しかさついている。

「よく煮込んだほうがうまいからだ」

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