とはずかたり 「スクアーロ」「ん…?」ああ、まただ。そう思ってザンザスは身を起こす。ベッドの上に。二人で寝るのももう慣れた。もとより一人で寝るのは広いベッドだ。成人した男が二人で寝ても、狭いと思うこともない。それでも同じところに寝ているのか、シーツの下のスプリングはちょうどいい感じに沈む場所がある。そこでこの男を抱いて眠る。寒い時期は特にそうする。床暖房より人の体温のほうがいい。体にも、心にも。それはおまえだって知っているはずだ、ザンザスはそう思うのに。「どうした」「あ、…悪ぃ、起こしたか?」「っ、」そんなことを聞いてるんじゃない、どうしたのか聞いてるんだ。「まだ早いから寝てろよぉ」「…夜中にうなされて起きてるヤツが隣にいて寝られるか」ため息。困っている、という意味ではなく。「悪い、……」体を起こそうとするのを引き止める。だから出て行こうとか考える単純な脳味噌の持ち主の、この男が心底憎い。憎くて憎くて仕方がない。そんなことを言ってるわけじゃない。「寒い」引き寄せた肩がもう冷えている。背中も冷たい。ため息のように吐き出される名前が痛い。「朝が来るまで寝てろ」そうだ、仕事じゃないなら寝る時間だ。夜はその時間だ。動いていた時間の整理と解放、記憶と記録と忘却を、1兆個の細胞の僅か一部分が行う時間だ。悪夢と涙で塗りつぶす時間じゃない。「寝てろ」ようやく撫でていた背中がゆるむ。体中から力を抜く。背中に手を回してくる。命令でないと聞かない耳が憎い。返事をしない唇が憎い。泣いて濡れた目を見せない瞼が憎い。嗚咽を隠す唇が憎い。乾いた汗の匂いがする、銀の髪の感触が憎い。泣いている顔を見られたくないからといって、こんな寒い夜にベッドを抜け出そうとするこの男が憎い。憎くて憎くて仕方ない。どうやったら、この男を憎まずにすませることが出来るのかわからない。愛さなければいいのだとわかっているのに、それができない自分が一番憎い。争奪戦後2年くらい。 [0回]PR