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どこもかしこも甘いので

正装しているスクアーロを見るのは珍しい。

冬にしては雲のない青空、乾燥している冬の空気が太陽の光をまっすぐに突き刺す。
廊下の奥まで光が差し込んで、その光と影の境、かすかなぬくもりを得ようとその間に立つ白い影を認めて、若きドン・ボンゴレは目を見張った。
近年特に、この暗部の副官の冴え冴えとした容貌が、息を呑むほど美しく研ぎ澄まされている――ということを、嫌でも気がつくのはこんなときだ。
黙ってひっそり目を伏せて、気配も殺してたたずむスクアーロの、その姿の美しさといったら――東洋人とは全然、肉体のつくりが違うのだと、そう理解せずにはおられない。

黒ではないが黒に近い紺のスーツ、シャツには細い臙脂のラインが入っている。ネクタイはいつも締めている深い赤のもの。ポケットチーフまで揃っていて、なんだか決まりすぎて怖いくらいだ。

「……こんにちは、スクアーロ」
「久しぶりだな、サワダツナヨシ」
「うん。……隊服じゃないスクアーロを見るのも久しぶり、だね」
「そうかぁ?」
「……うん」
 
返事をするのも緊張する。普通にただ答えるだけなのに、背中に汗がにじむ。
ただゆるりと窓辺に立って、ぼんやりと外へ視線を流す。ただそれだけなのに―――気だるい雰囲気が妙に艶めかしい。
普段は長いままに垂らしている髪を、今日はゆるりと片側に寄せて、銀の髪留めで留めているからだろうか、どこか中世的な厳かな雰囲気が、ぐっと増しているように思われる。

「ザンザスは、――もうちょっとかかるんだ、ごめんね」
「ジャッポーネはすぐ謝るなぁ」
「あ、ごめ、あ、え、あの、ええと」

攻められたわけではないのに、つい言い訳をしてしまうのは、もう、習性のようなものだ。
そらした視線を戻してまた、スクアーロの姿を視界に入れる。
こうしてスクアーロの姿を見るは、そんなに頻繁にあるだけではないが、まったくない、というわけではない。年に数回、あるいは一ヶ月に一回以上は顔を見ることもある。
昔はよく顔を腫らしていた。唇はいつも切れて腫れていて、瞼の上はほんのりと青くなっていて、声はいつも枯れていた。時々右手に包帯を巻いていたし、湿布の匂いがいつもしていた。
最近――ここ数年はそんなこともなくなった。肌はなめらかに光り輝いて吸い付くよう、髪はいつもさらさらでキラキラ、十代目を奪われたときつい目で睨み返されていたのも嘘のように、返される表情もいつしか柔らかく、とろけるように微笑むようになれば――思わず見とれる花の盛りの香りに、わけもなく心臓が跳ねるのも、仕方のないことなのかもしれない。

「今日は随分めかしこんでるんだね」
「ボスさんがこれ着ていけって言ったからなぁ」
「へぇ……あ」
「ん?」
「怪我してるの? そこ」
「あ?」

首をかしげて見下ろすようにしているスクアーロの、うなじからさらりと髪が落ちる。その隙間から、普段ほとんど見ることのない、スクアーロの耳たぶが見える。
つい、そこを指差してしまう。、
あ、思ったより小さいんだ…と、綱吉は、そう思ったのだけれど。

「右の耳たぶのとこ、真っ赤になってる」
「へ……?」

綱吉に言われたまま、耳に手を伸ばして触れて――その途端。
まるで火がついたように、スクアーロの顔に血が上るのを見た。
耳たぶに触れた先からぱあっと赤くなる血が、あっというまに首からうなじから、頬から目元まで――白い肌に赤い血が回って、それはそれは――綺麗な花が咲いたようだった。

「え、あ、あ、あぁ…!?」
「え、あの、スクアーロ、どうした、の」
「あんのクソボス……!」
「え…!?」

耳を押さえて真っ赤になったスクアーロは、それはそれはなんというか、―――なんというか。

「吸いつくにしたって力入れすぎただろぉおがぁ!」
「―――え」

叫んで怒鳴って走っていったスクアーロの、その後姿を見ながら。
耳が赤くなった理由や珍しくシーツを着ている理由に思い至り、真っ赤になったスクアーロにふさわしい言葉をいろいろ思い浮かべてみた。

「あーゆーのって可愛いって言うんだろうなぁ……」


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