ねこいぬにゃんこ 「スクアーロってネコじゃねーかなー」テレビではイギリスの教育番組が流れている。アフリカのサバンナ、猫科の大形肉食獣の生活を撮影したドキュメンタリー。ナレーションはたんたんと、固体識別番号としての名前をつけたその動物の生活を追いかける。一人で、たんたんとえさを探し、水を飲み、木に登り、においをかぎ、繁殖の相手を探しに遠くへ歩き、数年に一度の繁殖をする。メスは一人で子供を育てる。複数の子供を舐めてキレイにし、乳を飲ませ穴倉に隠し、飢えながら餌を取る眼差しを映し出している。「よくゆーじゃん。犬型とか猫型とかさー。そういうので言ったら、スクアーロって本当は猫だよなー?」隣でファッション雑誌をめくり終わったルッスーリアが、新聞に視線を落としながらそれを聞いている。「そうねぇ。確かに、始めてみたときは子猫みたいだったわ。跳ねッかえりで身軽で、毛並みもぴんぴんしてたわ」「本質が猫だよなぁ。……ホントは」画面ではケモノが数日続いた雨の後、ようやく巣穴を出て狩りに向かった姿を追っている。飢えたケモノの背中は鋭い。ふらふらになりながら、それでも狩りを成功させて、獲物を食べて巣穴に戻る。他の動物も飢えていて、ハイエナに横取りされる可能性は高かったけれど、幸い満足するまで食べることが出来たケモノは、日暮れになって巣穴に戻る。その姿に気高さを、感じてしまうのは気のせいかもしれないけれど。「ベルちゃんは猫っぽいけど犬かもしれないわね」「んなわけねーだろー。王子は高貴な猫なの」「怠惰ですもんねぇ…、猫の代名詞みたいなもんじゃない」「なんだよー猫が仕事しなかったからペストが流行ったんだろー? 仕事してるじゃん、ちゃんと」「でもほとんど寝てるじゃない」「肉食獣が勤勉に仕事したら、獲物がなくなるだろー?」「そうねぇ……あら、だから狩りをしすぎてるのかしら」「センパイがー?」「犬の生活が長すぎたのかしら」「犬のふりしてるだけじゃね?」「今まではね。今は、狗――に、なろうとしているのかも、しれないわ」「そういえばさ」新聞のコラムはフランスの育児制度について書かれている。殺し方を考えている自分たちが、そんなものを読んでいる不思議。子供は嫌いではない、とルッスーリアは思う。「ボスって猫だと思う? 犬だと思う?」「……ボス? ボスねぇ……今の生活は猫そのものよねぇ……」「でも俺等の集団のボスだろ。それって犬とか、狼の集団じゃねぇの」「どっちかっていうとライオンかもしれないわぁ」「ライオンって猫じゃん」「でも集団で生活するのよ、ライオンって。オスは何もしないの。トップのボスは何もしないで、言い寄ってくる敵を追い散らすだけ。メスとその子供たちが、餌取ってきたり子育てするんですってよ」「へー?」「ボスの命令に服従する、ってところは私たちは狼の群れかしら」「だからセンパイも必死に犬の振りしてるわけ?」「そうかもしれないわねー」ふうん、納得したのかしないのか、怠惰の王子はルッスーリアに向けていた顔を、テレビ画面に戻してしまう。画面では巣穴に残った子供が一匹、敵に見つかって殺されたのを見下ろし、一晩抱いて寝ている姿を映している。犬のふりをしつづけていて、猫は疲れないのだろうか。猫は命令を効くのも、指示通りに何かするのも、本当はあまり得意ではないのではないだろうか。猫は爪を研ぐことを忘れたら歩けなくなるという。体に刃を帯びたまま、その刃を研ぐのは、研ぎ続けるのは、それは一体どんな心地だろう。「今頃どこにいるのかなー」「さあ。今日の仕事は国内だから、あさってごろには帰ってくるでしょう」「ボスは本当は犬なんじゃないのかな」「なんで?」「センパイがいないとなんか静かじゃん。ごはん食べても、全然おいしくなさそうだし」「スクちゃんが飼い主ってこと?」「…そうじゃないけど、……」「どっちが本当は飼い主なのかしら」「ボスが主人でセンパイが犬じゃないのー?」「そうだといいわねぇ」そういいながらルッスーリアは雑誌を閉じる。テレビの画面では、死んだ子供を一晩抱いて気が済んだのか、朝には生き残っている子供を連れて巣穴を移動する親の背中を写していた。「センパイって犬だったらセッターとかじゃねー? 足長いし」「そうねぇー。そんな感じだわー」「まぁでも鮫だから、そんなに頭よくねぇんじゃね?」「駄目よ、本当のこと言っちゃ」「ヒャハハ!」階上の部屋ではお気に入りの犬がいなくて寂しい飼い主が、無聊を慰めるためにしゃかりきになって仕事を片付けているのだろう。そんな飼い主の様子を、おそらく犬はけっして見ることは出来ないのだろうけれども。「犬でも猫でもいいわ、必要なのは愛情だもの。スクちゃんはいいコでしょ、手入れして綺麗にしてあげてるわ」「だーねー」-----------------------------------2月22日に上げようと思ってたんですがすっかり過ぎてますw間抜けすぎるwww [1回]PR