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また会いましょう

空がどこまでも高かった。

「すげぇいい天気だなぁ!」
「そうだな」
「ドライブ日和だぜぇ!」
「日に焼けそうだ」
「そうかぁ?」
「サングラスはしたほうがいい」
「ん、…したほうがいいかぁ?」
「キスするときに目が赤いと興ざめだ」
「そっか」

言われてようやく、ブルーグレーのサングラスをかける。
2シーターのオープンカーの幌を跳ね上げて、ハイウェイを走る。助手席には綺麗で頭の足りない愛人、普段のシャツを脱ぎ捨てて、ザンザスは珍しく襟のないシャツを着ている。
量販店で買ったTシャツに赤いフランネルのシャツジャケットがよく似合っている。店内のポスターよりも男前だ。
同じく隣で外を見ながらはしゃいでいる愛人は、長い銀の髪を半分に切ってしまっている。
腰まである髪は背中の半分までになって、軽くなったぶん風によくなびく。
ばさばさ煩いほどだけれど、それは耳に心地よい音楽のようでもある。排気音にまぎれて、それほどよくは聞こえないのが惜しい。
色違いのTシャツに派手なピンクのボーダーのフリース、緑のチノで決めて、ちょっとトウがたったロッカーのよう。カジュアルな格好もちゃんと似合うのだと、改めてザンザスは気がついた。

「すげぇなぁ!」

高速は山を登ってゆく。ゆるやかなカーブを曲がりながら空へ向かっているかのよう。目前に迫る山肌に、助手席の恋人が手を伸ばして、捕まえるようなしぐさ。

「あの山にダイブしちまいそうだぜぇ!」

スクアーロは珍しくずっと笑っている。朝からとても嬉しそうで、いままでに見たことがない顔でずっと笑っている。
それはかつてみた14歳の子供の顔に似ていたが、それよりもずっと綺麗で――そう、それが綺麗なものだと、認めざるを得ないほどに――ずっと磨かれていて、育っていて、まさに花の盛りの風情だった。煩いと思っていた声も、うっとおしいと思っていた髪も、少しもザンザスに苦痛を与えない。
与えることは、もうない。

「してみるか?」
「はっ、本気かぁ?」
「いいぜ。しても」

本気だとそう告げても、きっと信じはしないだろうけれど。

「車の片付けすんの面倒だろぉ! まぁ死んじまったら俺たちにゃー関係ねぇけどなぁ!」

ここへきてまだそんなことを言うあたりがなんだかひどくおかしい。

「どこがいい」
「海がいいなぁ」
「海か」
「山でもいいなぁ」
「そうか」

もう何もかもが面倒だ。何もかもが行き詰まりだった。
けれどひとつだけ、わかっていることがあった。

「行くか」
「どこ行くんだぁ」
「どこでも」
「どこでも?」
「どこでも」

もうどこにも、一人でいきたくはない。

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