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チェールケミカルラッセルソルブロン

手渡された箱の中身にスクアーロの目玉が零れるほどに見開かれた。
ぱちぱち、まばたきの音がするんじゃないかと思うほど、長い睫毛がせわしなく上下する。
ザンザスはそれを顎に手の甲を当てて鷹揚に眺める。まずは第一。この顔が見たかった。
予想以上に驚いた顔に、ザンザスは大変深く満足する。最近はスクアーロはあまり怒らなくなって、不器用ながらに表情を隠そうとするようになっている。ぞれは全然成功していないが、なるべく、つとめて、表情を出さないようにしているのが分かる程度には、隠そう、などという小賢しい真似をするようになった。
そんなことはしなくてもいいのだ。
次に視線がこちらに向けられる。また箱のなかに戻る。二度ほどそれを繰り返し、スクアーロの唇が何か言おうと息を吸う。
「サイズはあってる」
すうっと吸った呼吸が、吐き出される前に止まる。ヒッ、という音になる。
「特注だ」
次にどんな言葉が続くのかを知っている。バカな、冗談じゃない、何考えてるんだ、おまえどうかしてるんじゃねーのか、おおよそ考えつく限りの罵詈雑言をスクアーロの口は吐き出すだろう。
そうなる前に言葉を封じることが出来るとは思わないが--それを聞くのも悪くはないが--言いたいことを言うほうが先だ。
「着るな?」
「…本気かぁ…?」
「お前に選択肢は二つある。ここで着るか、あとで着るかだ」
「一応聞くけど、あとっていつなんだ?」
「そうだな、……明日の夜から明後日までとかどうだ?」
「…冗談、……」
「ここで着るなら明日の朝まででいい」
「……俺が着ないって選択肢はねぇのかぁ?」
「ねぇ」
スクアーロががっくりと項垂れる。しばらく脳内で色々くだらないことを考えているのが見て取れる。お前が何を考えていても、それには大した意味はない。どうせ最後には俺の思う通りになるのだ。
「…今日の仕事、」
「何もねぇだろ。明日から休暇だしな」
「わかっててやってんだろ…」
「そうだ」
ザンザスはとても嬉しそうに笑う。それはまさしく悪魔の微笑みだ。スクアーロはそれに一瞬見とれてしまい、次の瞬間には悔しさにぐっと奥歯を噛み締める。悔しい。何が楽しいのかスクアーロにはわからない。けれど確実に今ボスはとても楽しそうだ。
嫌がらせに過ぎないことはわかっている。スクアーロのプライドをへし折るのが楽しいのだ。わかっているのに、そうされるのが悔しくて仕方ない。
「ここで脱げ」
心底嫌そうにスクアーロが手の中の箱の中身を見る。そうしてまたザンザスを見る。
「ここでかぁ」
「そうだ」

スクアーロは手元の箱を手近のソファに置く。箱は淡いピンクの薄いものだ。上質なパールでコートされていて、可憐でありながらシンプルなロゴが控えめに印刷されている。
それを嫌そうに見ながら、スクアーロはシャツのボタンに手をかける。ぷちぷちと手早くボタンを外す。スクアーロは片手が義手だが、非常に器用にて日常生活の動作をこなす。
シャツのボタンを外すのもお手の物だ。
ズボンの中からシャツを出して全部前を外し、それを肩からばさっと脱ごうとしたところでザンザスから停止の合図が入る。もっとゆっくり脱げと言われる。スクアーロには意味がわからない。けれどそれのいうことを聞かないという理由がない。理由がないからいうなりに、ゆっくりシャツを脱ぐ。手首でシャツが止まる。片手を順番に抜く。
アンダーのシャツをまくりあげる。手を上げ下げするたびに、スクアーロの体から服が消える。
それをザンザスはただ見つめている。視線をそらなさい。その視線には熱がない。
下着まで全部脱ぎ捨てたスクアーロの、薄いしなやかな体が嫌そうに箱に体を向ける。半分背を向けたスクアーロの、長く伸びた髪の下から、こぶりで形のいい尻が見えるのはなかなかによい眺めだ。ザンザスはそれが見たくて、ときどきスクアーロの後ろ姿を眺めている。

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