テイクアウト 最近休みをあわせて街に出るようになった。いままではスクアーロがあまり乗り気でないザンザスを連れて外に出ることが多かった。けれど先日、ザンザスの誕生日に何を贈ればいいのかわからない、というスクアーロに、「おまえの一日を全部よこせ」とザンザスが言ったのだ。何か思うところがあったのか、ザンザスが先導して街に出た後から、すっかり立場が逆になってしまった。今日もザンザスはスクアーロの手を引いて、お気に入りのサンドイッチの店に向かう。なぜかはわからないが、ザンザスは最近出来たこの店が非常に気に入ったらしい。前からどうしても行ってみたかったらしく、誕生日の翌日、私服のラフな格好でふらりと街に出て、スクアーロが「最近出来た店だぁ」と言ったのについ、ひかれて入ってから、とりつかれたように毎回、スクアーロを連れて行くときはいつも、その店に向かってから、街を歩くことにしているのだ。一人で歩き回っても別に問題はない。ボンゴレの十代目はすでに東洋出身の青年に継承されて久しい。ザンザスの裏の仕事は表に出ない。彼の本当に姿を知っているのはもれなく同業者ばかりで、知っている人はもちろん、こんなところで彼を襲うような愚は犯さないから、その実彼は大変に安全な身の上だ。それでも彼の副官は、彼の情人は、長年の習いを変えることなく、一人で彼を外出させようとはしない。そうなると、結局二人で一緒に外出するしかなくなってしまう。傍目には完全にただのデートに過ぎないけれども。「ローストビーフ」ザンザスが頼むものはいつも肉だ。「またかよぉ」「俺はこれが気に入ってるんだ」「カロリーすげーじゃねぇかぁ」「気にすんな」「するぜぇ!」そんなことを言うスクアーロはいつもツナかターキー、カロリーの少ないさっぱりしたもの。オーダーを出しながら、スクアーロはいつもザンザスが、「野菜はこちらが入りますが」と聞かれた後で、さりげなくパプリカを抜こうとしているのを止めてしまう。舌打ちをしながら、絶妙のタイミングでスクアーロが自分の分を注文している間に、ソースをハーブ&バジルから、バーベキューに変えてやった。スクアーロがオニオンを増量させている。輪切りのトマトがはみ出す。倍のサイズのパンズに、あふれるほどの野菜と肉を挟み、さらにトッピングにホースラディッシュを追加する。スクアーロは毎回、ザンザスの分量を見てはうんざりした顔をする。スクアーロのオーダーはザンザスの半分のサイズに野菜があふれている。まずいまずいといいながら、カフェを頼んでしまうのを見て、ザンザスは少し笑ってしまった。包みを持って丘へ登る。天気がいいので、あちこちでみなが持ってきた食べ物を広げて食べている。飲み物の持ち込みが許されているが、タバコや火気は厳禁だ。公園の中には掃除人が巡回していて、ゴミ箱以外にゴミを捨てると罰金を取られる。はむっとパンズにかぶりつく。ゴマの練りこんであるパンズは歯ごたえがあって、重い。ザンザスは歯ごたえがあるものが好きだ。重厚で頑丈なものが好きだ。そうでなければ、ザンザスの熱に耐え切れず、焼けて焦げて溶けてしまう。隣で同じようにパンズにかじりついてるスクアーロのような、重くて強くて頑丈でなければ。バーベキューソースは味が濃い。途中で買ったジンジャエールがちょうどいい。ジャンクフードを食べるザンザスを、スクアーロは最初ものめずらしそうに見ていたが、ようやく慣れてきたようで、今日はこちらをあまり見なくなった。見なければ見ないで、少しつまらないような気がすると思う。スクアーロは昔、あまりおいしそうに食べ物を食べない子供だった。懸命に大きな口にものを詰め込んで、咀嚼して、飲み込むので精一杯、という食べ方をした。ザンザスはそれが気に入らなくて、ちゃんとしたテーブルマナーを叩き込んだ。教えればちゃんと覚えて、すぐになんとか見られるようになったけれど、その結果を確認することが出来たのはずっと後のことだった。それでも当時のスクアーロは、あまり食べ物をおいしそうに食べていたような記憶はない。二十二歳のスクアーロは、本格的なディナーも、それはそれは綺麗に食べられるようになったけれど、それは綺麗に食べているだけで、まったくもっておいしそうではなかったのだ。決められた手順の通りにきちんと食べるように、教わったことをただ繰り返しているだけにしか見えなかった。今はそうではなくなった。ちゃんと食べ物を「おいしそう」に食べるようになった。食べながら、ちゃんと、「うまい」とか「おいしい」とか言うようになった。視線に気がついてスクアーロがこちらを見ている。何かあるのかと聞きたそうな顔をしているが、口にものを入れているので、しゃべれないらしい。ザンザスも口にパンズを含んだままなので、互いにもぐもぐと咀嚼しながらしばらく見つめあう。意図せずに。「あ」「ん?」何か言いたいわけではないのに口を開いて、結局何も言えずにまた口を閉じる。そして手の中のパンズを食べる。気がつくとまたスクアーロを見ているザンザスをスクアーロが見る。スクアーロの手の中のサンドイッチはなかなか減らない。結局食べ終わるまで三回、二人はなんとなく見つめあうことになった。なんとなく。 [11回]PR