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人はそれを       と呼ぶ

心臓が飛びだすかと思った。

何気ない午後のひと時だったはずだった。
今日は仕事が速く終わって午後は何もなかった。予定は本当に何もなくて、ザンザスは久しぶりに読みかけの本が読めると思っていたところだった。なのに昼食を持ってきたスクアーロが「ここで食べてもいいかぁ?」と聞いてきて、最近気に入っているアメリカのソーセージをはさんだパンをに食いつきながら、手にした書類を眺めはじめたのだ。
邪魔だ、というつもりだったがパンをかじるスクアーロがあまりに必死だったので、出て行け、と言いそびれてそのまま黙っていた。ザンザスの返答で彼が意識的にイエスということはまずないので、駄目だといわなければたいていのことはイエスになる――イエスだと理解される――ことになっていた。スクアーロの頭の中で。

それはともかくザンザスはあわただしく昼食をとるスクアーロを横目に見ながら、普段の簡単な昼食とは打って変わって、ゆっくり、のんびりと食事を取った。スクアーロは大食いだったが下品ではなく、そして食べるときに一切の音を立てない。昔は食べている姿がものすごくまずそうで、見ていて不愉快になったものだったが、最近は少なくとも「まずそう」ではなくなってきていた。見ていても食欲がなくなるようなことはない。増すようなこともないが。
ザンザスはゆっくりと硬い塩気のないパンを租借し、挟み込まれたぱりぱりのレタスやカリカリの鶏肉や、しみこんだトマトソースを堪能した。ほどよく酸味のあるピクルスやみじん切りにされているオリーブの実をかみ締め、スープの中に溶かし込まれたコーンの甘さと塩気に舌鼓を打ち、コーヒーに添えられたビスコッティを小気味よくかじった。ふたつめ、とろりととけたチーズとベーコンが挟まったパンの中に練りこまれたバターの香りを感じながら、目の前で動く人間の動きを目で追った。

スクアーロは書類を眺めながらもぐもぐとクチを動かし、書類をめくりながらコーヒーを飲んだ。下を向いたら髪が目に入ったのか、あいている手で前髪をかき上げて耳から後ろに流して、指先で髪を弄っていた。
口の中に入っていた肉を食べ終わり、底までカフェを干して、カップをテーブルに置いて。
書類を置きながら、ふっと目を上げる、その瞬間。

しゃべり始める一瞬前の、そのスクアーロの顔が、中から光り輝いているように見えた。
バチカンの聖母像より神々しく、ラファエロの天使よりあどけなく、ボッチチェリの女神より美しい。
まばたきをする一瞬前の残像のような、一瞬だったがしかし、目の網膜の奥にがっちり、金の針で刻んだような、寒気がするような美しい顔を、スクアーロはしていた。

ほんの一瞬だったが。

ザンザスはおもわずすべての動きを止めて、スクアーロの顔を凝視してしまった。
今見ていたものが、幻ではないのだと、理解しがたいかのように。
あれは夢でも幻でもないと、今見たものはなんだったのかと、自分に問いかけ、問い直し、聞いてみたくなるような、そんな気がしてならなくなった。


スクアーロが、ボスの表情に驚いて、声をかけるその10秒前のことだ。



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毎日これ発見

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