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俺のカス鮫がこんなにかわいいわけがない・1

その日、ザンザスは何度目かになるかわからない感覚に翻弄され、ほとんど呼吸が満足に出来ない状態だった。息も絶え絶えで、意識も時々ブラックアウトした。早い話が目をあけたまま気絶しては覚醒するのを繰り返していた。いつもどおりにほとんど表情がかわらず、しゃべりもしなかったので、目の前にいる人間に知られることはなかったのが唯一無二の幸いだ。

「…このファミリーの南のほう、小さい町があるんだけどよぉ、そのファレンナを仕切ってるマリアーノ・ベッツァが今回の情報をよこしたとこだぁ。裏取ったが信憑性は8割ってとこだな。で、この入江にアルバニアから船が入ってきてる。それを調査し、密貿易の内容の証拠を取ってくるのが今回の任務で、情報屋からのネタで現場を押さえた結果、密貿易の荷物は…」

ザンザスの執務室の机の前で今回のミッションの内容の説明をしているスクアーロを、ザンザスはさっきから穴が開くほど真剣に見つめている(ように見える)。
スクアーロは至極真面目に仕事の報告をしているだけなのだが、ザンザスはスクアーロが部屋に入ってきて、こうして説明をしている間、大変に困ったことが自分に起こっていることを実感した。

そもそも最初からおかしかった。

スクアーロが戻ってくるのは二週間ぶりで、今回の任務のため、少し離れた海沿いの港町にしばらくとどまっていることになった。間に別の用事が入ったり、予定が延びて現場を押さえて証拠を取る日が変更になったりで、一週間の予定が倍になった。
そのせいかどうかはわからない。
わからないが、天井の高い石つくりの廊下を歩く大きな足音が聞こえてきたときから、ザンザスの頭の中では教会の鐘の音が鳴り響いていた。
幻聴に間違いはないが、しかし、それは確実に音を大きくし、スクアーロの足音と同じリズムでザンザスの耳の中で響いている。

「ボス! 久しぶりだなぁ!!」

相変わらずノックもしないでスクアーロが部屋に入ってきたときには、まさに耳をつんざく勢いの大音響で、リンゴンリンゴン、ザンザスの耳の中で鐘の音が鳴り響くばかりであったのだ。

しかも。

「あ、…ああ」

なんだかありえないほどスクアーロがかわいく見える。

ザンザスはいよいよ自分の目がおかしくなったんじゃないかと思った。
スクアーロが部屋に入ってきたときから、スクアーロの周りに何かキラキラキラキラしたものが見えるのだ。それがスクアーロの髪や頬や唇や瞼に乗って、動くたびにキラキラキラキラ光って見える。しかもなんだか、スクアーロが部屋に入ってきた途端、ものすごくいい香りがしたような気がするし、ものすごく気持ちいい風が吹いてきたような気がするのだ。
気のせいだ…と思うことも忘れて、ザンザスはその状態に軽く眩暈を起こした。そしてそのまま目をあけたまま気絶した。

「ボス? どうしたんだぁ? 疲れてるのかぁ?」
「あ、…いや……任務の報告、しろ」

スクアーロの声で目が覚めた。目が覚めたとたんに口が勝手に言葉を続けた。条件反射っておそろしい。ザンザスは何も考えずその言葉を口にして、あっと思ったが後の祭りだった。

「あ゛あ! ちゃんと報告書作ってきたぜぇ!」
「読め」
「おう」

うわー!! なんでそんなこと言ったんだ俺!!!

ザンザスは自分が何を言ったのかそのときまったくわかっていなかった。目が覚めたらやっぱり、目の前のスクアーロは長い銀の髪がキラキラしていて、白い頬に少し血が巡っていてほんのりと赤くなっているのがキラキラしていて、瞬きするたびに目元に光の小さい粒が集まっているみたいにキラキラしていた。唇は相変わらず薄かったが血色がよく、荒れていなくてキラキラしていた。報告書をめくる皮の手袋も、だいぶ着古していたが手入れがいいようで、塗りこんだハンドクリームが部屋の明かりを反射してキラキラしていた。
とにかくスクアーロの全身から、固くて小さい音がするようで、キラキラキラキラシャラシャラしていた。
そして報告書をめくる指先が愛らしく、長い前髪を耳にかける仕草が猛烈に可愛らしく、静かに話し始める声がいつもの割れた声ではなくて静かな低い声だったので、それがまたものすごく可愛らしかった。

……なんだかスクアーロが猛烈に可愛く見えて、ザンザスは困ってしまった。
こんなことがあるわけがなかった。カス鮫がこんなにかわいいわけがないのだ。こいつは今年二十五になった独立暗殺部隊ヴァリアーの次官のスペルビ・スクアーロなのだ。
こんなにかわいくてかわいくてかわいいなんてわけがない。

だからこれは俺の気のせいだ。気の迷いだ。病気かなにかだ。そうに違いない。こいつが俺に移したのに違いない。俺に移して置きながら、こいつはどうなんだ、こいつはこんなことになったりしていないのか。なんだか許せん。

そう思いながらザンザスは、報告をするスクアーロを、じっと見つめていたのだった。本人は見つめていたつもりだったが、いつにもまして機嫌が悪く、目つきも悪く、眉間の皺は一割増しで、ほとんどにらみつけるような顔で見つめていたので、スクアーロ本人は、仕事が伸びたのでボスさん怒ってるのかなーと思っていたのだった。



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