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大人の戦闘方法

諦めないのは子どもの特権だが、諦めるのを諦めるのは大人の技術だ。
ザンザスはそんなことを考えた。
ザンザスはいろいろなものが諦められなかった。
欲しかったからだ。
欲しくて欲しくてしかたなかったからだ。
手に入るところまで来ていたからだ。
手に入ると思っていたからだ。
手に入るものだと、信じて努力してきたからだ。

だが結局、それは何も手に入らなかった。
残念な、ですませるには苦い事実を、認めるのに時間はかかった。
だがそれよりもずっと、出来ないことを諦めることを、何度やっても出来ないことを、諦めるのを諦めることのほうが大変だった。
十年もあれば、十分身に染みるほどには諦められるようになる。

自分がさびしいということ
自分が弱いということ
自分が怖がりだということ

そんなことを実感することを、諦められるようになった。


「おい、まだ着替えないのかよぉ? いい加減なんか着てろぉ、風邪ひくぞぉ!」
「うるせぇ」
「そういうものぐさなボスさんに朗報だぜぇ。今日のパーティは急遽中止だぁ」
「あ? どうした」
「主催が新型インフルでぶっ倒れてパーティどこじゃねぇってよ。病院行って注射して絶対安静面会謝絶だぁ。感染防止のためだとよ」
「そいつは難儀だったな」
「一週間はなるべく仕事場の人に会わないでください、だってさ。ついでに週明けの会議も中止。ボンゴレ本部はジジィが多いから、当面はネット会議ですませろってさ」
「風通しがよくなっていいじゃねぇか」
「葬式が続くと大変だぜ?」
「仕事が増えてなによりじゃねぇか」
「それもそうかぁ!」

目の前にぽんぽんと着替えが置かれて、それを手にして順番に身につけながら話を続ける。洗面所でグルーミングはすませていたのでシャツのボタンを締めながら立ち上がれば、スクアーロがすぐにシーツをはがして新しいのを出してベッドメイクをする。脇によけてズボンを履き、ベルトを締めればリネン類をかかえて、副官が部屋を先に出てゆく。
隣の部屋にはブランチの準備がしてあるのだろう、食べ物のにおいがした。

「まぁそんなことで今日はなんもねぇぞぉ! どうする?」
「おまえは」
「俺は今日のパーティの護衛と会場整備に行くはずだったんだぜ?」
「暇か」
「あんた今日は休んだほうがよくねぇかぁ? ここんとこ毎日朝まで仕事してただろぉ?」

そんなことを何故知っているのか――と、問いただしたいのをザンザスは我慢した。聞いても帰ってくる言葉はわかっている。それを喜んでしまう自分がいることも、その意味に落胆してしまう自分がいることもわかっている。

「おまぇも暇だな」
「まぁ天気悪いし、色々辺りがきな臭いから、気をつけろぉ。あんた仕事しすぎであんまよく眠れてねぇんだろ?」

そんなことを知っているくせに、一度もベッドに入ってこないこの男を。

大切でいとしくてたまらなくて、肌に触れてほしくてさみしくて、冷たい細い薄い体を、抱きしめてただ眠りたいほど疲れていて心細くてたまらないのを、微塵も理解しないでいるこの美しい男を。

愛していることをやめられないことを、ザンザスはすでに諦めている。

あとはもう長期戦だ、制限時間は、彼がそれを諦めるまで。
ザンザスはこの戦いに、今度こそ勝つつもりでいる。
それだけは、諦めるつもりはなかった。

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