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心臓を守る空白

彼は戦わなくてはなりませんでした。
どうしても、その業火の戦いの中に、身を投げなくては治まらないなにか、手に入らない何かを得る必要がありました。
そのために、戦わなくてはならないことも。
しかし彼はどうしても勝ちたかったのです。戦うだけではなく、勝つことが重要でした。
「おまえの心臓は赤く燃えていて綺麗ないろをしているな。俺には心臓がない。おまえの心臓の火を貸してくれれば、俺はおまえの心臓を守るだろう」
銀色の型代がそう彼に問いかけ、彼はその取引に乗りました。暴いた型代はその名のとおり、胸の中はからっぽで、なるほど彼の心臓を隠しておくにはふさわしい場所だと思ったからです。

型代は大変強くて立派でした。びゅんびゅん刀を振り回して、彼のはるか先を走って敵をばさばさと倒してゆきます。彼は心臓がないものですから、どんな攻撃を受けてもびくともしません。彼は負けることがありません。どこまでも戦って、勝ち続けることが出来るのです。
「おまえの心臓はすごいなぁ!ほんのわずかの炎で、俺は燃えそうだぜぇ!」
型代はそう言って、いっそう高く飛び、早く走りました。腕がもげるほど、足は折れるほど、型代は襲い掛かってくる敵を倒し続けました。彼はその後を悠々とすすみ、最後の敵と戦うまで、全ての力を温存することが出来たのです。

彼が戦うのはたいへん大きな敵でした。それと戦うために、彼は少しも自分に傷をつけるわけにはいきませんでした。全力で戦わないと勝てそうにない相手です。型代に心臓を預けているので、彼は死ぬことがありません。型代はそもそも生きているわけではないので、どんなに刺されても死ぬことがありませんから、彼にとってそこは最高の宝箱でした。

彼は敵と戦いました。はげしいはげしい戦いでした。
彼は敵に勝ちそうでした。型代だって、ぜったい彼が勝つと思っていました。

けれど彼は負けてしまいました。罰として、冷たい氷の中に閉じ込められてしまったのです。炎の心臓が止まってしまって、彼が動くことを止めてしまいました。

たいへんです。
彼に心臓を返さなくてはなりません。

型代は、もしここで彼に心臓を返したら、冷たい氷ですぐに止まってしまうだろうと考えました。それに彼が心臓を型代にかくしたとき、型代はそれをどうやって彼に戻せばいいのか、その方法を教わらなかったことを思い出したのです。
型代は胸の中にしまっておいた、たいせつな心臓を守ることにしました。冷たい氷が溶ければ、彼が心臓の戻し方を型代におしえてくれるでしょう。そのときまで、大切な心臓を、守っておればいいのです。
さいわい型代は彼の心臓の炎のおかげで、動き続けることができたので、氷が溶けるまで、待っていることなどかんたんにできそうだと思いました。
心臓を守っていることは誰にもひみつです。彼の敵に知られたら、心臓を奪われてしまいます。
型代は秘密を胸に仕舞いこんで、彼の心臓を守ることにしました。
彼の心臓はたいへん熱くて立派で見事な赤い炎でごうごうと燃えていましたが、たいへん脆くて壊れやすいので、守るにはたいへんな注意が必要でした。
型代はそれを空っぽの胸の中にたいせつにしまって、氷が溶ける日を待ちました。

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