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悪魔のお城の悪魔の王様・3

外側をシリコンだけ巻くのでは重過ぎる。骨組みはチタンにマイクロファイバーを編みこんで、薄く延ばしたシリコンを重ねた間に緩衝材を薄く、薄く伸ばして挟み込んでいる。透明度は必要ないが、伸縮度が微妙に違う材質を張り合わせるのは案外骨が折れたらしい。あんまりしっかり固くても駄目で、関節のところで曲がる必要がある。普通の手ほど曲がらなくてもいいけれど、不自然にならない程度には、ゆるく。爪の先まで再現されたまがい物の指の中はコードとパイプ、仕掛けに電気は使わない。電動の仕掛けは案外誤作動を引き起こしやすい。最近は赤外線がそこいらじゅうに回っているのだ。歯車もできるだけ少なくして、シャフトは頑丈に、故障は最小限に。中身を取り出して点検出来ないので、丁寧にしつらえる。全体の重量が少し増えた分、肘に補助の固定具をまわして、重みを分散するようにする。左のほうが筋力があるのは確かだが、あまり負担が増えてもよくない。
軽くするのと頑丈にするのは正反対な要望だが、彼の「仕事」を考えれば、それは必要最低限な機能。幸い金銭面に関しては、何を使ってもいいといわれている。

「確かにちょっと重いなぁ」
「動きはどう」
「んー? なんか、少し、重心が…」
「どっちにずれてる?」
「前…かな」

エンジニアは偽者の手を握って、マジックでしるしをつける。ここらへん? いやもう少し前。ここらへん? あと少し。5ミリくらい。 ここ? あと2ミリ右ってとこかなぁ。

小指の角度を少し内側に削って、人差し指が少し短く。腕の接続部分が動かすとずれるからなんとかしてくれ、そうだねそれは内側を少し削ればいいかもしれない。腕、痛くない? 材質にアレルギーが出るかな?

新しい義手は前のものより少し長い。柘榴との戦いでもぎ取られた腕の分、左手の手首から少し先までの前回とは、そのぶん少し重くなる。

「義手が重い分、剣を軽くするか、短くしたほうがいいんじゃないのかな。肩と背中に負担がかかると、今はいいけど、そのうち腕が上がらなくなると思う」
「そうだなぁ、考えてみるぜぇ」
「幸い、ドン・ヴァリアーは資金に糸目をつけるような人じゃないみたいだし。特にアンタには」
「そうだなぁ、切れない刀に価値はねーだろぉー」
「そういえば日本の刀って」
「ん?」
「途中から武器としての意味よりも、持ち主を災いから守るって意味のほうが強くなったって。魔物や悪霊や不幸や間違いを断ち切ることが出来るから、ってんで、子どもが生まれたら、守りの刀を作ったりしてたらしい」

そんなことを言うメカニックに他意はないように見える。
見えるがしかし、若い外見でもミルフィオーレのメカニックとして、そしてチョイスの参加者として、ものを作ることにかけては比類なき才能の持ち主。
プロトタイプのモスカのデータのオリジナルを持っているヴァリアーの倉庫の中で、ニュータイプのモスカの実用実験をするための機体を作っている日々。
それはどちらかというと「オマケ」の用事。プロトタイプモスカのデータと毎日のおいしい食事と引き換えに、ドン・ヴァリアーがドン・ボンゴレに請求したのは、副官の義手の新規製造とメンテナンス。
本当は、そのためだけに呼び寄せたメカニックエンジニアを、もっともらしい言い方でこの暗殺部隊の屋敷に出入りできるようにさせただけ。機密漏洩の意味も含めて、エンジニアはその間中、本部でほぼ軟禁されているような状態。
けれどスパナはそれを嫌がるわけでもない。
モスカを作れるならどこでも実はどこでもかまわない。ドン・ボンゴレのイクスバーナーをコントロールするコンタクトレンズはほぼ完全版で、細かいバージョンアップくらいしかすることがない。それよりも今はドン・ヴァリアーの持つ憤怒の炎のほうが興味深く、それを身近で観察できる今の環境のほうが、メカニックには好ましい。
さらに三食おいしい食事が出てくるのも、仕事に関しては文句を言われないのも、実はボンゴレよりもこちらのほうが、スパナにとってはいい環境でもあるといえる。
入江正一はドン・ヴァリアーが怖くて、滅多にやってこないのが唯一の難点だけれど、声もデータも連絡も、毎日しているから、スパナにしては問題はあまり、ない。
快適すぎて最近、体重が増えてしまって困るくらいだ。

「日本の刀の切れ味は確かにいいよなぁ。細い分、折れやすいのが難だがなぁー」
「使ったことあるの」
「あるぜぇ。1本くらいはあるんじゃねぇかなぁ」
「持ってるの」
「小刀と、あと長いのがあるはずだったけどなぁ…」
「へぇ。使えるの」
「何度かなぁ」
「どうだった」
「使い勝手かぁ? それとも、切れ味かぁ?」
「使い勝手のほうがいい。切れ味は知ってる」
「それはどんな意味でだぁ? 俺が知ってるのは一つだけだぜぇ」
「…そうだね、ウチ、それは知ってても意味ないから、…別にいい」
「そうかぁ」

縁起の悪い話をさらりと、しながら新しい義手の具合を確かめる。スクアーロの腕の先に繋がれた義手には、まだ計測コードが繋がっているが、動きはスムーズだ。

「いつ治せる?」
「これから削るから夜にまた来て」
「いいぜぇ」

さばさばした気性の副官は、案外誰とも相性がよくて、技術的なことにしか興味のないメカニックの会話もきちんと、繋がっているように聞こえる。
実際はどちらも、自分のことしか興味がないのだけれど。

「そーいえば前から気になってたんだけどよぉ」
「なに」
「首のそれ」

そういって、珍しく素手の右手で、目の前の男の首筋、ツナギの襟の間からちらり、見えるうなじに手を伸ばして。

「どういう意味なんだぁ?」

頚動脈の上、急所に刻まれた刻印のようなかたちの紋章に、長い形のいい指が触れる。

「これ? んー、目印かな、一応」
「目印?」
「うちの癖、ここ触るの好きだから。目印、つけておくといいかなと思って」
「? 意味あんのかあ?」
「一応、うちの家の、紋章、のつもり」
「家紋ってやつかぁ? じゃあおまえんち、わりとイイウチなのかぁ?」
「一応会社やってるから。会社のマークは違うけど、家の紋章の中にこれがある」
「へー」

すっと手を離した右手をちらりと目にして、あ、そういえばこの手、ウチの息の根なんか感嘆に止められるんだっけ――ということに、スパナはようやく気がついた。
やけに綺麗に整っている爪先が、磨かれてキラキラ光っている。

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