打ち上げ花火下から見るか?上から見るか? REBORN深夜の真剣文字書き60分一本勝負 第7回「花火」一時間十分くらいかかってるので正確に一時間ではない気がしますが 「最高の場所を用意しておいた」なーんてボスが言うから、なんだろう?って王子は思ったんだよね。最高の場所ってなんだろ?日本のどこに最高の場所があるんだい、マーモンは不満そうだったけれど、そんなことないと思うけどな。日本はとにかくなんでもおいしいのがいいよな!!ピザがすっげー安い上にいつでも出てくるのが王子お気に入り。「すっげー!これすげー!!!」王子はさっきからやたらとテンションが高い。普段なら目立つところだが、今日は奇声を上げている人、大声で叫んでいる人はあたりにたくさんいるので、大して目立ちはしない。「すげー!!!わー、なんでこんなに人がいるんだろー!?」「ホントにすげぇな…なんだこれ……」「なんでこんなとこまで来るのかと思ってたが、こりゃすげぇな」「うるさくてかなわん!」「あら~いいじゃないの~カッコイイ男がいっぱいで嬉しいわぁ♪」ボスが準備した場所は確かに最高だった。東西に流れる川の水はそれほど多くない。冬の雪解け水の時期は過ぎ、今はたんぼに水を流すので一年で一番水が少ない時期だそうだ。その川の河川敷に南にむかって設置された桟敷席は、花火をど真ん前で見られる最高の位置。もちろん無料ではなく、三ヶ月も前から申し込んでそこそこの金額を払ってようやく使える場所ではある。しかしその金額も都内の値段を考えれば、時間を使ってここまで移動した交通費と合わせてトントンくらい。もちろん都内より圧倒的に花火に近く、スペースも断然広いのだ。「予約は誰がしてくれたのかしら?」「日本支部の関係者が余分に買っていた分らしいぜぇ」「気が利くわねぇ」「ここ数年ここまで花火見学に来てたらしいぜぇ」「スクちゃんくわしいわね!」「タケシに聞いた」「…あっそう」外国人が浴衣を着て桟敷席でビール飲んでたら普通日本ではとにかく悪目立ちそうなものだ。だがあたりを見回すと、日本人以外の集団もかなり多い。日本語以外の言語でビールに焼き鳥、サイダーに焼きそばで、すでにかなり出来上がっているグループもあちこちに見えた。浴衣を身につけている人間が男女問わず多いのは、この街がその昔、織物で有名だったせいなのかもしれない。「それにしてもよく浴衣準備できたわね」「ボスさんが全部手配したんだぜぇ!」「そうだったの?ホテルで着替えられてすごく楽だったからいいけど、さすがねぇ」そう、ボスがいきなり日本に行くとか言い出して、しかもヴァリアーの幹部全員で行くとか言い出した時は王子まさかこれ日本でいうところの社員旅行?ってちょっと楽しみにしてたんだよね。まぁ日本の旅行みたいにいつもみんなで集団行動ってわけではなくて、割と自由時間は多いし、現地解散で現地集合ってこともある。好きに回って好きに帰れ、って切符だけ渡して空港で解散、ということもあったな、そういえば。そんときは半分仕事だったんだけどね。だからそれぞれ、自分の仕事が終わったら好きに遊んで帰ったんだっけ。今回は日本の温泉に行くとボスが言い、ルッスがいいわねぇと答え、レヴィが本気で賛同し、王子は正直日本の湿気って嫌だな~~って思ったんだけど。旅費も宿泊費もボス持ちだからね! 行かないなんてもったいないことはしないよ、王子は。…って、王子も最近、マーモンに毒されているかもしれない。マーモンも暑くてイヤだって言ってたけど、アジア圏は全体的に子供がお金を使ったり、子供がものをねだったりすることに寛容なので、マーモンがいると何かと便利なんだよね。「でも一番可愛いのはマーモンちゃんね!子供の浴衣ってなんでこんなにかわいいのかしら!」「そうかい?」「そうよぉ~!可愛いわぁ!せっかくなんだから髪の毛もあげてかんざしさせばかわいいのに」「今日は女の子のカッコしてんだからそれくらいやればいんじゃね?」「どっちだっていいだろ。そんなこと言うなら男の子の浴衣に着替えるよ」「王子はんたーい!あの青いのも可愛かったけど、赤い浴衣のほうが絶対かわいいって」「あとで写真撮っておくれよ」「何すんの?」「もちろん売るのさ。加工させてんもらうけどね、幼女の着物姿の写真なんてその筋に高く売れそうだ」「うわ~~~そこまでやんの、王子ひきそう…」「写真なんて大したものじゃないか。体に傷はつかないし、画像は変えて写りこむからボクじゃないよ」マーモンは可愛い女の子の格好で浴衣を着て、両手で冷たいジュースとか飲んでいるくせに、相変わらずとんでもないことを口にするんだよなーと王子はため息。ま、そこがマーモンなんだけどね。「あ」そんなこと言ってたらポンポン音がした。なんだろ?「あれ合図の花火らしいなぁ。このあたりは内科催しものやるとき、音だけの花火を上げるんだと」「それって周りに知らせるためとかそういう?」「田舎だったからなぁ」そんな雑談の途中で華やかに音楽、そして花火!ぱーんと大きく上がって散って、おおお、と思わず声が出る。それを味わう余韻もそこそこ、次から次へ赤、緑、白、黄色、そしてひときわ大きく高く、上がってドン!と大音響。腹に染みるような大きな音、そして間髪入れずにパッと散るカーメンレッド、チタニウムホワイト、最後は鮮やかなイエローグリーンの花が開いて、そして見るまに夜に溶けて消えてしまう。「すっげ!」「おおー」「すごい音だね」マーモンは口をぽかんと開けて空を見ている。珍しい、こんなに素直に驚いてるなんておもしろい。そんな顔を横目に見るのが実は精一杯の、王子もこの夜空のダイナミックなショーにわくわく、興奮して血が踊る。なんといっても音がいい。ドン、ドン、ドン、連続で炸裂する火薬の爆音は空気の衝撃波も含めて腹に来る。体中の血液が、その音で無理矢理叩き起こされて、目を覚まさせられるような感じに、興奮してしまうのは止められないのだ。「すげーなぁ!」あまりに近いので見上げていると首が痛くなってくる。すでに横になってつまみを食べているザンザスに習い、皆でごろりと横になって、花火を目の前で見るという贅沢をこころゆくまで味わっていれば、それは徐々に不思議な浮遊感覚に包まれてしまうのだ。視界にいっぱい、花火を満たすために横になる。飲み物をこぼさずに取るのが難しいが、その姿勢は一番ラクな形らしく、見れば周りの花火客は、持参したシートに枕の代わりにと、まるめたタオルやバッグを置いて、ごろりごろりと横になっている。ドン、ドン、ドン。カッ、カッ、パッ。高くあがる大玉が続いて嗜好をこらした見事な花を天空高く花咲かせれば、続いて低く華やかなブーケが、連発の火花に彩られて現れる。炸裂音と破裂音、拳銃を使わぬ国の夏の夜にこれほどの火薬をいっぺんに、ただ見るためだけに消費する、その一瞬の儚い花のなんと力強いことか。「あ~?」「すげー!花火が落ちてくる!」「ホントだわ」「おおっ? なんか花火がこっちに落ちてくるぞぉ…?」「ワタシたちが浮かんでいるみたいな気もするわ」横になって花火を見ていると夜の中、視界は遠近感がわからなくなる。そうなると不思議なことに、花火がぐんと三次元になり、広がりを持って自分に迫ってくるように見えるのだ。やがてそれは逆転し、今度は自分が花火に向かってぐんぐんと、近づいているように思えてくる。暗闇の中の強烈な光に騙されて、脳細胞が距離を間違えるのだ。だがそれの、なんと不思議な楽しいことか。「すげー!!!花火が飛んでくる~~!」耳の近くで響く轟音、腹に直接響く音。仕事で使う爆薬とは桁が違う、それを殺しでも殺戮でもなく、ただ綺麗だ綺麗だと褒めそやすためだけに使われているという、そのギャップに王子の興奮は高まる。そしてそれは王子、だけではなく。「すげー!ハートマークじゃねーかー!!」スクアーロの大きな声がいい加減うるさくなったのか、ザンザスの右手が後頭部を叩く音がした。 [0回]PR