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言えないたったその一言が

「言えばいいのよ」
そう、ほんのひとこと。唇に乗せる、一言でいいの。それでいいのよ、ねぇ、ボス。

告げられる言葉に鼻で笑った。

「それくらい言えばいいじゃん。減らないし」
一言でいいんじゃねーの? ご褒美としては簡単だろ、別に金でも物でもないしさ。

呟かれる言葉を聞かないフリをした。

「ボスが言えば仕事の効率はあがるだろうね。ボクはそのほうが嬉しいけど」
今まで以上に、滅私奉公するんじゃないの。それで満足しないのかい。

忠告は、聞こえなかったから聞き返さなかった。

「おまえが言えば一発じゃねぇの? いっくらだって信じるって!」
唇に甘い蜜をたたえることなど朝飯前だけど、そんなものが欲しいわけじゃないって知ってるくせに。

軽口は耳をすり抜けるばかり。

「そんなこと言ってると誰かにさらわれちまうぜー? 俺あんたに負けたくねぇもんな!」
でも違う本当は、負けたいんじゃない、気に入られたいだけ。戦う相手、あんたじゃないもん。

宣言は、鼻で笑った。


「…本当は、言えないんじゃないの? きっと、信じないから」
なんでわかるんだろう僕は、君がいつもそんな、どうしてそんな、なんでそんな、そんなふうに、いつも自分を抱きしめているのか、知ってしまうの、わかってしまうのだろう。

進言が本当だと、認めたくなかったから無視した。



「ザンザス、………だぜぇ?」
「そうか」
「なんだよぉ、そんで終わりかぁ?」
「知ってる」
「お、おぉ」
「知ってる」
「そっかぁ……」

そういいながら、それが宣言ではなく、会話であることを、応じる言葉があることを、微塵も信じていない相手がそれを言う。
持ち主にふさわしい、それは刃の鋭さで、いくらでも、ザンザスを切り裂いて、切り口の鋭さゆえに血も流せないまま、また、癒着する。
ずれて癒着してしまったから、血が通わなくなる、神経が届かなくなる――動いているのに死人のよう、そうしていつまでも、殺されながら生きている。

(信じない)
(俺が信じないのではなくて)
(おまえが俺の言葉を)
(どれだけ愛しているといっても)
(絶対に)
(信じない)

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