王を労する花・2 獄寺とスクアーロ -----------------------------------「ドライヤー使うか?」「おう」ベッドマナーは悪いが気は回る。強いだけではボスの側近にはなれない。次世のドン・ボンゴレは指導者としての教育をまったく受けていないので、側近のアッシュグレイの爆弾小僧が、なにくれと世話を焼かなければ立ち回れない。目端が効く上に頭がいい。そんな様子はどこか、金髪の王子を連想させるところがある。ドライヤーの轟音は、雑多な思考を繰り広げるには都合がいい。外部の雑音は聞こえにくいし、こっちの呟きも聞こえることはない。「すっげぇなぁ」かちりとスイッチを切ったとたんにそんなことを言われる。獄寺はシャツにラフなパンツで、これから本格的に寝る格好。「長いからもっと時間がかかると思ってたけど、早いんだなー。意外」「ちんたらやってられっかよ」「へーぇ?」笑う表情は小生意気な猫の顔。ワンダーランドの案内猫は、ここにも一匹いたようだ。「夜中に寝言とか言うタイプ?」そんなことを聞いてくるのに。「おめぇの寝相が悪かったら叩き落してやる」ドンファンよろしくベッドのシーツをぺらりとめくって、こちらににこっと笑いかける。やはりこの男、少女をからかうワンダーランドの猫のよう。「歯軋りとかしてるかもな」「そしたら息を止めてやるよ」そう答えてシーツの中に入る。おやすみ、母国語での挨拶。小僧は二人でいるときは半分はイタリア語で喋る。その言い回しがやけに子供っぽいから、金髪の王子を思い出すのだ、ということに、スクアーロは半分眠りに入りながら気がついた。-----------------------------------「意外だな」「何がだぁ」「おめーが女に優しいってのがよ」食事の後、食堂に続くリビングで、電子端末で新聞を読んでいた銀髪の美形の寵臣に、同じアッシュグレイの小僧が近づいて、そんなことを言う。「何言ってるんだぁ。おめーだっていっぱしのイタリアンだろぉ? 女子供に優しくすんのは男の仕事だろぉがぁ!」「そうだろうけどよ…俺、アイツなんか苦手で」「へぇ? 可愛いじゃねぇかぁ」「クロームが悪ぃんじゃねぇんだろーけどよ、あっちの…骸がどうも、な」語尾を濁す言い回しに、寵臣は電子機器の電源を切った。見上げられると一層、切れ長の瞳が涼しげで美しい。「ああ、そういやナンかあったんだよなぁ、元は」ボンゴレの情報を知らないわけはないヴァリアーのサブは、昔あった日本での、守護者として任命される以前の事件も知識としては知っていた。それに加えて、今は、同じ霧属性の術師同士、ヴァリアーの本部に本体が来ることも少なくはない。「俺にマトモな口聞いたことがねぇんだよ」「ああ…あいつはそんな感じだなぁ」この前その男が頼みにきた依頼のため、スクアーロは慣れない仕事をしたことを思い出した。そいつのおかげで今、自分のところはてんてこ舞いなのだ。「あいつ、ザンザスにはちゃんと口利くのか?」「どうだろぉなぁ……俺は直接会ったことがあんまねぇしなぁ。ボスさんはちゃんと、話は聞いてるみたいなんだけどよぉ」「へぇ…?」話を聞きながら、気だるそうに髪をかきあげる。そんな仕草も堂に入っている。媚びているわけではない。けれど、自分の色香を振りまくことに、意識をしていない仕草。長い髪はそれだけで、何かをそっと、隠していることを、知らないわけではないだろうに。「あいつも」 [9回]PR