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王を弄する花・1

獄寺とスクアーロ…なので一応折りたたみ。 九代目の博愛は、翻ってみれば誰かを特別に愛していないことと同じだ。家族への愛情は博愛とは相反するうちでも最たるものだ。
誰かを他の誰かと区別すること、それが動物の最初の愛情の始まりだろう。母親は子を他の子と区別する。自分の遺伝子を受け継ぐ子を、他のものと区別するところから、愛情は始まるというのに。
だからといって、九代目に同情するつもりは、スクアーロにはまったくと言っていいほどなかった。
今だって彼の主から許しが出れば、すぐに首を刎ねて息の根を止めてしまいたいくらいだ。
こんな面倒なことになったのも結局は九代目の、彼にしてみたらの恩情から端を発している。
馬鹿馬鹿しいったらない。九代目は本当に、愛情は区別であり、選別であることを知らないのだ。


情事の後にタバコを吸う男は多い。
だが体を使う仕事についている限りは、健康を損ないかねないものは、なるべく体から遠ざけたいのが道理というものだ。欧州ではもう、ほとんど室内で喫煙することが出来なくなっている。
そんな仕草を、彼のボスの寝室以外で見ることがなくなって久しい。
けれどこの部屋の主は、躊躇なくそれをする。流れるようなスムーズな指先、使い込んだライター、澄んだ綺麗な発火音からも、男が普段から、それを習慣にしていることを示している。

「…なんか顔についてるか?」

あまりじろじろと顔を見つめすぎたらしい。視線に気がついて、深い水底の碧玉の瞳が、ちらりとこちらを見た。

「いや? …日本人の血が入ってるだけあって、肌が綺麗だなぁって思ってただけだぁ」

そういいながらまだ、体がろくに動かない。綺麗な可愛い顔をして、案外ベッドマナーがなってないな、とスクアーロは考えた。食い意地が張っているというか、勉強熱心というか――とにかく加減をしない、妙に酷薄なところがあるのは流石、マフィア家庭の教育を受けているということかもしれない。
だるい。ここで寝るのは非常に危険なことだと脳細胞全てが警告するが、少しの時間でいいから、休息を求めることを要求するのもまた、同じ場所だった。その戦いに抗いきれずに目を閉じる。
十分でいいから、と脳内のタイマーをかける。瞬時に意識が落ちるのを感じる。ブラックアウト。

「寝ていくなら少し詰めろよ」

頬に何かがあたって、スクアーロは目が覚めた。ぱちり、と音がするほど鮮やかに瞼を開けば、驚くほど至近距離に獄寺隼人の顔が見えた。頬に落ちた水滴は、髪を洗った名残らしい。

「ドライヤー使うからうるせーぞ。寝ていくかぁ?」
「いや、……シャワー借りてもいいかぁ」
「ん、いいぜ。ドライヤー使う?」
「おまえが終わってからでいい」
「俺のシャンプー使うなよ」
「いらねぇよ」
「そんだけ気をつけてろよ」

身だしなみには相当気を使っているのが、浴室のグルーミンググッズからも見て取れる。刺激の少ない、香りの薄い高級なシャンプーの隣に、スクアーロが使っているのと同じブランドの石鹸が置いてあったので、それを使わせてもらうことにした。

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