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あいしているよ 

山本とスクアーロ、酔っぱらいの戯言。

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俺はお前をあいしているよ。

ゆめうつつで聞いた声は間違いなく彼の人の声で、でもこんなしずかに言葉をつむげることなど実はほとんどしらなかった。
いや、しってたかもしれない。
はじめてきいた、そう思った次の瞬間、あ、これ聞いたことがある、と思ったからだ。

得物を手にして打ち合うのはひさしぶり。けれどその木の刀の先からでも、互いの過ごした時間がわかる。何を食べて何をして、毎日どうして過ごしていたのか、それこそ手に取るように「わかる」。

それは誰にも説明できない。

なんでわかるんだと獄寺は問い詰める。
こわくないの、とツナは言う。
そうか、それはいいな!と先輩は褒める。
ふうん、委員長は鼻で笑う。
そうか、と父さんはただ応える。

たぶんだれにも説明できない。
俺にも、スクアーロにもそれは出来ない。
でもわかる、わかった気がする、わかってしまう、わかって「いる」。
生活も言葉も世界も年も、全部違って全部知らない。同じなのは性別と、たぶんこの手の中の刀を振るう、その歓喜、その恐怖、その畏れ、そんなもののあれこれに、たぶん二人とも魅入られていること。
一番原始の武器のひとつ、研いだ刃で獲物を切っていたそのころから、たぶんこの体に流れるなにか、血の滾るおそれの何かを、スクアーロと俺は共有してる、と思ってる。
うぬぼれかもしれないけれど。


うん、おれも。


思わず答えた言葉にふっと、笑う気配があって、それにつられて自分も少し、緩んだ唇が笑ってしまう。
いい気分で疲れていて、シャワーを浴びて、酒を飲んで。ベッドにどうやって入ったのか覚えてない、ただ近くにいることはわかる。
スクアーロはいい匂いがする。酒を飲むとそれがいっそう強くなる、懐かしいような、悲しくなるような匂いがする。
自分じゃ気が付かないだろうし、たぶん誰も気がついていない。少し血なまぐさい、それは冷たい魚の匂いだ。
俺が毎日嗅いでいた、生きた魚を捌いた店の、厨房の匂いにそれはよく似ている。

そうか。

こたえる声には焦りはない。ねむくて瞼がひらかない。言葉の半分も声にならない、けれどなぜだか、きっとスクアーロはわかってる、ような気がした。
俺はいつもうぬぼれている。

スクアーロは俺の師匠で、兄で、先生で、憧れで、目標で、夢みたいなもんだ。
それでいて現実で、冷酷で、異邦人で、たぶん全然相容れない人間なんだと思う。
でも惹かれてしまう。ものすごく。全部の存在が、俺の全部の関心をひいてしまう。
強い磁石みたいなもんだ。好きとか嫌いは関係なくて、ただ惹かれてしまう、引き寄せられてしまう、近づいてしまう、そんな存在なんだろう。

オレもあいしてる。

初めてそんな言葉を口にする。半分寝ているから、なんだって言える、そんな気がする。酔ってるせいかもしれない、どんな言葉も口にするのに問題はない、そんなふわふわした気分。

おまえ、それ、おれにいってもいいのか?

いいよ、べつに。だってスクアーロは――じゃん…、オレの。

……そうだな。

そうだな。
スクアーロの返事で、俺はいろいろなことが全部すとんと腑に落ちた。そうか、そういうことだったのかといまさら、いまごろ気がついた。

しってた?
……しってる。
――そうだな。おれにもかぞくはいるが――、それとおなじくらい、おまえのこともあいしてるぜぇ。
…へへへ。うれしい。
…そうか。
……うん。

返事をするのがとてもつらい。口が思った言葉の半分も声にしてくれない。
スクアーロの返事もよく聞こえない。はっきりしない声も返事も、ああ、スクアーロも眠いんだろうと考える。

おまえをあいしてるよ。おとうとのように、でしのように、ぶかのように、あいしてるよ。

うん、……。

返事、したのかなぁ。もう眠くて眠くて、声もよく聞こえない。
スクアーロの声はまるで子守唄みたいで、本当に気持ちがいい。ああ、このまま俺、本当に寝てしまいそう。

だけどなぁ、おまえにゃ悪ぃが、おれのな、……。

スクアーロは何か言ってる。はっきり意味を理解できないけれど、たぶんそういう意味では愛していないと言ってる、んじゃないかと思う。…たぶん。
それも俺の希望的観測。そうじゃないかもしれないけど、でもたぶんそれで間違いない。
それはしょうがないよ、だって俺もツナのこと、大切だし。スクアーロと対して戦うのも、スクアーロと一緒に戦うのも、どっちもものすごく楽しくて、辛いけれどどっちも、本当に刺激的で、うれしくて、俺にとっていいことだってわかってることがわかるから。
それでも絶対、あんたは俺に、こっち来いって言わないこともわかってることをわかるから。
そうしたらこうして、アンタと刀を交えることが出来なくなってしまうってことを、たぶん俺もアンタもしってる、から。
それが惜しいと思ってくれてることが、すごいことだってことも、わかる……から。

わかってるから、また、あそんでくれよな?

遊びじゃないって怒るところまで全部、目に見えるけどそういった。言ったつもりで本当は、口になんか出せなかったのかもしれないけど。

あそびじゃねぇぞぉ、お前なぁ、………

うん、返事、したいけど、もう、限界。
ごめんね、スクアーロ。
おれもあいしてるよ。
母さんみたいに、父さんみたいに。
あいしてるよ。


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