冷たい唇 熱い肌 こんな顔をしていたのかと、毎日顔を見るたびに思うようになった。包帯がようやく取れた白い肌はあちこちまだ赤くて、こすれた肌の下の新しい皮膚がまだ初々しく子供の肌のように見える。…子供の肌?なぜそんなことを思うのか――と思いながら、ザンザスは目の前の男の顔を見た。数日前はそれほど思わなかったが、今はこの男が美しいということがわかる。肌も髪も白く、顎も指も肩も細く、研ぎだした氷の彫像のような男の姿が、睫毛の先まで白い眼差しが、美しいといいうことが、わかる。つまりは、それを感じることができる余裕が出来たということだ。「さすがに命汚い爺ィだぜ」薄い色味のない唇から漏れるのが、呪詛に等しい言葉だったとしても。「マフィアの王は地獄の悪魔より魂が腐ってるようだぜぇ」手の中の手紙を読む眼差しが震える。青い銀の瞳が冷たく燃える。炎が上がる。それをザンザスは見てしまう。青い炎、それは赤い炎よりずっと温度が高い炎の色だということを思い出す。「あいつは恥ってのを知らないよぉだなぁ?」唇が上がる。笑おうとして失敗したような顔で、スクアーロがザンザスを見る。殺気というにはあまりに冷たい。肌が震える、体の底が慄く。だがスクアーロの顔から目が離せない。「死炎印の招待状かぁ……ボス」そうだ、それの名前をなんといえばいいのか、ザンザスは知っている。毒より甘い、蜜より苦い、天より遠い、血より冷たい、心を魂を震わせるもの、奪われてしまったら、自分が失われてしまうもの。ひたりとザンザスを見据えるスクアーロの冷たい銀青の瞳を、そのとき初めて心の底から、ザンザスは美しいと―――心の底から美しいと思ったのだ。 [8回]PR