冷たい唇 熱い肌 「幻術をかけるためにマーモンがいる。あとベル、おまえが一番動ける」「なんだとっ」「レヴィ、おまえは残れ。ルッスもだ。ボスを守れ。出来るな?」「そうねぇ、膝にメタルニーが入ってないのは困ったことだけれど、なくてもなんとかなると思うわよ」「無論だ」「ベル、おまえが一番動けるから一緒に来い」「いいけどー、普通こういうの王子残すんじゃね?」「動ける人間が残れば不審を抱かれるだろぉ。それにマーモンはベルと一緒なのがいいんじゃねぇのかぁ?」「そうだね、他の誰かといても面倒だし。…ベルでいいよ」「なにその消極的な選択」「じゃ決まりだな」「私はいいけど、……スクちゃん、大丈夫?」「大丈夫だぁ。動ける」「立って歩けるかって聞いてるのよ」「出来る」もちろん、そんなことはないのだけれども。「ボス」その話を、その展開を、先ほどから一言も口を挟まずに聞いていた男へむかって、その人形は話を向ける。もう決まったかのようにそれを告げる。「俺が行ってくるぜぇ」確かに八年、この部隊を率いていたのはこの男だったのだと、実感するような瞳で、まっすぐに彼の主を見て、銀色の人形はそう言った。その顔はかつてそこにいた子供の、無邪気な少年の顔ではない。諦観とやるせなさと理不尽と、それでも生きることを捨てられない、今日を生きて今日を眠る、その『意味』を知っている、その意味を引き受けている大人の男の顔だった。 [6回]PR