君はいつもそんなことばかり言うんだね 何の話のついでに書いたのか覚えていない綱吉とスクアーロの会話たぶん8年後くらい?「痛くないの」青い肌の色を見咎めて、そういわずにいられなかった。だって痛そうだもの、見ているだけで、肌が白いから余計に、一層、目立つというか、わかる。白い肌の下、リンパの黄色の色すら見えて、なんだかそれが本当に、不謹慎な話だとは思うけれど、まるで白い雪原に咲いた春の花のようで、透明な薄い花びらのような青痣が、痛ましいのに目を奪われて仕方ない。「痛いぜぇ? まぁ、風呂入るときくらいしか、痛ぇってわかんねぇけどなぁ」「……なんでそんなことするんだろう」そうだ、それが本当にわからない。どう見たってあれは、恋というか愛になるのか、あれは普通の上司と部下じゃないだろう。もっと深い、もっと近い、もっと遠い、もっと――もっと、なんだろう、どんな言葉もそぐわない、けれどどんな言葉だって当てはまる気もする。恋人、愛人、情人、家族、友人、同志、幼馴染、腐れ縁、パートナー、夫婦――そのどれだって合う、どのどれだって合わない。綱吉の言葉は確認でもなければ同意を求めているわけでもない。ただ口に出た、としか言いようがない言葉、でも言わずにいられないことば。だからこそ真実に近く、だからこそ現実に遠く――張り付いたように、すぐ近くにある言葉だった。だからこそ、普段他人の言葉など、耳に入れない男の耳朶に、入ることを許された言葉になった。けれど感情を余人に語る余裕はなかった。それは、かの人に捧げるべきものだった。目の前にある、ドン・ボンゴレではなく、彼のイクス、彼の主にこそ迎え得る言葉と心だった。「さぁなぁ? そこに俺がいるからじゃねぇの」「だっ――、……」「用事が終わりだろ、もういいかぁ、ドン・ボンゴレ」そう言って書類を手にした姿を見下ろして、返事も待たずにくるりと振り返る背中、ついてくるのは――長い長い銀の髪、光るばかりで目が痛い。「スクアーロ! 本当に、なんかあったら……俺、出来る限り、力になるから、言ってよね!」「覚えてたらなぁ」返事もしない上司とはちがって、律儀に返事だけはしてくれる。でもそれだけ、そのほうがもっと、たちが悪い。受け入れられているのではないかと誤解してしまうのだ、あの男よりはるかに普通に、対応してくれるから――それがたとえ、単なる処世術に過ぎないものだとしても。それを使えるあたり、彼はあの上司よりはるかに大人なんだろうと、綱吉はそう思う。そう思うが――やはり大人なだけに、子供よりもずっと、性質が悪い。ひらひら、片手だけ振って、ドアが閉まる。振り返ったりはしない。そこまでサービスしてくれるなんて、そんなこと、しない。「なんでそんなことするのかなぁ…」思わず呟いてしまったのは、別に誰かに言いたかったわけではない。返事を求めていたわけではない、返事なんかかえってくるとは思わない。なんでそんなことするの、殴って蹴って頬を叩くよりもっと、髪を掴んで引っ張って、言葉で傷つけるよりももっと、出来ることがあるはずなのに、やれることがあるはずなのに、どうしてそれが――それが――。遠くで見ているだけなのに、赤眼の暴君の手が髪を撫でる指先がいつも、名残惜しそうに一瞬、そこで待っているというのに、銀の副官の冴えた眼差しがいつも、狂おしいほどの恋情を溢れんばかりにたたえて、その背中を見つめているのを、そうだ誰だって気がつく、すぐにわかる、相手の目を見ていれば、わかるだろうと思うのに。相手が見ていないところでしか、そんな顔をしていないのだとわかるのに。スクアーロの頬にも顎にも首にも咲いた、赤と青と黄色の花を、彼がどこか愛しそうな眼差しで語っていた気がするのも、そうだきっとたぶん、気のせいだと――今はそう、ドン・ボンゴレは思いたかった。花はそこではないところで咲いたほうがいいのに――その青い唇の上、とかに。そこにいるからそうするんだろう、それはそこにいられることの喜びなの?そんなことをしていて大丈夫なの、君はそれでいいの、彼はそれで大丈夫なの、壊れたら壊れてしまうよ、君だけが壊れるなんて君以外誰も信じていないのに、そんなことが――それが、……嬉しいの?こんな言葉を彼らに捧げることの傲慢を、嫌というほど噛み締めてきた。それこそもう何回も、けれど今でもやはり、そう思ってしまう。傲慢だとは思うけれども。――かわいそうに。ボスと鮫に綱吉を絡めるのが面白いのは、部外者として二人に意見できるのは彼しかいないからだな~と自分が思っているからだと思います。部外者だけど権力者だからね。 [0回]PR