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悪魔の城の悪魔の王様・2

「はぁーい! こんにちは! 今日も来たのね、メカニックさん」
「今日、なに」
「今日はスコーンよぉ! アプリコットジャムとレーズンバターとけしの実入りよ。タルトは三種のベリーでちょっとスパイシーに決めてみたわ」
「どっちもおいしそうだ」
「ちゃんと手を洗ってきねぇ!」
「うん」

男は胃袋で捕まえるものよ、なんといってもベッドとキッチンを掴んでいれば、男なんていくらでも捕まえられるものなの。
それが身上だと豪語する陽気なオカマの腕は確かで、実はこっそり、別名で書いているブログが評判になって、お菓子の本も出したことがあるのだ。ヴァリアーの幹部たちはその事実は知ってはいるが、その本を見たことはない。本になど興味はない、実物が目の前にあって、毎日その実物を食べられるのだから必要などないのだ。

最近そのカフェのテーブルに増えたのは、ボンゴレの本部から出向というか研修というか、勝手にやってきた毛色の変わったメカニックの青年。あまり表情が出ないのんびりとした顔立ちの、けれど性根は見た目以上に闇に染まっている背の高い細い体の男。
ヴァリアーに所属する隊員は誰も、一応は至急される上下を身に着けているのだが、彼は黒と白の集団の中でただひとり、カーキのツナギで建物の中をうろうろすることを許された人間だ。

ヴァリアーというのは奇妙な集団で、基本的には何もかもが自由であるように見えるけれど、そのくせ、内部規律はボンゴレの本部よりよほど厳しい。
失敗=死であることが現実的な場所であるからには当然かもしれないが、それにもまして、生活の取り決めが案外細かいのに、最初スパナは驚いた。
朝は9時、昼は12時、夜は7時に、屋敷にいる限りは幹部は全員、ダイニングへ集まって食事をすることが義務付けられている。屋敷にいる限りは、よほどのことがないかぎり、食事の時間には絶対に参加しなければならないらしい。
さらにそれ以外に午後3時にはお茶の時間があり、これもその時間にダイニングに行けば、暖かいお茶とお菓子が準備されている。仕事をしていても休憩を取ることをすすめられ、必ずカフェの一杯でも飲むように、と促されるのだ。
食事が人生の楽しみたるイタリアンの端くれでもあるエンジニアは、その休憩の意味もよく理解していた。3時間ごとの休憩は仕事の区切りでもあるが集中力の限界でもある。それ以上長時間を休憩なしに仕事をしても、能率はあがるどころか下がるばかりなことも知っている。脳細胞に炭水化物を与えなければ、どうにもならないことを知っているから――自分で、その成分をすみやかに補給できるようにと、飴を作って食べたりしてもいたのだが。

「どうかしら?」
「すごい、ルッス、うまい」
「今日もよく出来てるなぁこのタルト」
「生地ちょっと替えてみたのよぉ~、今日はソースをゼラチンで固めてみたわ」
「もいっこちょうだい」
「ウチも」
「お替わりもあるわよ」

ちゃっかり、幹部専用の談話室のテーブルの、蛙の幻術師の隣に座って、跳ねた髪のエンジニアが皿を差し出せば、そこにもう一つ、ベリータルトが乗せられることになる。
隣の少年もその隣の王子も、目の前のタルトに大喜び。
それを向かいの席で眺めている銀髪の副官は、なんだか妙な風景だと思いながら、器用に一口に切られたケーキを口に運んだ。利き腕でない手だと気がつかないほど、その動きはスムーズだったが、さすがに片手ではケーキを切る分けることが出来ない。
前は皿を肘で押さえてケーキを小さく切っていたことがあったけれども、上席の赤瞳の王が、あからさまに不愉快そうな顔をしたので、それ以降あまりそのようにしては食べないように心がけるようになった。
ルッスーリアも心得ていて、スクアーロの分だけ、一口で食べられるよう、出される前に切り分けてある。人前では完璧なマナーで食べることが出来るが、それはそれ、家の中でもそれを貫くのはいささか今は骨が折れることであるだろう。

「気に入ったのかぁ?」
「ん?」
「おめぇ、思ったよりヴァリアーにあってるぜぇ、スパナ」
「ウチもそう思うよ」
「ハハ、そうかよ」

もぐもぐとタルトを切り分けながら、スパナはスクアーロの言葉に返事をする。当初ヴァリアーにやってきたより肌の色艶が段違い、少し体に肉がついてきて、細い不健康そうな体は、がっしりした技術者らしい体に変わりつつあった。

「ヴァリアーはご飯おいしい。ウチの好きな日本食もおいしい」
「まぁうれしいわ! もっと褒めてちょうだい!」
「いくらでも褒める。ルッスのごはん、すごい。こんなおいしいご飯、食べたことない」
「おめーよっぽどひどい食生活してたんだなぁ!」
「イタリアンの名折れよぉ~スパナちゃん」
「食べた分はちゃんと仕事するって言ったけど、返せるかどうかわからなくなった」
「俺の手はそんなに高くねぇぜぇ?」
「そんなことない、と思うけど……。うん、でも同じくらいかもしれない」
「それって私が高いのかしら? スクちゃんの手が安いのかしら?」
「ウチ、自分の技術を安売りはしない主義」
「まぁ、それは嬉しいわね!」

褒められて、オカマはピンクのハートのエプロンを翻し、うふふと笑いながら自分の分のお茶を飲んだ。

「俺の腕ぁいつ出来るんだぁ」
「外が固まるのに時間かかったけど、中のギミックはもう組んであるよ。明後日ごろには組み込み終わるから、そしたらつけてみて」
「わかったぁ」


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だらだら続きそうなのでこのあたりで

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