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海へ出るつもりじゃなかった

まるで魚のようだ。

水面に浮く白い頭が、大きく息を吐く。長く伸びた髪が、水中で生き物のようにうねる。白い肌のほとんどを覆った魚が、慣れた手つきで道具を外す。

「ボスー!ボスも見ろよぉ!魚たくさんいるぞぉ! 楽しいぜぇ!」

そういって笑う額に濡れた髪がかかる。長い髪が濡れてはりつくと、スクアーロの頭がいかに小さいものなのかがよくわかる。嵩のない銀の髪が、小さく形のよい頭蓋骨にぴたりと張りつく。銀の髪は夏の海の強い日差しで、キラキラ光って、まるで白髪のようにも見える。

「スクちゃーん、あんまり肌焼くと明日が大変よぉ~!」

パラソルの下で完全に肌を隠してルッスーリアがこたえる。その割にはアロハシャツを纏い、水着を履いた足はむき出しだ。日焼け止めを必死に塗っていて、今も塗りなおしているが、声は酷く楽しそうだ。

「わかってるぜぇ!」

そういいながら、シュノーケルとゴーグルをセットしたスクアーロが、また水の中に顔をつける。そのまますーっと泳いで、岩場をぐるっとまわりこんでいる。水面にかすかに、ぴっちり着込んだダイブスーツの色が見える。足ヒレのフィンがときおり水面に出てくるが、それ以外はずっと、銀の髪が水面で輝いているのを、ザンザスは目で追っている。

「ああん、スクちゃんのお肌が羨ましいわぁ。あんなに白いのに、日に焼けても赤くならないんですもの」
「……そうなのか?」

思わず問い返したザンザスの言葉に、ルッスーリアが驚いてこちらを振り向く。

「あれ? ボスはご存知なかったかしら。スクちゃんったら、あんな白くて、日に焼けたら赤くなってしまいそうなものなのに、すっごく肌が丈夫なんですよ。焼けても少し赤くなって、ちょ――っと焼けただけで、秋には元に戻ってしまうの。うらやましいったら!」
「焼けるのか?」
「すこーしですよ。ちょっと元気だな、ってくらいの。元が白いから、逆にとっても健康的に見えますけどね。普通のイタリア人よりも薄いのよ、それでも」

そんなことを聞きながら、日に焼けたスクアーロを見たことがあっただろうか、とザンザスは記憶を辿ってみた。今のスクアーロと一緒に暮らし始めてから、そろそろ十年が過ぎようとしている。夏のバカンスにかこつけて、仕事を組んで海に、ヴァリアーの幹部たちでやってきたことは何度もある。あるけれども、スクアーロが日に焼けて、そうだ、海で遊んだ後で、肌が焼けただの痛いだの、言っていたことがなかったことを思い出した。

「見たことがねぇな……」
「そうでしょう?」
「跡なんかあったか…?」
「まぁ、あの子、体に脂肪がほとんどなくて、泳いでると冷えるからって、いつも着込んでますからね…」

そんなことを言いながら、ルッスーリアは浅い水辺ではしゃいでいるベルとフランを眺めている。少し離れた岩場の近くの波の洗い場所で、レヴィがゴーグルとシュノーケルをつけ、スクアーロと同じように水底を眺めているのが波の合間にちらちら見える。
レヴィはダイビングの資格を持っているので、本当はただ泳ぐだけの行為など、つまらないと昔は言っていたが、最近はぼーっと浮いているのを楽しめるようになってきたようだ。
沖合いで泳げるのはレヴィとスクアーロだけで、浮いている時は基本的に一人でいられるから、内心いちばん楽しんでいるのがレヴィなのかもしれない。

焼けた砂浜の上に敷いたシートと大きなパラソルの下、折りたたみのリクライニングチェアに座っているザンザスとルッスーリアは、吹き抜ける風を浴びながら海面を眺めている。
岩場で泳いでいたスクアーロが、ようやく海から上がってきたようだ。
白い髪をかきあげながらだるそうに波打ち際を歩いてくるスクアーロは、細い無駄のない体を、手首と足首まで、ぴったりとした日焼け防止の衣服で覆っている。足は水が抜ける靴、手には岩場で怪我をしないように手袋をして、装備は完全であるらしい。
鮮やかな紺とスカイブルーの長袖と八分丈のラッシュガードに包まれた白い体は、夕べのひどい乱れようなどどこにも残ってはいない。
しっかりした足取りでこちらに歩いてくるスクアーロの、華やかな笑顔を眺めながら、ザンザスは今朝の夢で見た、十年前のスクアーロの、頼りない腕の感触を思い出していた。

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