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赤と青の困惑と誘惑

「ボス、は」

食後のジュースを少しづつ飲みながら、クロームがそっと声をかける。視線で答えられる。なんだ、と促される。

「ザンザス…は、骸さまと、ちょっと、…似てる、かもしれない」
 怒ったような感じはない。ほんの少し、笑った気配がある。
「あいつは俺が嫌いだと言ってる」
「骸さまはいつも、反対のことばかり、…言う、んです。本当のことは、あんまり、すぐには、言わない」

視線で促される。続きを。

「ザンザス…も、たぶん、そうでしょう?」

それに答えはない。否定しないのは肯定と同じ。他の幹部がいれば否定したかもしれないが、誰もいない場所であるなら、余分な見栄を張る必要はないのだろうか。

「そう見えるか」
「本当に嫌いな人に、嫌いだって言っても、しょうがない、んじゃ、ないでしょうか……」

嫌いな人間に、自分の家族を渡すわけがないことは、とうにこの男も気がついている。
まだ幼い子供のうちに、こちらに引き寄せてしまった依代を、一人前になるまで預かってくれというのは、深い信頼と認識の賜物。
マフィアの闇を嫌う男の言葉は間違いなく本物、確かに人為的に作られたヘテロクロミアの片方は、彼を戒め改造した組織の次世をになわんと育成された御曹司とよく似た緋色を持っている。けれどそんなものに彼が何某かの同調を感じるわけがない。彼が持っているのはもっと自分の深部にあるもの、マフィアの闇を心底嫌っている男はしかし、つまりはもっとも、その闇の深さを知っているということに同じ。闇のむごさも狡猾さも知りながら、それでも闇の色に似ている暗部の王を、自分のファミリーを築いている男は、どこか同じようなものとして認識しているのかもしれない。
 口でいうほど嫌っているわけではない。

「喰えない男だってのは知ってる」

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