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迷彩教室

 部室にはいつも先客がいる。
「よー、元気?」
「いつも不思議なんだけど」
「なんだよ」
「キミいつ学校に来てんの?」
 椅子から立ち上がって席を譲られる。彼が座っているのは自分の席なのだ。
「俺は普通に来てるぜ、部長サン」
「君が学校にいるの、見たことないんだけど」
「そりゃしょうがねーだろ。九クラスもあるんだぜ、全員の行動がわかるわけねーだろ」
「それはそうだけど」
「ここで会えるんだから別にいいじゃねぇか」
 確かにそうだ。今時一学年九クラスもある高校なんて滅多にないのだ。ここが県下で一番の進学校でなければ、もっとずっと生徒の数は少なくなっていたことだろう。
「で、キミ何の用なんだい」
「別に? 部長さんの顔見に来ただけさ」
「そんなに暇ならちゃんと部活に出てくれないか」
「学祭の時は出ただろ?」
「そりゃそうだけど…」
「だったらいいだろ? じゃ」
 じゃらっと金属がこすれる音がして、彼は部室を出ていった。いつもそうだ。彼は俺の顔だけ見るとすぐに出ていってしまう。いったい何をしに来てるんだろう?
 それにしてもとにかく勉強の厳しさでは洒落にならないこの学校で、あそこまで身なりに気を使えるのはある意味凄いことだ。文武両道がモットーの並盛高校では、たとえ運動部だって放課後の補習を抜けることはできない。成績が悪ければ部活動だって禁止されて土日補習だし、もちろん運動部以外の生徒だって土曜日は補習授業があるから毎週学校に行く。授業の速度も早いし、それでいて学外活動も活発で、全校生徒は必ず何かの部活か同好会に所属していなくてはならないことになっている。とにかく忙しいので、中学ではそれなりに身なりに気を使っていた生徒も、どんどん構わなくなってくるのが常だ。男子校なせいもある。洗髪する時間、ドライヤーをかける時間、それすら惜しんで寝ていたい、という生徒が大半なのだ。その中で、彼があれだけ身なりに気を使っていることは、注目に値する。
「あれで赤点がないってのが凄いよなぁ」
 自分もバカではないと思っていたが、上には上がいるものだ。よほど時間の使い方がうまいのか、何か秘訣があるのだろう。
 椅子に座った後は考えことをしていても、手が勝手に情報準備室備え付けのパソコンのスイッチを入れ、プリンタのスイッチを入れ、メールの確認をしてしまう。セキュリティが正常かどうかを確認してからプログラムの入っているフォルダを起動。
 数字の羅列を追いかけ始めたら、彼のことはもう忘れてしまった。

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