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XSの日 まちでうわさのおおきなおうち・4

 そこで想像もつかない人の名前が出てきたのに、山本は素直に驚いた。なんでそこにその名前が出てくるのか、その関係性に目を見開く。ボンゴレ十代目の雲の守護者にして並盛財団の理事長、そして現並盛市市議会議員で県の市町村広域事業促進協議会の議長をつとめる、雲雀恭弥の名前が、なぜ。

「こいつは」

 セッティングが終わったのか、ザンザスが椅子を引いて座りながら、呆然とする山本に解説する。

「てめぇんとこの雲と、日本で三回も山行ったぜ」
「山? 山ってスクアーロ登山とかやってんの?」
「そんなたいそうなもんじゃねぇ。ちょっと行って登って景色見て戻ってくるだけだぁ」
「ふーん? そりゃ雲雀先輩は昔っから百名山とか好きで、近所の山は全部登ってる人だったし、一度はヨーロッパまで山登りに行ってたけど、……スクアーロもそういうのやってる人?」
「おめー、イタリアだって日本と同じで山ばっかなんだぜぇ。ハイキングが手軽な娯楽なのはあっちが本場だろぉ。なんつたって、イタリアにはアルプスがあるんだぜぇ?」
「あ、そっか」

 そう答えながら、地理に疎い山本は、脳内でイタリアの地図を拡げてみる。そういえば隣はスイスだった、何度か行ったことがある。国境が地上にあるという概念が乏しい日本人だということを、こんなときに少し感じる。

「ま、それは置いといて、食えぇ」
「ん、いただきます」

 両手を合わせてきちんと挨拶して、山本がナイフとフォークを取る。それを見てから二人も同じように、カトラリーを手にした。
 しばらくなんの音もなく、おのおので食事をすすめる。鶏肉のトマト煮込みは普遍的な料理だが、そのぶん作った人の裁量と技巧が問われる。スクアーロのそれはあっさりしているが妙に懐かしい味がして、山本は思わず感嘆の声を上げた。

「…おいしい!」

 満面の笑みで味を褒めれば、そうだろうとも、とでも言わんばかりに視線を返される。ワインが空いているのを注いでもらって、なんかすげーことになってるな、とうっすら思った。
 ボンゴレの、十代目にはなれなかったが、先代のただ一人の血縁として、ザンザスは長いこと、ボンゴレのもうひとつの象徴としてあり続けていた。
 生まれは確かに卑しい女の腹からだっただろうが、その後の数年に及ぶ一流の教育によって、純然たる上流階級のマナーを完璧に身につけたこの男が、よりにもよって自分で料理をし、あまつさえそれを他人に振舞っている、という事実は、結構、かなり、山本を驚かせることになった。
 二人の行動から、それはそれほど珍しいことではないようで、これが初めてでもないらしい。ザンザスに給仕をされる…なんて、イタリアに、ヴァリアーにいたころは、まったく考えもつかなかったことだ。
 人生には何があるかわからないな――と、改めて山本は思った。野球選手になるつもりだった俺が、マフィアのボスの跡取りにワインとか注いでもらってるとか、なんか……いろいろ、凄いことになってるというか……人生いろいろだよな、と思いながら、開けたワインがおいしくて、サーブされる皿の中身がどれも、彩り豊かで新鮮で、ああ、なんかいいなぁ、とぼんやり、そう思った。

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