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XSの日 まちでうわさのおおきなおうち・3

 最後の仕上げの塩をひとふり、そしてソースを煮詰めてから火をとめ、少し味を馴染ませる。その間に皿をレンジで少し暖めて――そんなところに、カフェが入ったぞぉ、と一声。
 赤いエプロンをかけたスクアーロがリビングで山本の向かいに座って話をしている隣に座って、当たり前のように腰に手を回す。
 スクアーロはそれを当たり前のように受けて、ほんの少し、体重をザンザスの肩にかける姿勢を取る。
それを見て、ふっと山本の口元が緩む。

「これ最近人気がある店のラスクと、あとこれは煎餅。すっげーコショウが利いてて、酒のつまみにいいんだぜ!」
「そうかぁ? あ、おまえ今日車かぁ?」
「ううん、タクシーで来たよ。帰りもまた呼ぶから平気」
「そうかぁ? なぁ、こいつにも酒やってもいいかぁ?」
「客に振舞うのは当然だろう」
「そっかぁ! よかったなぁタケシ! じゃ付き合えよぉ!」
「なんだよ、昼間っから酒飲んでるのかよー、悠々自適だなぁ」
「今日はだらだらする日なんだぁ! ザンザスはいっつも昼間っから酒飲んでるけどなぁ!」
「最近はちゃんと日が暮れるまで待ってるだろうが」
「そうだったのかぁ?」
「日が暮れるまで外でふらふらしてるのはおまえだろう」
「日が短くなったんだからしょうがねぇだろぉ!」

なんだかんだ言いながら、話すスクアーロの腰に回ったザンザスの手は離れないし、ザンザスの太ももに摺り寄せたスクアーロの膝はくっついたままで、予想以上の熱々っぷりに、ほかの守護者よりは会っている回数の多いはずの山本も、なんだか少し、恥ずかしくなってくるような気配がしてくるのが、どうにもこうにも止められない。
そんなふうに自分も、妻を扱ったことあったっけ…と、山本は思い出そうとするが、並んで一緒に座ることも、最近はとんとしたことがないと思い返して、なんだか激しく負けている気がした。

年をとってもさすがに生まれた水が違うと改めて実感、カップルが並んで座ることの意味も、そこでどんな姿勢を取るべきなのかを知ってるということを含めても、さすがに日本と、習慣が違うと、毎度ながらそう、思う。
それにしても二人して並ぶ姿はまるで、一枚の見事な絵画のようだった。
若い頃から繰り返しているその姿勢に、山本は翻って反省する。
今夜は妻に優しくしようと思わずにはおられない、何かそんな力がある。

「あ」

スクアーロの腰を抱いていた手がするりと離れて、持ち主ごと立ち上がる。
まだ少し長い髪を首の後ろでまとめているのが、指先を追いかけてふわりと振り返る。

「おまえは話してろ。後は俺がやる」
「そうかぁ? じゃ頼むなぁ」

振り返ったスクアーロは着ていたエプロンを脱いでまとめながら、立ちあがって脇のフックに引っ掛けた。
フックのヘッドが赤と青、赤のほうに赤いエプロンをかけて、スクアーロが戻ってきて座る。
ああ、そうか、と思って一言、いまだに小僧扱いされている、二大剣豪のひとりが口を開いた。

「なぁスクアーロ、あそこのエプロンって、引越し祝いに笹川先輩が送ったやつ?」
「そうだぞぉ。よく知ってるなぁ」
「俺、ナニお祝い贈ればいいのかって、先輩に相談受けたのなー」
「そうだったのかぁ?」
「エプロンとかいいんじゃね、って言ったんだけど、色は知らなかったのな。でも、ちょっと意外だったのな」
「何が?」

首をこてんとかしげて人を、見上げるように見るのはスクアーロの癖のようなもの。
そんな顔をすると今でも本当に、どこかの人形のように見える灰青の瞳が透き通って、少しどきりとするのも、いつものこと。

「たぶん逆のイメージで選んだのかなーって思ってたからなのな。俺、スクアーロが青で、ザンザスが赤のイメージで話した記憶があるんだけど、スクアーロが赤いの着てるとは思わなかったのな」
「そうかぁ? そうでもねぇと思うけどなぁ」
「そうかもね。あのさー、ここにあるキッチンツールって、スクアーロが選んでるのな?」
「あー、? まぁそうだなぁ、俺が使うほうが多いからなぁ、俺が選んでるぜぇ。それがどうかしたのかぁ?」

「ふぅん。だと思った」
「なんだぁ?」
「んー? だって今もさ、……見えるとこに置いてある皿とかさ、…おたまとか、鍋とか、菜ばしとかがさ―、……見えるところにあるの、全部赤いのな―って思ったのな――」
「ああ、そういやそうだなぁ…。気がつくとつい、赤いの選んじまうんだぁ」
「赤ってイタリアの国旗の色だしね?」
「あぁ? そういやそうかもなぁ、気がつかなかったぜぇ! 大体、赤とか黄色とかのほうが料理がうまそうじゃねぇかぁ?」
「でもあんまり日本人って赤い道具選ばないと思うんだけど…最近はそうでもないのかなぁ?」
「そうかぁ? でも赤ってすげぇいい色だろぉ? トマトソースの色だしよぉ。赤が嫌いなイタリア人はいねぇぜぇ。俺は好きだけどなぁ」

「スクアーロがさぁ、赤が好きなのは、さ、……ザンザスの、瞳の色だから――だろ?」
「そりゃ当たり前だぁ!」

何を当たり前のことを聞いてくるんだ、とでも言わんばかりのスクアーロに、山本はつい、笑みがこぼれてしまう。
二人は仲良くやっているようだ。

そんな話をしていると、キッチンからザンザスがやってきた。
綺麗に二人の前を拭いた後、ランチョンマットを置き、カトラリーを置き、二人の前に前菜とサラダ、グラスにワインを置く。

「タケシぃ、これ、そこの畑で作ってるレタスだぁ。食ってみろぉ」
「えー、マジ? 家庭菜園やってるって聞いたけど本当なんだ!? うわーおいしそう、いただきます!」
「ドレッシングも作ったんだぁ」
「へぇー! すごいのな!」
「知り合いの人に教わったんだぁ! 後でお前んとこにも教えてやれぇ!」
「知り合い?」
「こいつは」

いままで黙っていたザンザスが口を開く。
山本は至極珍しいことがあるものだと思いながら、フォークでサラダの上のたまねぎを突き刺した。
口に運んだサラダは確かに大変おいしいが、なにぶん量が凄かった。
大変綺麗に盛り付けてあるのだが、皿がとにかくでかい。
味噌汁をよそる汁椀より一回りほど大きい。

これ本当に一人分か…? と思いながら山本はザンザスを見ていたが、全員の前に一皿つづ置かれたので確かにそのようだった。
前菜はトマトにモッツァレラチーズを挟んで、オリーブオイルに青紫蘇が散らしたものがたっぷりと盛り付けられている。分量も内容も、山本の腹には不足はない。
もう若くねぇんだからいい気になって食うんじゃねぇ! 動きが鈍くなったらどうすんだ! と、獄寺あたりから文句が出そうな量である。

「会合に出てはそこいらじゅうで、女をたぶらかしてきやがる尻軽だからな」
「たぶらかしてなんかいねーぞぉ!」
「ああ、悪かったな、女だけじゃなくて男もだったな、この淫乱が」
「向こうが勝手に声かけてくるんだからいいだろぉがぁ!」
「へぇ…そうなんだ…?」

その話は聞いたことがない。
本当だろうか、と思いながら、すぐにああ、そうだろうな、と山本は思い返した。

スクアーロはいつもまっすぐで、しゃんとしてて、綺麗なのだ。
外見が人形みたいに色がないから口を開く前はとっつきにくいだろうけれども、しゃべればすぐに、この男の輝きに、誰もが魅せられ、惹かれてしまうことだろう。
自分と同じように、鮮やかに。

「珍しいから気になるんだろぉ!」
「そんだけじゃないと思うのなー……。スクアーロ、いつもこんな感じなんだ?」
「ドカスはいつまでたってもドカスだ」

そういいながらスクアーロが開けたワインをグラスで受けて、うまそうに飲んでいるこの男の、それが最高の愛情の表現だと、知らないほどの時間をすごしているわけではない。
いつまでも変わらずの愛情を、示している言葉をこうやって時折、無意識か意識的にか、自分に漏らすのは――今でも少し、牽制されているのかもしれないと、思わないではないけれども。

ザンザスは案外――というかそのまま、というか――非常にさびしがりで甘えん坊で、スクアーロとは全然別の意味で、非常に愛情深い男なのだと、山本はよく知っている。
愛情が深いからこそ、その裏切りに耐え切れず、何もかもを破壊し、復讐しようとするほどには深く、愛するものを捨てきれず、忘れない男なのだ。
存在をまるごと全部、すべてを賭けてこの男を愛しているスクアーロと、過不足なく愛情の取引が出来るのは、世界のうちでもこの男しかいないだろう。

「ジャッポーネの女はやさしいからなぁ、俺がなんも知らねぇから、哀れに思ってんだろぉ」
「それで庭の木を持ってくるかよ」
「変わりにソースやってんだからいいだろぉ!」
「ハッ、……そんでまたジャムとかもらってりゃ世話ねぇ」
「いいじゃねぇかぁ! 食いもんには罪はねぇぞぉ! 毒見だってしてるだろぉ!」
「あー……」
 
このまま放置しておけば、自分を無視して延々と痴話げんかを続けそうだ。
適当なところで切り上げて、ザンザスが振舞う食事を味あわせてくれないかな――と、山本はそっと、二人の会話に口を挟む。

「ジャムとかソースとかって全部作ってるのか?」
「あぁ? ジャムはパンに毎日塗るからいくらあってもいいだろぉ! ソースだって同じだぁ! トマトソースを作るのは重要なイタリアの男の仕事なんだぞぉ!」
「…そうなの?」

何故かえらそうなスクアーロではなく、ザンザスに聞いてみれば、こっちもその通りだと言わんばかりに大きく頷いた。

手にもった大皿をようやくテーブルの上に置いてくれる。
前菜とサラダの後はスープだっけ? と頭の中ですっかり馴染んだコースを思い浮かべながら、しかし山本はスープをすっ飛ばしてメインが出てきたのに少しびっくりした。

「スープは後で出すから待ってろぉ。まずはメインのカチャトーラからだぁ」
「うわ、すっごいいい香り…。まさかこれも、作ったの?」
「自家製でも作ったけどなぁ、足りるわけがねぇだろ。これは多分トマト買ったやつだと思うぜぇ」
「え、ソースじゃなくてトマトのほう?」
「んー、なんか話つけてくれてよぉ、作ってるうちに直接、出荷出来ないトマトもらいに行ったんだぁ。それで作ったのはまだあるぜぇ。来年まではもつと思うぜぇ」
「…そんなに作ったのな?」
「本当は一年分くらい作っておくもんなんだぜぇ!
 俺も最初そんくらい作ろうかと思ったんだけどよぉ、ジャッポーネは夏の湿気が多いから夏を越えるのが素人だとちょっと難しいって、ヒバリに言われたからよぉ……」

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