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XSの日ですよ更新 「まちでうわさのおおきなおうち」1

これは出そうな「まちでうわさのおおきなおうち」から
前の部分を続けて!

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久しぶりに晴れた。

この季節には珍しいらしい、長い雨が降っていて、なかなかはっきりしない日が、もう四日も続いていた。
この国の季節を一年三百六十五日、全部知るのは二人にははじめての経験なので、どんな季節も新鮮に思えるのは確かである。
田舎というほど田舎ではないが、ターミナルの駅からは車で三十分くらい。山はあるが平野で景色はよく、雪もそれほど降らないらしい。
さすがに二人が長年過ごしてきた欧州の、あの乾いた気候から比べれば、十分寒いし湿気が多い。
水も空気も全然違う、さすがに一年が過ぎればようやく、体もこの地の水に、慣れてきたような気がしないではない。

「なぁ」
「ん?」

ベッドに同衾するのはもう、何十年にもなる習慣のようなもの。前夜に何かをするかどうかは別として、一緒に寝るのはもう、習慣というよりは日課。お互いに相手がそこに生きていることを確かめるための、仕事というよりは、生活のようなもの、人生や生きがい、毎日の食事の時間や歯磨きをすることや、起きたら飲む一杯の水、そんなものに、すでに近い。

「最近さぁ、なんか髪のカンジ、変わってねぇかぁ?」
「あー? そういやおまえ、頭のカンジ、変わった気がするな」
「日本の水のせいかぁ? 最近髪がみょーにこう、……なんつーか…」
「手さわりがよくなったな。悪くねぇ」

そんなことを言い、手を伸ばすのは、いつもの男の慣れた手つき、そのもの。
それが撫でる小さい頭の、肩を流れる髪の艶も量も、随分少なくなったけれど、気に入っているのは変わらない。
さすがに若い時分のように、腰まで長く、伸ばすことはもう、しなくなって久しいが、それでも肩を超える長さでそろえられた銀の――いまでは本当に、しろがねの名そのものに近い髪の、いとおしいひとの体を、確かめるようにして、赤い瞳の男が撫でる。
言われてみれば確かに、昔よりずっと、しなやかになった気がしている。
前はもっとさらさら指の間をすり抜けるようだったが、今は吸い付くようになめらかで、年とともに失ったはずの柔軟さが、戻ってきたのではないかと思うほどには、その手触りが変わっている。

「あんたの髪も、なんか、……前より黒くなったような気がするのは気のせいかぁ?」
「心労がなくなったからじゃねぇのか」
「そうかもなぁ…毎日腑抜けた生活してるしなぁ、俺ら」
「染めるのをやめたから楽になったんだろ」
「かもなぁ…。最初はそのアタマ、見られるのイヤだったんだろ、ザンザス」
「あいつらが毎回、顔みるたんびに聞いてくるからうぜぇんだ」
「そりゃなぁ……、………でも、………」

白い髪のアンタもかっこいいぜぇ、と――続けようとして、スクアーロはさすがにそれを口にするのはやめた。

なんだか恥ずかしいというよりは余分なことのような気がして、いい気分で自分の髪を、撫でている男の指先が、枯れて乾いて節くれだっているけれども、それも悪くないというか――ひさしぶりに昨晩、たっぷり肌を撫でられたことを思い出して、少し、余韻に浸っていたいような、そんな気分になってしまったこからでもあるし、久しぶりに交じった体の奥が痺れていて、腫れぼったくて、懐かしくて、いい気持ちだった――せいもある。
肌を直接、触れるのはいつだって、気持ちがいいし、懐かしい。この手に撫でられるのは本当に、初めて触れられてから四十数年が過ぎてもまだ、いちばん気持ちがよくて、肌に馴染むばかりで、とても楽で、嬉しいのだ。

「日本は水が違うからだろぉなぁ…肌もなんか、妙にべたべたしてるしよぉ」
「そういうのはしっとりしてるって言うんだろうが」
「…アジア人が若く見えるのってこのせいかなぁ…」
「おまえも十分化け物らしいぞ」
「んなわけあるかぁ…まぁ、まだコッチはまだまだ現役だけどな」
「あたりめぇだ。枯れるには早ぇだろ、六十にもなってねぇ」
「まぁなぁ……」

いつもより早い時間というわけではないが、二人とも、しゃっきり起きる、気分にならない。というよりは、なれない、と言ったほうが正しい。
 
年をとっても出来るうちは、セックスをしない、という選択肢がないのがイタリアンだ。六十でも七十でも、生きている間は恋愛は現役、生きている限りは恋をして、恋をしたらセックスをするのが当然、と思っている。だからつまり、結局は、いくつになっても二人して、現役で閨事を繰り返しているのは、同性同士であっても、変わることはない――寧ろいっそう、それが重要になってくることも、きちんと理解しているのが、退廃で国を滅ぼした王国の末裔らしい発想だ。
さすがに若い時分のように、顔をつき合わせている間は毎日、というわけにはいかないが、それでも体調がよければ週に一度かそれ以上、肌を合わせることを怠ったことはない。交わらなくても触れるだけで、満足する日もあるようになったのが、若い時とはかわったことだといえるかもしれない――けれども。

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