Buon Compleanno まであといくつ? 「おっ馬鹿鮫ハッケーン」地下の酒蔵からワインを持ってくる途中に、ベルフェゴールに会う。ふらふらと重心のない歩き方は軽やかで、声に曇りも何もない。基本的にこいつはいつも機嫌がいい。というか、機嫌が悪い時は声をかけてこないのだ。言葉より先にナイフが飛んでくることが多いから、少なくとも俺を呼ぶ時は機嫌がいい時だ、ということになる。「おう」「なになにー? お使いしてんの?」「ワインと食いもんとってきただけだぜぇ」「いやーなんか? 顔見るの久しぶりだなって思ってさ?」「そんなもんかぁー?」「一週間くらい会ってないじゃん。二週間かも?」「そうだったかぁー?」「どっかでくたばってるんかと思ってたよ」「それはてめぇだぁ」大股で歩く周りを、ふわふわと歩きまわりながらついてくる。なんだかそんなこともひどく懐かしく、そういえば最近、王子はあまりまとわりつくことをしなくなった気がする。話では、俺がいない時にボスの部屋に入り浸っていることが多いとも聞くが、もちろん自分が不在の時のことなので、真偽のほどは定かではない。「これからボスのとこ行くの?」「まぁなぁー、珍しくボスさんがワイン飲んでるからなぁー」「へーぇ?」「つまみ作れってうるせぇからよぉ」「甲斐甲斐しいねぇバカ鮫」「バカは余計だろぉ」昔はもっと装飾的な格好を好んでいたベルフェゴールは、最近めっきり服の趣味が変わった。色の趣味がワントーン彩度を落とし、肩や足を出さなくなった。あんなに嫌っていたネクタイもちゃんと締めるようになったのには驚くばかりである。「あのさー」「なんだぁ?」「バカ鮫に王子からの施ししてやるよー」「は?」ベルフェゴールは懐から、さっと一枚の薄いカードのようなものを取り出した。それを器用に、ワインのボトルとオリーブオイルで漬けたマグロの瓶を持っている俺の懐に投げ入れる。「なんだぁ!??」「ボスの部屋に行く前に開けてみろよ~王子様やっさしぃー!」「なんでこんなもん、おい!」ベルは品物をすっと落ちないように開いたシャツから奥のほうに差し入れた。なんだこれ?何をと聞く前に王子はひらりと踵を返し、すばやく立ち去ってしまう。その足取りの早いこと!歩きながらそれを取り出すのは不可能に近かったから、一旦瓶とボトルを、廊下の張出し窓に置く。それからシャツの合わせに差し込まれたものを取り出した。薄いカードかと思ったが、感触からするともう少し厚みがある。封筒かと思って見れば、それを模したパッケージになっていて、入り口を蝋で封緘してある。なかなかに凝ってるじゃねぇかと思いながら開けると、中身はホワイトリネンのチーフだった。薄く端にイニシャルが縫いとってあり、全体に透かしで斜めの細いラインが織り込まれている。パーティに護衛で行く時に結構使うから、確かにあれば嬉しい代物だ。しかしなんでこんなものを俺によこすんだ?何かあったっけか、俺はそう思いながらパッケージにチーフをしまい、それを脇に挟んで、ボトルと瓶を持ちあげた。これをボスの部屋に持っていくのも危なそうで、一旦部屋に寄って置いてきてからまた行くことにした。 [3回]PR