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暁と黄昏の十二時間・サンプル・2

 結論から言えば、匣兵器は驚くほどあっさり見つかった。

 イースターエッグを探すのよりも多少面倒な手続きを経て、たどり着いたそこで手に入れた匣の中身はこれから得るはずなのに懐かしさすら感じるそれで、投入した炎に反応した音すら郷愁を感じてしまう。
 そんなことはない、これはみな「これから会う」べきものだというのに。

 二度目の匣生物の生育は非常にスムーズで、未来の世界では手間取った孔雀の孵化もミンクの餌もライガーの躾も、今度はひどく簡単で、拍子抜けするほどだった。
 未来の世界では半年近くかかったライガーの成体への変態もわずか五日で過ぎてしまって、物足りない意見が噴出したほどだ。

「まさかこんなに早くこいつがここにいることになるとはなぁ……」

 談話室に続くキッチンで、人参の皮を剥きながら、スクアーロは呆然とつぶやく。
 その隣で戻したドライトマトをみじん切りにしているルッスが、そうねぇと鷹揚に同意する。
 スクアーロは返事をする前に、足元で子供が泣くような声が上がる。
 視線を下ろせば、フローリングの床の上に、ちょこんと鳥が一羽、尾羽根を垂らして佇んでいる。
 蛍光のグリーンとブルーの飾り羽にブラックとブラウンの目玉模様の尾羽根はまだ短いが、羽先を床にこすらぬよう、姿勢よく尻をあげてスクアーロの足に長い首をこすりつける、その仕草はまるで猫のようである。
 しかし二本の足は太くてたくましく、爪は鋭くて長い。
 普段はめったに鳴かないが、威嚇や要望があるときだけ、まるで人の声のように鋭く、一声だけ声を上げるのだ。
 いまはまだ子供なのでくちばしもそれほど頑丈ではないが、成鳥のそれはかなり強力な武器で、毒蛇すら突き殺す威力がある。
 クジャクはその麗しい外見に大抵の人間は騙されるが、実際はかなり悪食で凶暴だ。その鳥を模した匣兵器であるところの晴孔雀が、スクアーロの足元で優雅に侍って立っていた。

「こいつしまっておかねぇのかぁ?」
「あら出てたね、クーちゃんったら。羽が料理に入ったら嫌だから、しまうわね。さ、クーちゃん」

 手を拭いたルッスーリアが、エプロンの下に手を入れて匣を取り出して蓋を開ける。かすかに鳴きながら極彩色の孔雀がその中に消え、パタンと勝手に閉じてしまった。

「そいつはまだ小せぇなぁ」
「そりゃそうよ。まだ大人になったばっかりよぉ」
「あれくらいになるにはどんだけかかるんだぁ?」
「そうねぇ、あとしばらくはかかるんじゃないのかしら。毎日お手入れしてるけど、どうなのかしらねぇ。前は一夏越さないと駄目だったけど、今回はそんなにかからないと思うわ。本当なら、孔雀って、夏を越えないと駄目なんだけどね」
「そうなのかぁ?」
「クーちゃん、今はまだ目玉の羽が少ないでしょ? 孔雀は大人になるにつれて目玉の数が増えるの。だいたい六つくらいになると一人前らしいわ。クーちゃんはまだ子供なの」
「そーいやオマエのまだ一つしかねぇな」
「これからどんどんキレイで立派になるかと思ったら、オシャレにも意欲が湧くわねぇ」

 そう言いながら刻んだトマトとオリーブオイルをかるく混ぜて味を整え、冷やしておいたモッツァレラチーズと生ハムに回しかけてゆく。
 別の皿にはバジルペーストにアンチョビを入れたディップにコルシーニのグラッシーニが準備され、酒のアテとして整えられてセットされた。
 それを、目的地まで持っていくのは今のスクアーロの役目だ。

「はい、できたわよー、持ってって」
「おう」

 答えながらしかし、普段よりどうにも、スクアーロの動きははっきりしない。彼のボスのところに酒のつまみを持って行き、そのままボスの部屋で朝まで過すのが、ここ最近のスクアーロの日課になっていることを、ヴァリアーの幹部は全員知っている。
 なのに当の本人が、まだエプロンも外さずに、どうということをしながら、キッチンの中でうろうろしているのだ。

「……、行かないの?」
「あー、……うん……、……」

 水を向けたルッスーリアの言葉に答えるのにも、ひどく歯切れが悪い。

「早くしないと怒られるわよ」
「それはねぇ」
「…ないの?」
「あー、まぁなぁー」

 そんな答えを返すのは本当に珍しい、とルッスーリアは思う。
 おかしな話ね、最近ボスはとても優しいわ、この子に対して。
 だって奥の部屋からは怒号も悲鳴も呻きも聞こえないし、目の前の男の肌はいつもキレイでツヤツヤしていて、髪も目も唇も何もかも、愛されている潤いに満ちてとても綺麗だというのに。

「どうしたの。具合でも悪いの?」
「そうじゃねえけどよぉー、…なんか」
「何よ」
「……ボスのとこ行くの、なんかこぇえ」
「……なんで?」

 これは思わぬ言葉が出たものだ、とルッスーリアは驚く。まさか怖いなんて言葉がスクアーロから出るなんて、どういう風の吹き回しだろう。いや、違う、ボスに対してだからこその言葉なのかしら。

 昔から、スクアーロは怖いもの知らずの子供だった。肉体的にもそうだったが、とにかく精神的にタフで前向きで、ストレスを溜めにくい考えをする子供だった。基本的にむやみにものを怖がるようなことをする子ではない。慎重ではあるが、恐れとは無縁に見える子供だった。

 けれどそうだ、ボスが相手なら。スクアーロが初めて感じた恐れというもの、それがゆりかごなのではないだろうか、とルッスーリアは思っている。言葉にして口に出したことはないが。

「何も、されないのが、こぇえなぁ」
「あら、スクちゃんは、ボスに殴られたり蹴られたりするほうが好みなの?」
「そういう意味じゃねえけどよぉ」

 こんなに愛されてつやつやプルプルの肌をしていながら言う言葉じゃないわ、とルッスーリアは内心で溜め息をつく。

「なんか、…あんま、こう……なんか…違うもんになりそうでよぉ……」
「ボスが?」
「違ぇ」

 そこだけは妙にきっぱりと、スクアーロは返事をした。

「ボスさんがどんなになったって俺には関係ねぇよ。ただついてくだけだぁ」

 ということは。

「スクちゃん、それって」
「わかってらぁ」

 スクアーロはルッスーリアに先を言わせない。

「ボスはどんなになったってボスだぁ。…だけど、なんか、俺、俺じゃねぇもんになっちまいそうな気がすんだよなぁ」
「…それってどういうことかしら」

 なんだか聞くだけ無駄のような気がするわ、ルッスーリアはそんな予感を感じている。

「だってなんか、おかしいだろぉ…。俺はそんなことされる価値がねぇからなぁ」

 そう言いながらスクアーロは、床をじっと見つめて、そして顔を上げてからエプロンを外した。

「価値って」

 そんなものは必要だろうか。
 ただ傍にいたいから、いてほしいから引き寄せて抱きしめるだけ、それ以上の意味なんかあるのかしら?
 それにボスにとって、スクアーロの価値は計り知れないことくらい、本人以外はみんな知ってると思うけど。

「遅くなると機嫌悪ぃからなぁ。じゃ、おやすみ」
「おやすみなさい」

 手早くエプロンをたたんで、スクアーロは色とりどりのつまみを載せたトレイを持つ。
 キッチンを出ていく気配が消えてから、ルッスーリアは肩をすくめた。

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暁と黄昏の十二時間・サンプル・1

 夜の食事は明日への活力。大抵の人間にとって、一日の中で一番楽しみにしている時間である。食事は人生の享楽、家族の絆を確かめる大切なもの、それには時間も量もたっぷりかけるのがこの国の常識だ。享楽的なローマの影響を受けた国では大抵の食事はそういうものであるし、それはもちろんイタリア本土のみならず世界各地に支部をもつマフィアの王、ボンゴレの最大の暗部である悪魔の根城であるここ、ヴァリアーのアジトでも例外ではない。
 他人同士の親睦を深めるのに、食事は一番手っ取り早い方法でもある。毒物の心配のない食事をふるまうのは家族である証拠でもある。マフィアにとって食事は神聖なものだ。同じテーブルを囲むということの意味は、円卓の神話や最後の晩餐の例ををひくまでもない。

 暗殺部隊の朝は遅い。

 少し前に日本での十代目継承式から戻ってきた幹部たちは、激減した隊員たちの世話をするのに忙しくしている。
争奪戦で一気に半分以下に減ってしまったヴァリアーの人員は、今は更に減り、部下の数は幹部一人あたり二十人程度しかいなかった。中にはいまだ怪我で動けないものもおり、不足の人員の補給は、火急の案件でもあった。

(中略)

 遠い異国の地で秘密裏に行われたボンゴレリングをめぐる因縁の戦いが、長年の禍根を残したまま、密かに終わってから――ようやく一ケ月がたとうとしている。
 ヴァリアーのアジトは戦火で残った中世の城を改築したもので、天井が高く、窓が小さい。元が城下町を擁する要塞の城なので、街並みを見下ろす高台に立っていて、現在ではその姿を木立に隠し、容易に全容を見せることはない。
 その建物の二階の中ほどに、幹部のための談話室がある。そこまでは一般隊員も普通に入ることが出来るが、それ以上先は、特別な認証が必要になる。
 談話室の続きにはかなり広い食堂があり、そこに幹部一同集まって、夕食を共にするのが彼等の習慣であった。そこに彼等が長年待ち望んでいた王が鎮座するようになってから、まだそれほど日がたっているわけではない。
 晩餐の時間に一日の進捗具合を報告するのが、誰が言い出したわけでもなかったが、いつからかヴァリアーの幹部たちの習慣になっていた。
 今はちょうど、午後になってから入院している部下のお見舞いに行って戻ってきたレヴィの報告が終わり、ザンザスに回ってきた手紙や書類の裏をとっていたスクアーロが、それについて報告を終えたところだ。

(中略)

 テーブルではかすかに食器のあたる音がする。
 左手が義手のスクアーロは、どうしてもカトラリーを扱う時にあちこちにぶつけてしまうので、完全に音をたてないわけにはいかない。
 これでも八年前とは雲泥の差で、当時はしょっちゅうナイフを落とし、フォークで食べ物を口に運ぶことも満足に出来なかったこともあった。

 ……そんなことを、食事中に唐突にザンザスは思い出した。

 それは本当は、ごくごく最近の出来事だった。
 なにしろ、ザンザスはつい二月ほど前、『目覚めた』ばかりなのだ。
 九代目ボンゴレボスの持つ死ぬ気の炎によって、八年の長き時間を十六歳のまま封じ込められていた地下室から、どうやってかは知らないが、解放され、再び暗部の王として君臨するようになり、最後まで自分についてきた小生意気な糞餓鬼が、美貌の暗殺者に育ってしまったのを見て、心底驚いてしまったあの日から。
 なのに、今のザンザスには、満足に食器が使えず不器用に、失ったばかりの左手でたどたどしく食事をしていた十四歳のスクアーロを、向かいの席から内心ハラハラしながら眺めていたことを、とても遠いむかしのできごとのように思っているのだ。
 十年分の『新しい』記憶が、失った――もとより存在しないものを失った、と称することには異論はあるが、しかし他に適当な言葉が思いつかない――八年を埋めるように存在して、空虚な気分を埋めていることを感じている。
 それはまったく経験のない記憶ではある。
 だが、体感として『知って』いることでもある。
 不思議なことだとも思う。
 同時に、ひどく厄介なことだ、とも思う。
 自分にとっては少なくともそうだ、とザンザスは認識する。
 では他の人間にとっては?

「……あとは招待状が来てたなぁ。耳聡いヤツもいたもんだぜぇ、もうボスさんにパーティに出てこないかって聞いてきてるぜぇ」
「目端が効くわねぇ」
「早ぇな」
「あれ、なんでそんなもん来んの? 本部から回されてきたの?」
「まぁ、そういうことだなぁ。……俺が継承式に顔出したのがまずかったのかもしれねぇなぁ」
「なんでさ」
「いままでヴァリアーは、公式の行事に顔出ししたことなかったろぉが」
「それもそうね」

 ザンザスが凍りついていた八年の間、ヴァリアーは確かに存在し、仕事もしていたのだが、関係者はほとんど公式の場に顔を出すことをしなかった。
 そのため、ボスであるザンザスの死亡説まで流れたことも一度や二度ではない。
 ヴァリアーの存在そのものを疑われたこともある。
 しかしそのヴァリアーが――代理とはいえ、幹部が全員、日本での十代目の継承式に顔を出したのだ。
 それはボスであるザンザスが「生きている」ことを、公式に認めたようなものだった。
 そこにつけこんでくる輩は多い。
 いい意味でも、悪い意味でも。

「パーティの招待状の裏は今取ってるとこだぁ。ついでにアッチの内部事情もひと通り調べることになるなぁ。まぁ、こんな時にヴァリアーにつなぎ取ろうとかしてるあたり、ロクなもんじゃなさそうだが」
「いやぁん、私たちにも選ぶ権利くらい残してほしいわね」
「王子に串刺しにされる権利も進呈してやろっか」
「何かいいネタがあれば買うよ、スクアーロ」

 強欲の赤ん坊は抜かりない。十年後、自分が一度死んで、そして復活したことについ
て、マーモンだけはその仔細をだれにも語っていなかった。それは他の幹部たちにとってはすでに知っていたことであり、もう起こらないことでもあった。
 特にそれを何より悲しんでいた王子にとって、それは起こってほしくないことであったのだろう。
 記憶を与えられた直後から、やけに強欲の赤ん坊に対して優しく接していることを、全員がそれとなく気がついてはいる。
 マーモンもそれについては何も言わないので、それをわざわざ追求するような人間もここにはいなかった。
 悪いことがすでに起こっていて、これから起こる可能性が少ないのならば、それは問題ではない。

「どうでもいいのは無視しろ。ネタが見つかりそうなところは資料を回せ。つなぎを取るかどうかは俺が決める」
「わかってるぜぇ」

(中略)

 ザンザスの前に置かれたワイングラスが空になる。
 ふと気がついてスクアーロがそこに赤ワインを注ぐ。
 注ぐ量は半分より少し少ない。
 ちょうどいいところでついと瓶を引いてしずくをこぼさずに切る、その洗練された動きの美しさはふっと人目をひく力があった。

 むかし、御曹司の給仕をしたいのだとねだる子供に、ルッスーリアがいろいろ、教えてやったことがあった。
 当時に比べると、動作は格段の差があった。
 それは御曹司が目覚めてのち、ウキウキと給仕をしていた時と比べても、動きの洗練の度合いには、圧倒的な差があるように思われた。

 ザンザスはそれに気がついた。
 スクアーロが、どうした、と視線で聞いてくる。
 慣れた阿吽の動作が、過ごした時間の長さを物語る。
 まだ来ない、二度と来ることはない未来の。

「どうしたぁ? 次のはまだだぜぇ」

 かすかに不満をにじませたボスの表情にも、スクアーロは不安そうに伺ったりしない。
 むしろ、ゆったりとした口調で、鷹揚に返事を返してくる。
 ザンザスが眉間に皺を寄せ、ルッスーリアのこめかみに力が入り、王子がフォークを落としそうになり、すんでの所で踏みとどまっていても。

 何かを言おうとして、しかしザンザスは何も言わなかった。
 言わずに静かに酒を飲んだ。
 少し前までは、どんな酒も水のように機械的に体に流し込んでいたけれども、今はゆっくり、香りを味わいながら飲むことが出来る。
 スクアーロが入れたワインはどこか甘いような気がしてしまう。
 あの男が給仕する食事すら、普段より味が違うような心地すらしてしまうのだ。
 そんなことはないと思いながら、それでもいいと思う自分がいることを感じる。
 料理は愛情だという戯言を信じたことなどなかったが、なるほど、最後の最後にふりかけられるのは、確かに愛情でなくてなんであろうか。

 普段通りにしているつもりでも、視線の中に、カトラリーを握る指先に、食事をする唇に、十年の紆余曲折を経た記憶がにじむ。
 それは悪いことではないと、おそらく誰もが気がついている。

 セコーンドの皿は地鶏のクリーム煮。
 放し飼いでたっぷりの穀物を食べて走りまわった鶏を締め、塩をまぶして一日置いたものに香料を詰めるもの。それをコンソメでじっくり煮こんだものに、ゴルゴンゾーラのチーズクリームをくるりと回しかけている。骨ごと煮たからコラーゲンが固まってぷるぷるしている肉の周りを、人と同じように見事にすぱんと切るスクアーロが、温かい肉をボスから順番にサーブする。
 切り分けた淡いピンクの肉の切り口に、とろりと白いソースをかければ、ぐんとハーブとコンソメの香りが漂って、嫌が応でも食欲が増すというもの。

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夕闇と暁の十二時間

なんとか形になりそうな予感…!!
本のタイトルは表題の通りになりました。
意味は同じですが少し字面が変わりました。
最後まで書き終わらなかったら途中までで出します。

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自家製本のやり方について

そういえば拍手で表紙の印刷についてのコメントがあったので、こちらで頒布している同人誌についてちょっと解説を。
こちらで作っている同人誌は、すべて自家製本で作っています。いーかげんオフにしろって毎回言われているんですが、自家製本で作るスケジュールを前倒しする訓練から始めないと…ってあたりで毎回詰んでるという体たらく。いかん!!
…というのは置いといて。

本文と表紙印刷にはCANONのMP560を使っています。
こちらは黒を染料インクと顔料インクニ色使えるのがお気に入りです。顔料インクが大好きなので。でも表紙などのカラー印刷は染料インクのほうが発色は圧倒的に綺麗ですね。
表紙の紙はコミケやシティにお店を出している秋葉紙業さんの紙を使っています。
本文は近所のホームセンターで扱っている、白色度が99%の本文用紙を使っています(いろいろなものを試しましたが、このブランドが一番色が白くて、裏抜けが少なかったのです)。
最近ようやく店にあるコピー機の両面コピーのやり方を覚えたので、この夏の新刊のひとつ、「禁色」は初版では、両面コピーを使っています。
まだ本体設定がよくわからず、初版の1回目はインクが薄く、少し読みにくかったと思います。
これもいろいろ試してみないとわからないので少し使い込んでみたいと思います。

インクジェットのカラー印刷は、印字してすぐはどんな紙でも定着率がよくないです。
インクジェット専用紙の注意書きには「間に白い紙を挟んで一日置いてから」と書いてあるように、紙の水分でインクが定着する仕組みなのが、多くのインクジェットプリンターに使われている染料インクの特性です。
なので、紙より水分が多いものや湿気に弱く、そういうものに触れると滲んだり、色が落ちたりします。よくやります(笑)。(作業机の上のカップの水滴が一番の元凶)
印刷して一日置くとかなりしっかり定着しますが、水分は厳禁です。実際自分で印刷してみると、水分を吸い込む紙ならなんでも印刷できるので、レーザーやコピーより、印刷の幅が広がるんですよね~~。
取り扱いに少し手間がかかりますが、インクジェット印刷って、トレシングペーパーにも印刷できるんですよ。
吸い込みが悪いので、印字してすぐに触るとインクが落ちますが。(これも間に紙挟んで重しするとかなり防げます)

本部が80P以上になり、中綴じが無理!となった場合は、表紙にラミネート加工をかけます。
二枚の表紙を外表にして用紙にはさみ、ラミネーターを通して、周辺を切ります。
それを半分に折って、もう一度ラミネーターにかけます(表紙の反り返り防止)。
そうしておいても、紙は水分を吸うと伸びますので、背を固める糊はボンドは使いません。分厚い本の背固めに、ボンドを使うのは一番手っ取り早いですが、それやると表紙をカバーにしなくちゃいけなくなるので…。
(一般ハードカバーがカバーかけなのは、そういう理由かな?と思ったり)
熱で溶けるホットメルトを5ミリくらいの幅に切ったものを表紙と本文の間に挟んで、製本機で加熱し、上から押さえて紙を充分に伸ばしきってから、見返しと貼付け、まわりと断裁しています。
これをやると、表紙がかなり強くなって、インクが落ちたりしなくなるんですが、表紙をラミネーターに通す段階で、かなり狂うので、後の製本が結構たいへんです…。
ラミ加工の本が新書サイズなのは、本文と表紙の歪んでいる部分を断裁でかなり切ってしまって修正してるから…です。
それでもあまりうまくいってない気がしますが。

一応念のため、表紙は本文を印刷する一日前には印刷が終わるようにしています。
本文出来てなくても表紙だけ先に作って印刷しておく、とかよくある(笑)。後でやろうと思うと失敗するからね…とくに小説は表紙が顔なので、ここに気合入れないと手にも取ってもらえませんからね~~(笑)。
印刷に時間がかかるってのもありますし、先に印刷しておいたほうが、表紙の印刷定着度が安定する、というのもあります。
先に印刷して、半分に折ったまま、広辞苑(笑)で重しをして、しばらく置いておく、とかいうこともしています。
たぶんそのせいで、表紙の印刷が安定しているのではないのかな?と思っています。

でも自分の家で表紙作るって、いま文字書きしかやらないかもね(笑)。
イラストの印刷は時間かかるしインク減るし、表紙の紙に凝りたいとか仕掛け作りたい、ってんでなければ、表紙だけ印刷って、いまは同人誌関係の印刷所なくても受け付けてくれるし、データ入稿で送れば一日で送ってくれるもんね~~(笑)。
やっぱマンガはB5で読んだほうが迫力あるしなぁ。
特にいまのマンガ書いてる人のコマの割り方は、完全にB5サイズで考えている部分があるので、A5だと動かすのが難しいかもしれません。
B5本の表紙はA4で印刷できないしなぁ~~。

参考になるかどうかわかりませんが、ちょっとした小話でした。
小話にしちゃやけに長いなwww

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喜びも悲しみ幾年月(本文サンプル)

「ザンザス、…」

口にすれば、それはもう王を称える臣下の声とは異なってしまう。
王を乞い憂る吟遊詩人の口調にも似て、そこにはただならぬ恋情までもが滲んでしまう。
そんな思いを抱くことを禁忌だと、自分に課した過去もあった。
今は? 
今はどうだろう。

愛の言葉を告げられた記憶はないが、ここ一年かそれくらいは、ザンザスはあまりスクアーロを殴ることしなくなった。
ウィスキーをぶちまけられるか、髪を引っ張られるかそんな程度で、物が飛んで来るだけで実際、長いしなやかな脚から繰り出される破壊力抜群の蹴りも、ここしばらく受けていないことに、スクアーロは思い至ってしまう。
なんだかみぞおちのあたりがもぞもぞする。居心地が悪い。
眠気が又少し遠のく気配がする。

眠ろう、そう思いながらまた寝返りを打つ。
枕元に置いた携帯を眺める。
暗くした部屋の中で、その液晶の画面がてらてら光っている。
あ、と思うまもなく、画面が光って着信を告げる。

音は小さくしてあるのであまり鳴らないが、スクアーロにはそれで充分だ。
スクアーロは耳がいい。
呼び出し音はかすかに鳴る程度で充分だ。
ヴァリアーの本部以外で、呼び出し音が聞こえなくなるまで熟睡するようなことはない。
音色の違いで誰からなのかわかる。
信じられない思いで鳴り続けている小さい機械を触る。

『プロント?』
「あ、…ああ……」

電話をかけてきたのはザンザスだった。
まさか、と思いながら返事をすれば、懐かしい声が耳の中に流れ込んでくる。

「どうしたんだぁ」
『何が』
「アンタが電話、かけてくるなんて、……珍しいじゃねぇかぁ…」

なるべく普通に話そうとしたのに、何故が声が上ずってしまって震えてしまう。
何故そんなことになるのかわからないが、喉の奥まで勝手に震えてきてしまう。
不審に思われたらどうしようかと考える。
そんなことを考える自分がおかしいということはまだわかる。
そうだ、少し自分がおかしい。
今日は本当にどこかおかしい。
声を聞くだけで、こんな。

『寝ていたか』
「いや…? 酒がなんかへんな感じで残ってて…なかなか眠れなくてよぉ…」
『酔ってるのか。珍しい』

そういえば、酒を飲み始めたきっかけはそもそも、この男のせいだったことをスクアーロは思い出した。

なのにどうだろう、今はその時の怒りも何も残っていない。
何もない。
何もないところに、ザンザスの声が染みるように入ってくる。
乾いた砂漠に水が染みこむように、それは確実に体の細胞の一つ一つに入ってくる。

なんということだろう。

「どうだっていいだろぉ、んなこと」
『酔ってるな』
「酔ってちゃ悪ぃのかよぉ」
『…無様な真似をするなよ』
「んなことアンタに心配される筋合いは、ねぇだろぉがよぉ…」
『おまえの心配をしちゃ悪いか?』
「……んな、似合わないこと、すんなよ……」
『そうでもないぞ』
「なんだよぉ、……んか今日のアンタ、素直すぎて気持ち悪いぞぉ…?」
『気に入らないか』
「……過ぎた褒美だなぁ、……そんなことされるのは、……怖ぇなぁ、……」

口が勝手に動く。
これも酔っているせいなのだろうか。
それ以前にボスの、ザンザスの言葉が信じられないくらいに優しい。
いつも低くて人を威圧するような声で話すのに、電話で話すときは全然、そんな雰囲気ではないのだ。
低く甘い声で囁かれる、それはスクアーロだけが聞くことが許される声でもある。
女にはそんな声で話すんだなぁ、スクアーロはかつてそんなことを思っていたけれど、昔は必要があって囲っていた愛人にも、ザンザスがそんな声でささやいたことなどないことを、スクアーロは今だに知らない。

『おまえにも怖いものがあるのか?』
「そりゃああるぜぇ。…アンタ、俺を何だと思ってんだよぉ」
『鮫、かな』
「そのまんまだろぉ…、んなわけあるかぁ……」
『そうだな。……魚じゃないことは確かだ』
「だろぉ」
『まだ人間のままか?』
「魚になった覚えはないぜぇ」

思いつくままに適当にしゃべっているのに、珍しくザンザスがそれに付き合ってくれている。
なんだか嬉しいような、困ってしまうような、不思議な心地がする。

『スクアーロ』
「ん…?」
『…………………、この前は、………悪かった』
「ん…、俺も悪かった、ぜぇ…。ごめんなぁ……」
『帰ってくるか?』
「あたりまえだろぉ…、俺が、他のどこに帰るってんだぁ…?」

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ボスと喧嘩したスクアーロが酔っ払って電話して仲直りする話。ボス32スク30前後。
それにゆりかご初期の短い話、覚醒する前の晩夏の話、争奪戦直後のバイオレンス&ラブな話の詰め合わせです。

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海から来た男・本文サンプル

「誰だぁ!」

子どもは剣を横に薙ぎ払った。低い木立の間を、鋭い切っ先が通り抜ける。
さっきまで何の気配もなかった庭に、男はいた。

背の高い黒髪の男。
少し焼けた色の肌、広い肩幅に長い手足、スタイルがよくて均整のとれた体つき。
燃えるような赤い瞳、セクシーな口元は記憶にある通りの姿だった。
額と左頬に何かの傷跡が走っているのを、子どもは初めてそれと認識した。

昔は男の雰囲気にのまれていてまったく気がつかなったが、今なら子どもはそれが、ひどい凍傷の跡であるとわかった。

闇の中から出てきたような黒い服、ネクタイを緩めたラフな格好だったが、だらしなくは見えない。

「元気でやってるようだな」
「…あんたかぁ」
「覚えているか」
「……なんとなく」

子どもは振りかざしていた剣を納めるかどうか少し考えた。
ここは父親の屋敷の裏庭、普段めったに人が来るようなところではないが、しかし勝手に他人が入ってくることができる場所でもない。

男は父親の知り合いなのかもしれないが、今父親は家にいないのだし、客人ならばもっと屋敷の中に人の気配があるはずだ。

男のことは子どもは知っているが、しかし男が誰なのか、子どもは全然知らないのだ。

剣をしまうべきか否か、子どもは判断することが出来ない。
だが、もしこの男が自分や父親を害する人間だったとして、自分が抵抗して勝てるだろうか?
答えは簡単だった。
無理だ。
とてもではないが勝てる相手だとは思えなかった。
だったら抵抗するのは無駄なことだった。

子どもは最近ようやく手になじんできた剣を、木陰に置いてあった布で軽く拭って、ていねいに鞘に入れた。
さすがに少し不安だったので、それは手に持っていた。
去年のクリスマスに、何か欲しいものがないかと初めて父親に直に聞かれて答えたものだった。
引き取られてからなんどもプレゼントは貰っていたが、父親から直接、何が欲しいと聞かれたのは初めてだった。

「剣をしまってもいいのか?」
「あんたに抵抗したって無駄だろぉ」
「わかるか」
「わかるぜぇ。あんたに勝てそうにないってことは」
「そうか」

男はとてもうれしそうに笑った。

笑うとなんだかやけに子どもっぽく見えた。
子どもは自分が思っているより、男が若いことに気がついた。
初めて会ったときは自分が子どもだったから、本当はまだ成人していなかった男を、大人だと思ったのだろうか。
四年前、母親の葬式に来たときと、男はそれほど年を取っていないように思えた。

「久しぶりだな」
「そうか。…久しぶりなのか」
「そうだぜぇ。葬式で会ったきりじゃねぇか」
「そうか…おまえには、そうなんだな。少し大きくなったみてぇだな。今、何歳だ?」
「今度十二だ」
「そうか、じゃあ確かに、大きくなったんだな」

顔を見るたびにこの男は同じことを言うものだ、と子どもはおもった。
そんなことは他の大人も子どもに言う。
よくいう言葉だったはずだ。

なのに、子どもはそれがひどくうれしくて仕方無かった。
男の言葉で自分の成長を寿がれると、何かとてもとても嬉しくて、会ったことも感じたこともないが、神様の祝福というのはこういうことなのかもしれない。
ただただうれしくてたまらない。
体中の細胞が歌を歌い始め、踊りだしてしまいそうだ。

「そうだろぉ! うんと背が伸びたんだぜぇ!」
「そうらしいな。見違えるな」
「えへへ」

男に褒められるのはうれしかった。
胸の奥がじんと熱くしびれるようだった。

拍手[2回]

会場で「百獣の王、百花の王」を購入された方へ

大変申し訳ございません!!
「百獣の王百花の王」のお値段が間違っておりました。
会場での頒布価格を1300円と設定しておりましたが、100円多く設定しておりました。
今まで気がつきませんでした…迂闊!なんたる…!!
6月以降の直接参加するイベントで返金を受け付けますので、スペースに申し出てくださいませ。
お手数をおかけしますが、よろしくお願いします。
イベントに来られない方には返金処理をさせていただきますので、どこからでも結構ですので連絡をお願いします。その際は入金先をお知らせください。
指摘してくださった方、ありがとうございました…!!

いやーなんてボケてんでしょう…自分でした値段設定忘れてるとか老化もここに極まれり…。

拍手[0回]