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太陽と月のあいだ・1

「ただいまぁん! みんな元気ぃ?」

 赤と緑に蛍光ピンクの三色のモヒカンに、金色のフェイクファーをあわせ、黒とベージュのツートンの上着の裾をひらりと翻して、素晴らしいウォーキングで七センチヒールが大理石の床を踏む。雌伏の八年の間、ほんの遊び心で数回、デザイナーズモデルとして舞台を踏んだこともあるオカマの、その足取りはまことに美しい。
 踵のヒールは普段はことりとも音をさせないが、今は帰宅を知らせるためにわざと、吹き抜けの天井に高らかな音を響かせている。
 奥から手前から次々と出てくる部下たちに、帰宅をねぎらわれる言葉をかけられながら、手にしたバックをそれに渡す。大ボンゴレの闇を背負う暗殺部隊ヴァリアーの幹部、ルッスーリアはあたりに注意を払いながら、シャンデリアの輝く玄関ホールを優雅に歩いていった。

(中略)

歩きながらコートの前をはだけ、マフラーを解く。壁の厚さが一メートル以上もあるアジトは、冬の近いこの季節になっても、それほど寒さを感じない。そのうち暖房を入れることになるだろうが、それまではまだ少し、猶予があるようだった。

「おっかえりー」

二階への階段の途中に、ふらっと金髪の王子が立っている。
年齢よりはずいぶん華奢に見える腕の中には虹の赤ん坊の一人、アルコバレーノのバイパー―マーモンを抱きしめている。
そのようすはぬいぐるみを抱いて親の帰りを待っている子供のように見えて、ルッスーリアは少しばかり感慨を覚えてしまう。
踊り場でたどり着くのを待っている殊勝さを含めても、どこか頼りなげな風情があった。
しかたないのかもしれない。
先ごろ急激に各人に強引に押し付けられた――と彼女は思っている――十年後の記憶では、王子の腕の中の赤ん坊は、その存在を亡くしていたのだ。
十年間の自分の記憶のあちこちに、赤ん坊を亡くして嘆き悲しむ王子の、ひそかな慟哭の痕跡が残っているのを、彼女も認めているのだから。

「あらベルちゃん珍しいわね。出迎えてくれるなんてうれしいわ」
「なんかおみやげとかねーの」
「何言ってるの、アンタだって一緒に日本に行ったでしょうに」
「だってスクアーロがとっとと帰っちまったじゃん。王子全然遊びに行ってねーんだもん、買い物する余裕なんかねーし」
「そうだったの?」
「空港で店覗くのがせいいっぱいだったんだぜー。ありえねーっての」
「それはそうねぇ…」

つい先日、十代目継承式が日本であった。
九代目守護者がわざわざ、ヴァリアーの本部にまで足を運んで出席を望んだ継承式だったが、彼等のボス、九代目のただ一人の息子――いまだ公式にはそうであるとされている――ザンザスは、それを完全に無視した。
名目上は争奪戦の傷がまだ完治しておらず、継承式で失礼をするからと答えれば、それを推してまで出席を求めることは、さすがの老獪な守護者たちにも出来なかったようだった。
そのかわりにと今度はヴァリアー幹部全員の出席を求められたのには参った。
各人、渋々それに応じはしたが、ボスを一人残し、全員が日本に赴くというのは、いくらなんでも危険が大き過ぎる。
しかも今はまだ、本当にボスが帯びた指輪戦での怪我が完治しておらず、その状態で一人暗部の城に彼を残すなど、普通だったら考えられないだろう。

結局、ルッスーリアとレヴィ・ア・タンが密かにイタリアに残ることになり、スクアーロとベルフェゴール、マーモンの三人で継承式に出席することになった――というあたりが落としどころだと言えた。

ボスであるザンザスが出席しないのであれば、副官であるスクアーロが代理で行かないわけにはいかない。
不足の二人を幻術で補うために、マーモンの出席も必須だ。
マーモン一人では行動に制限が出るとベルフェゴールが言い出し、結果的にこのメンツで日本に行くことになったのだ。

継承式は滞りなく始まったが、しかし式の中途で妨害が入って中止になった。かつて一世と共に創世のボンゴレを成したと主張する、シモンファミリーと言う集団が急襲してきたのだ。

その後彼らと十代目のファミリーが戦うことになったのだが、ヴァリアーも九代目の守護者もそれに関わることを、九代目直々に禁じられてしまった。
そうなるともう、スクアーロには日本に来た理由がなくなってしまう。
一刻も早く、ザンザスの元に帰りたくて仕方なくなってしまう。
今回の用向きは継承式に顔を出したことで果たしたし、これ以上自分が日本にいる理由はないだろう、とスクアーロは判断したらしい。

本国で暇と指輪戦の療養を兼ねていた残り二人の幹部に、代わりに日本で監視ついでに遊ばねぇかと話を持ち込んで了承されるとすぐに、スクアーロはとっとと空港に足を運んで帰国する段取りをつけてしまったのだ。
継承式のあと、少しは日本で遊べると思っていたベルフェゴールはぶうぶう文句を言っていたが、スクアーロはそんな言葉に一切耳を貸さず、矢のようにイタリアに戻ることになった。
マーモンの体調だけが心配だったが、強欲のアルコバレーノにはそれよりも自分の金融資産のほうが気になったようで、スクアーロの帰国に一切文句を言わなかった。

おかげでベルフェゴールは不満たらたらなのだ。

(中略)

「そんなに慌てて帰ったの」
「打ち合わせしたその足で空港だぜ。マジ信じられないっての」
「どこぞのCEOみたいね」
「んなに慌てて帰ったってしょーがねーのにさぁ」
「スクちゃんにはそうでもないんでしょう」
「だったら一人で帰れっての」
「まだ監視ついてるんだから無茶言わないの」

シモンファミリーとの戦いにヴァリアーは一切かかわるべからずと、九代目自らがそう決めたのだ。
そうなったからには彼らが日本にいる理由がない。
スクアーロは体調が悪いので本国に帰りたいと帰国を申請し、(実際のところスクアーロが指輪戦で受けた傷はほとんど回復していたのだが)許可が出るよりも先に彼等はイタリアに戻ってしまっていた。

(中略)

「アナタだけ? スクちゃんはどうしたの?」
「朝飯食ったらまたボスんとこ行って戻ってこないんだけど」
「…あらまぁ」
「朝だってもうすんげぇボロボロでっさー、よろよろしてるんだぜ! こう、ふらふらしててさぁ」
「ベル、それはボロボロというよりやつれてるって言うんだよ。色やつれというんだったかな?」

王子の腕の中で黙っていた赤ん坊が口を開く。

「あらやだ」

少し色気のある話題に、オカマはわざとらしく口に手をやりながら階段を登った。
二人とも、気配はするのにコトリとも足音がしない。

「でさー、ホントに何もおみやげとかないのー?」
「そんなわけないでしょう。手土産に入れられたお菓子くらいは出せるから、お茶にしましょう」
「やったー」
「それはなんだい?」
「お茶の時間のお楽しみよ」

どうやらスクアーロは元気なようだった。

継承式で日本に行く前から、ボスとその副官の関係はどこか、殺伐とした探り合いから、淡い色を含んだ関係になっているような気がしたが、どうやら自分がいない間に、それは一層濃く色づいてきたらしい。

色欲の名をもつオカマの足取りは軽い。

「着替えてきたらお茶しましょ」
「遅れたら殺す」
「遅刻したら罰金だよ」

口の減らない子供たちねぇ、そんなことを思いながら私室に戻ったルッスーリアは、一週間ぶりの自室がなんだか、ひどく懐かしくもののように感じてしまっていた。

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冬コミ予定の本
継承式からアルコバレーノ戦までの間を勝手に捏造する話(の予定)

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