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残念な神が支配する・3

AM9:15

なんだかよくわからないがボスと俺の中身が入れ替わってしまったらしい。
一言で言えばそうなるが、しかしこの状況を受け入れるのはいかんともし難い。というか受け入れたくない。困る。
だというのに何故か、ボスはやけに柔軟にこの状況を受け入れていることに実は内心すごく驚いている。もっと怒ったりとかパニックしたりとか無茶なことをするのではないかと思っていたからだ。
俺があんまり驚いているから逆に冷静になってしまったということもありうる。仕方ない、俺が動揺するのは仕方ない。だってボスの体だ、毎日見ているボスの体の中に自分が入って体を動かしているというその状況がそもそも想像のキャパシティを超えている。信じられない。
だがしかし、これが現実、らしい。

食事で一番困ったのは食器の扱いかただった。
そもそも俺は元が左利きで、それを途中で右でも使えるようにと訓練したものだから、あまり食事のマナーがなっていない。どうしても食事途中で食器がぶつかってかちかち音を立ててしまうし、力がうまく入らないから、肉を切るのは下手ではないが、切り分けることがどうにも苦手だ。
なのに当然ながらボスの体でそんなことはなく、左手があるという状況で食事をするのがあまりに昔で、普通に思うとおりに左手が動くことに、ひどく感動してしまったのだ。それと同時に、ボスの指先のあまりに繊細で精密な動きにも、俺はひどく感動してしまっていた。

自分の体だというのに。
これではナルシストではないか。
そう思いながらも、中身がボスだと思うと、それでもいいような気がしてしまう。
なんだか自分の価値観がひっくりかえってしまいそうだった。
そんなに俺、ナルシストだったんだろうか。

食事はたぶんいつも通り、それなりにおいしいものだったんだろう。
ボスの体で食べているせいか、なんだか少し、物足りないような気がする。
味の感じ方が少し、違うような気がする。どこがどうという違いもわかるような、わからないような。
ボスの味覚はこんなに俺と違うんだろうか。
確かにボスの体の感覚は全然、自分のものと違うような気がする。自分のいつものつもりでいると、思ったより遠くに体が行ってしまう。指の関節が少し固い。手を回したりするとき、少しだけ可動域が狭い気がするが、それを補って余りある筋力がある。
シャワーを浴びてきたときは、あまりに動揺していてろくにボスの体を見る余裕もなかったが、ボスの体、なのだということを今頃になって感じている。
スムーズに繊細に動く左の指先が、自分の意思で動くことの不思議さに、なかなか慣れることが出来なかった。

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