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もてる男

※R18
※倦怠期通り越してるXS
※たぶん30代半ばあたり


「あいつは多分女が嫌いなんだろうなぁ」スクアーロはグラスを一気にあけた。そんなに一気に飲むのは珍しい。
「嫌いというより怖ぇんだろ。巨乳が好きな癖にな」「そうなのな」「そうだぜぇ。ママのおっぱいが恋しいんだろ」「男はみんなそんなもんだろ?」「日本人のおっぱい好きは有名だもんな」「いいじゃんおっぱい。男のロマンでしょ」「そんなもん、つっこむほうがいいに決まってる」「洋物のAVってホントそんなんだもんなー」酒飲談義は大抵シモネタと相場が決まっている。好きな女の子のタイプを明かし合うと打ち解けた気がする。スクアーロの好きなタイプの女の子ってどんなの?それだけを口にするのに山本はなけなしの勇気を振り絞った。スクアーロはザンザスの恋人だ。もう十年も前から。
俺は金髪のよく喋る明るい女が好きだ、スクアーロの言葉にちょっと驚いた。やけに具体的だなと水を向ければ、そういう女は俺が声かけてもちゃんと返事してくれるからな、と返事。
「ナンパとかすんの?」「しねぇのか?」質問に質問で返すなよ、するの?したいと思ってしてるわけじゃねえけど、目が合うと声かけてくるだろ、だから返事する。値踏みされて合格すれば一緒に部屋に行く。そんなもんだろ。「へー」すごいな。てめぇだってしてるだろうがぁ、スクアーロはまたワインを干す。空いたグラスに注ぐ。今日は随分飲むなぁ、自分も同じくらいのペースで開けながらちょっとだけ山本は気にかかる。
「俺の話はいいじゃん」「おめーはモテるだろうなー。そしてこれからもっとモテる」「断言するね」「強い男だからなぁ」強い?そんならスクアーロの方が。「馬鹿言うんじゃねーぞぉ、強い男ってのは女にとっちゃ一番魅力的な獲物だろーがぁ。いい種取るのは本能だろぉがぁ」「スクアーロだってそうじゃん」「そうでもねぇぞ」スクアーロの目元が赤い。「キレイだし」「ばーか、キレイな男ってのは案外価値がねぇんだぜ」そうなの?「賞味期限が短いからなぁ」そうでもないと思うけど。「アジア人は馬鹿みてぇに若いからなぁ」よく言われるけど、それっていいこと?「いいことだぜぇ」
てっきり大人っぽい大人のほうが価値があると思ってたけど。「それとこれとは別だぁ」別なのかな。同じみたいな気がする。「てめえらはなんでも可愛いですませるじゃねぇかぁ」そうだね。
可愛いってのは自分より劣ったものを愛でる気持ちだ。小さい物、愛らしい物、価値がないもの、ささやかで美しいもの。それを愛でるから可愛い。自分より圧倒的に素晴らしいもの、強烈に強いもの、神々しいほどに美しいもの、畏れるほどにすばらしいものをかわいいとはけして言わない。知ってる、それは知ってる。山本は昔スクアーロを可愛いとおもった時のことを思い出す。
「可愛い女ってのは結構長いこと価値を保てる。男に優越感を感じさせることが出来るからなぁ。そういう女は長く価値がある。キレイな女はどうだ?かわいくねぇだろぉ。綺麗な女は可愛いとは思われにくいだろぉ。綺麗であり続けることは面倒だし大変だ。そんな努力を続けることはそうそう出来ねぇだろ、目的がなけりゃあな」綺麗な人が綺麗なままでいるには何が必要かってこと?「そうだ」それは可愛いの逆だよね。自分より上のものを賛美する気持ち。畏怖とか、敬意とか、そういうもの。だから俺、スクアーロを綺麗だと思ってるのかなぁ。「そうかよ」…そこ少しは嬉しそうにしてよ。「してほしいか?」……なんか気持ち悪いから別にいい。「そうか」飲み過ぎてない?今日そんなに飲んでいいの?運転しないの?「いいんだ」へぇ。
「ザンザスは――女が怖いんだろぉよぉ」スクアーロはワイングラスに自分でワインを注ごうとする。手酌なのにやっぱり優雅だけれど、少し手元が危なっかしくて瓶を奪って注いでやる。山本もだいぶ指先があやうい。
「母親が嫌いなんだろうし、女にいい思い出がねぇんだろぉなぁ。御曹司時代にもいろいろ、あったんだろうしよぉ」スクアーロの眼の色がすうっと薄くなる。ザンザスのことを考えてる時の癖。焦点が少し遠くなるというか、そんな感じ。それが見えるほど近くで何度も見たから山本にはわかった。自分が大人になったのと同じで、スクアーロも年取ってる筈なんだけどな。昔はすっごいキラキラしてて眩しかったけれど、今はずっと静かに光ってる感じ。刀工が作った日本刀みたいだな、と山本は思っている。昔はおろしたてのナイフみたいだった。今は博物館にあるような名刀の雰囲気。刃の波紋が美しくて、引きこまれてくらっとしてしまいそうな。
「綺麗な男の機嫌は短いぜぇ。次の手を打たねぇとすぐに枯れて捨てられちまう。それに比べりゃ強い男の価値はそう簡単には下がらねぇからなぁ。昔強かったってのは武勇伝になるが、男も女も、昔綺麗だった、ってのはただの回顧録だろ?誰も読まねぇ」そうかなぁ。「まぁそんな強い男が女がダメだったのが笑えるんだけどな」へー。
スクアーロは声を殺してくすくす笑う。背中に流していた髪が流れてスーツの上を滑る。前髪が顔にかかって邪魔じゃない?なんて言ってこの前中国で買ったピンを渡した。小さい魚のチャームのついたピンで、前髪を止めている。
「強い男ってのはモテるからなぁ。女にも、――男にも。おめぇんとこのボスも色気出してきやがるし」ツナが?まぁ、ザンザスがいないと舐められてばっかりだからしょうがないよ。「そりゃそうだ」確かにすごくアテにしてるよね。「されてやってるんだぜぇ」そうかもなー。強い男は男にこそモテるよね。うん、確かに。
「ザンザスはなぁー」はいはい。スクアーロがザンザスを名前で呼び始めるのは酔いが回ってきた証拠だ。普段はボスさんとかボスとかあいつとかいうもんな。時計をちらりと見れば、そろそろあっちも終わる時間だ。酒出して飲ませていいと言われたけれど、ホントにこんなにしちゃってよかったのかな?
廊下に足音、ドアが開く寸前にスクアーロの視線がそちらを向く。早いなぁ、ホント。手にしたグラスを押しつけられる。綺麗に空っぽでいつの間に飲んだのか気が付かなかった。あのさ、スクアーロ、続けようとして別れの挨拶に顔を近づけられる。「てめぇもボスさんに色気出すなよ」えっ。
山本は固まったままスクアーロを目で追いかける。ドアの間から彼のボスが見える。視線だけでスクアーロは動き出し、上着をハンガーから取る。袖を通してボタンを嵌め、少しだけ雑な動きで部屋を出て行く。ザンザスの前を通し抜ける。ザンザスがドアを開けて待っているのを、一歩立ち止まって待ってから、視線で動かされて先に部屋を出る。ザンザスがドアを閉める。目が合う。なるほど、威嚇とはこういうふうにするものか、と山本武はひとつ学んだ。今日は自分も酔っているようだ。スクアーロの後ろ姿を見届ける事ができなかったのが証拠だ。

酔ってるなと言う前にスクアーロの腰に手を回した。途端に腕の中で体がぐにゃりと緩む。「飲み過ぎだ」そうだなぁ、吐き出す息が酒臭い。「何管巻いてるんだ」いいじゃねぇかぁ。いいわけあるか、脇に手を回そうとしたけれどそれは断られる。少し休むか、いい、帰ろう。屋敷はやけに広くて大きい、勝手知ったるつくりだが、玄関までは長い廊下を抜けて、中庭を通り抜ける必要がある。冷たい風にあたれば少しは酔いも覚めるだろう。
スクアーロの体温が少し高い。足取りはふらついていないが、平衡感覚がおかしいのか。珍しいと思いながらザンザスは普段よりゆっくり歩いて玄関へ。連絡が回っているのか、車はもう回されている。鍵を受け取ったのはザンザスで、玄関で客人を送り出す役目のポーターについた執事が少し前を細める。
車の周りを回って歩いてから下を覗きこみ、トランクを開けて中をひと通り見てからドアを開ける。全部のドアをひと通り開けてから締め、助手席のドアを開けてスクアーロをそこに突っ込む。自分でシートベルトをするのを確認してザンザスが運転席に回るのを、ドアの中から驚いた顔をして執事が見ていた。
「なぁ」スクアーロが口をひらいたのはだいぶ走ってからだ。あまりに静かなので寝ているかと思っていた。「どうだった?」何が。「女がいたんだろ」いた。それが何か?「可愛い女だったか」そうだな。確かに。「よかったかぁ?」悪くねぇ。「そうかぁ」ふうっと大きく息を吐く。寝るのか、そう思いながらアクセルを踏む。信号が赤になるのが見える。減速。こいつは酔っている。急停車しないよう、注意してブレーキを踏む。加速も減速も悪くない。スクアーロが気に入っているだけのことはある。
スクアーロは先を続けない。だからザンザスは答えない。今日は見合いだったと思っているスクアーロの誤解はそのままに。席に座ったのは九代目の幼馴染み、年は十近く下だがもう還暦を超えている。長くアメリカに住んでいて最近、連れ合いを亡くしてイタリアに戻ってきた。老後はオーストラリアで過ごすことにしたらしく、最後かもしれないから、と会食の席についたのだ。同じ名前の孫娘がおり、それがまだ二十歳の小娘で、スクアーロはそちらのことだと思っていた。もちろんザンザスも。部屋に入ってすぐにわかったが。
「面倒になったら」声が小さい。窓に向かってスクアーロが何か言う。車は大きな国道に入った。ここからヴァリアーの城まで人気のない道が続く。静かだ。「捨てていいからなぁ」何を。捨てられるものなど何があるというのか。「結婚するのかぁ」誰と。「今日の女」さぁな。少なくとも向こうはその気はないだろう。「その女不感症なんじゃねぇの」そうかもな。「おまえみたいな強い男見て濡れない女なんかいねぇだろ」そういえばさっき、「ホントのことだろ…おまえおっぱい好きだもんなぁ」まぁな。否定はしねぇ。「でっかい乳に顔うずめてぇんじゃねぇの」そりゃ枕だろ。「いいじゃん、気持ちよさそうだぜぇ」いいもんか。ありゃ脂肪の塊だ。筋肉よりよほど冷てぇ。あったまるにゃ時間がかかる。「そうなのかぁ?そうでもなかったと思うんだけどなぁ…」そりゃおまえの相手がいいんだろう。感じて、興奮してるから血行がいいんだろう。脂肪が溶けるまで、時間をかけて、……ああ、クソッ。
「なぁ」こういう時は黙ってるのが礼儀じゃねぇのか。黙ってろ。「なぁ」黙れ。「…!」うるさい。背中叩くな、てめぇの左手で本気で叩くと青あざになるって知ってるか?今日はそれじゃねぇのか。変な音がするな。はずされたのか。「なんだよ」泣くなよ。「泣いてねぇ」泣いてるだろ。「酔っ払ってるせいだ」そうか?ずいぶんゆるいな。「どうせな」怒った。スクアーロに何を言えば怒るのか、ザンザスはよく知っている。「おい」いまさら慌てているのに笑ってしまう。それをどうとったのか、不自由に衣服が絡んだ手足が懸命にもがいて逃げようとする。どこに逃げる?この小さい車の中のどこに?「本気かよ」黙れ。すぐに忘れるくせに。
そうだすぐにスクアーロは忘れる。シャツをたくしあげてベルトを外して、助手席を倒して乗り上げて、足の間に手を入れるとすぐに忘れる。すぐに尻を振って欲しがる。くれてやる。シャツの間から乳嘴を探してつねる。撫でる。おまえが抱いた女はおまえの手管に喜んだのか?綺麗な男に抱かれることに喜んだのか?それとも、綺麗な男に奉仕するのが楽しかったのか?子供のおまえに抱きつかれて、母性とやらが芽生えたのか? 懐にするりと滑りこんでくる綺麗で強い獣。抱いて撫でて喉を鳴らせば、可愛いのは道理だろう。
酔っているせいか喘ぎ声がいつになく派手だ。夜に道路脇に止まった車が不自然に上下に動いていれば目的なんか一つしかない。そんな車に声をかけるほど真面目な警官がいるわけもない。車は立派な部屋だ。ティッシュだってあるからな。
「馬鹿じゃねーの…」何がだ。「アジト帰るまで待てねぇのかよぉ…」待てるか。酔って泣いてる恋人を慰めるのに家に帰るまで待ってろとでもいうつもりか。おまえは大事なことを忘れている。「舐めるなよぉ」何が悪い。「いいからさぁ」うるさい。「…あーあ……」

「あいつに適当なこと言うな」
「なんのことだぁ」
「あいつの俺の女の好みとか教えてどうするんだ」
「…駄目かぁ」
「教えてどうする」
「牽制になるだろぉ」
「何の」
「おまえのさぁ。…おまえ、いい男だかんなぁ。気をつけねぇとよぉ、取られるかもしんねぇし」
「は?」
「別におまえゲイってわけでもねぇし、俺とヤッてるのもそっちが好きってわけでもねぇんだろぉ。おまえみたいなの、男にもすげえxモテるしなぁ」
「そういう趣味はねぇ」
「まぁそうだろうけどよぉ、あんま女っ気がねぇもの問題あんだろぉ」
「別に」
「そんなことねぇだろぉ」
「恋人がいるのにそんな必要あるか。めんどくさいのはてめぇで間に合ってる」
「そーかよ」
そこを否定されなかったことが今日の収穫だ。
強い男はモテる。綺麗な男もモテるだろう。強くて綺麗な男が男にモテるのは、おまえの事で実証済だろうが。

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