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瞳の裏の約束 

REBORN深夜の真剣文字書き60分一本勝負 第26貝「明日」未来編の入江の小話です




「じゃ、また明日」
「じゃあね」
 いつも笑っている白い顔。白い服に白に近い銀の髪で、今日はお菓子を手にしていない彼が電源を切ったらしい。
 それを確認してから、定時連絡を入れているテレビ電話回線を切る。そのままパソコンの電源を落とす。スタンバイにしておこうかと思ったけれど、夜は電源を落としておこうと考えた。メインマシンは一晩中スタンバイしているのだし、これはプライベートの連絡用端末なのだから、電源を落としても問題ないだろう。
 椅子に深く腰掛け、息を吐く。
 ふうっと深く、息を吐いて、はーっと今度は大きく息を吸う。一日机に向かって端末操作と監視ばかりしているので、どうしても背中が曲がってしまうから、気がついたらなるべく、大きく息を吸って、吐いて、肺を拡げるように意識する。

 嘘をついていると呼吸が浅くなると言う。
 そんなことをふと思い出して、入江正一はメガネを外して目を閉じた。

 僕はきちんと、嘘がつけているか?

 時々そう思わないと、これが本当の自分の考えなのだと思ってしまう。実際普段は『それ』を忘れている。忘れて、何も知らないつもりで過ごしている。そうしている自分を忘れる。
 そうでなければ休まらない。いや、本当は一刻も、心を休めてしまってはいけないのだ。
 そう思えば胃が痛む。手を伸ばしてピルケースを握って、けれどそうだ、夜の薬はもう飲んでしまったのだった、ということに気付いた。
 あの人と遠くに離れていてよかった。そうでなければ、こんな嘘はつけない。あの人は人の感情の動きをそれほど聡く感じる人ではなかったけれど、目を覗きこまれたら、多分僕は嘘をついていないことを信じられないだろう。
 白蘭さんは今日は珍しく、マシュマロを食べずに報告を聞いていた。
 あっちの戦況は圧倒的にこちらが有利なのだそうだ。そうだろう、白蘭さんの打つ手に失敗はないのだ。少しづつ、けれど確実に追い詰めて、天秤は確実にこちらに傾くようになっている。
 それを打開するための試みを、しようとしていることを悟られてはならない。
 これは入江と彼との盟約なのだ。本当に、誰にも言わない、言えない秘密の約束だ。世界を変えてしまえるほどの、その約束。
 ちらりと彼と彼を守る彼等を思う。いいや、そんなもの思い出してはいけないと、入江は大きく頭を振った。
 いいや、それは今、自分が考えることではない。
 自分が考えるのはーー今、自分がやっていることをいかに正確にコントロールするのか、ということだ。
 明日。
 明日がその日だ。
 明日、『彼』がこちらに来たらーーー。

 その時は、その時が、その時に。
 考えることはたくさんある。しなくてはいけないことはたくさんある。いっぺんに考えたら混乱する。やること、したいこと、出来ること、しなければならないこと、自分が出来ること、自分しか出来ないこと。
 考えろ、自分が出来ることを考えろ、あの絶望を考えろ、あの未来から逃げ出す方法を考えろ。考えて考えて、そうして自分はここまで来たんじゃないか。
 
 深く息を吐く。嘘つきは背中が曲がっている。混ぜなら深く息をはかないから、浅く息を吸うばかりで背中を伸ばさないから。
 
 閉じていた目を開いて、電源を落とした端末を見る。そうしてもう一度メガネをかけて、入江正一は椅子から立ち上がった。
 ミルフィオーレの制服を脱いで夜着に着替え、部屋の電気を消してベッドに潜り込む。

 明日、明日、明日。

 明日、十年の時を越えて、ボンゴレ十代目がやってくる。
 十年前の過去から未来へ、世界を破滅させようとしている男を滅ぼすためにやってくるのだ。

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