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慣れてくるまであともうちょっと

Twitter上企画REBORN深夜の真剣お絵かき60分一本勝負に参加した作品です。
一回目お題「慣れ」
リアルタイムに参加するのは難しいので、タイマーかけて後で書きました。
なかなかこういう小ネタを書く機会がないのでリハビリですね。



「おまたせ」
年季の入ったカウンターは綺麗に磨き上げられていて、新しくはないけれども落ち着いた雰囲気を醸し出している。子供がひょいっと入れるような店ではないが、常連さんと彼等が連れてくるご新規さんが途切れることなく続いていて、このご時世にそこそこ流行っている寿司屋というのはたいへん貴重だ。
「待ってました♪」
フランスのタイヤメーカーが作るレストランガイドのアジア版が出来るまでもなく、東洋の小さい国の食事は世界的に有名だ。こんな小さな店にすら、外国人の客が訪ねてくる程度には。
カウンターにはキラキラした金髪と銀髪の青年が二人、並んで座って店の主が握ってくれる寿司が来るのを待っている。
見ればちょこんと、ずいぶん小さいこどものような影が、隣の椅子に座っていた。
フードを深くかぶっているので容貌が伺えないが、どうやら二人の仲間らしい。
三人の前に頼んだネタがこぶりの皿に盛られて出てくる。
子供には玉子焼きがふたつ、半分に包丁を入れて置かれる。
金髪の少年の前には青魚を酢でしめたものと、薄くスライスされた貝を焼いたもの。
わくわくしながら二人が皿に醤油を垂らして食べ始めようとしたところで、最後の青年の前に赤身の魚と薄くスライスした蛸が置かれる。
「いただきまーす」
行儀よく手を合わせて、おしぼりで丁寧に指先を拭いてから、手で直接寿司を摘んで、タネをそっと醤油につけ、口の中にそっとそれを置いた。
口に含んだ瞬間、三者三様の表情で、その寿司のうまさを語るのを、カウンターの中で寿司屋の主は横目でちらりと眺める。
わざわざ遠くから来てくれる客がその費やした労力に見合うだけの味を提供出来たのかどうか? それは結構重要な問題だ。
三人は黙ってそれぞれの味を確かめる。
子供は二つに割った淡いたんぽぽの花のようなやわらかい黄色の玉子の中の、甘みやかすかな塩気、そして濃厚なダシの味を白いご飯の上に乗せてじっくりと味わっているし、金髪の青年は、まずは焼いた貝をつまんで口に入れ、顔を少し上げて店主の方を見たーーような気がした。なにしろ青年の前髪はとても長く、目元を完全に覆い隠していて、普通にしていると視線を見ることが出来ないのだ。だから目で推し量ることが出来ないのだ。だが青年はそれを補って余りあるボディランゲージで、「これはうまい!」と叫んでいた。
「ん…」
銀髪の青年はためらうことなく赤身の魚をつまんで丁寧に醤油につけ、それが垂れないようにすばやく口に入れて味わう。
青年は相当の美形で、どちらかといえばハンサムというより美人というほうだったが、その顔が崩れる勢いで大きな口をあけ、そこに寿司をさっと素早く入れるのだ。
それももう数貝繰り返したことなので店主は慣れているが、初めて見た時は驚いたものだった。
三人は黙ってもくもくと寿司を口に入れ、あっという間に出した皿を空にする。次は、と聞こうとする前に、銀の青年が主に声をかけた。
「なぁ、今日なんかいいもん入ってるかぁ?」
「そうだなぁ…ちょっと珍しい魚を買ってきたんだが食べてみるかい?」
「えっ、なになに?もしかしてチョーグロい魚とか?」
「ちょっと名前を教えてくれないか」
三人は外見はあきらかに外国人なのだが、その口からは流暢に日本語が飛び出してくる。それに驚いたのもだいぶ前の話だ。
「あ、ボクの分はわさび抜いてよね」
「王子もー!」
「おめーらもったいねぇことしやがるなぁ!わさびがあるからうめぇんだろぉ゛お゛!」
「王子ちょっと無理!かんべーん」
「ボクはまだ子供だから刺激物は与えないでおくれよ」
「わかってるって」
店主は慣れた手つきで魚の身を切りわけ、シャリを握って三人の前に2カンづつ置く。初めての魚を、緊張や期待を込めてじっと見つめている視線を眺めているのは、どこか誇らしい気持ちになるものだ。
さきほどと同じ手つきで寿司を取り、醤油につけ、口に運んで味わうまでの、タイミングが本当にバラバラで、毎回それを見るたびに店主は内心笑ってしまうのだ。確かに日本語はうまいし、日本の風習には精通しているようだけれども、やはり彼等は外国人なのだな、ということをそんなところで感じるのだ。
「お?」
「すげー!なにこれ甘いー!んでしょっぱいー!」
「不思議な味だね。何もしてないように見えるけれど、甘みがある」
一番子供であるはずの小さいフードの子が、実は語彙がもっとも豊富で、的確に正しく自分の食べたものの表現をする。年長に見える銀の青年が一番、歓声を上げるばかりでそれ以上の言葉をあまり口に出せないようだ。けれどそれで十分、彼は店主の息子と通じているように見えるし、店主も彼の言いたいことがわかる気がした。
こうして三人が寿司屋のカウンターに並んで、しっかり食べてゆくのももう何度目になるだろう。酒をすすめても飲まないのが残念だが、この気前よく身目よい外国人の集団を、店主は嫌いではない。
わさびに慣れてくれないのがもったいないが、こればかりは日本人でも駄目な人も多いので、無理強いするわけにもいくまいが、惜しいことだ。
「あと王子サーモン食べたいー!」
「俺はそこの魚、…そう、その魚くれ」
「ボクにはかっぱ巻きを作ってくれないか」
それぞれの注文が入って、まだまだ食事は続くようだ。

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