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XSの日 まちでうわさのおおきなおうち・4

 そこで想像もつかない人の名前が出てきたのに、山本は素直に驚いた。なんでそこにその名前が出てくるのか、その関係性に目を見開く。ボンゴレ十代目の雲の守護者にして並盛財団の理事長、そして現並盛市市議会議員で県の市町村広域事業促進協議会の議長をつとめる、雲雀恭弥の名前が、なぜ。

「こいつは」

 セッティングが終わったのか、ザンザスが椅子を引いて座りながら、呆然とする山本に解説する。

「てめぇんとこの雲と、日本で三回も山行ったぜ」
「山? 山ってスクアーロ登山とかやってんの?」
「そんなたいそうなもんじゃねぇ。ちょっと行って登って景色見て戻ってくるだけだぁ」
「ふーん? そりゃ雲雀先輩は昔っから百名山とか好きで、近所の山は全部登ってる人だったし、一度はヨーロッパまで山登りに行ってたけど、……スクアーロもそういうのやってる人?」
「おめー、イタリアだって日本と同じで山ばっかなんだぜぇ。ハイキングが手軽な娯楽なのはあっちが本場だろぉ。なんつたって、イタリアにはアルプスがあるんだぜぇ?」
「あ、そっか」

 そう答えながら、地理に疎い山本は、脳内でイタリアの地図を拡げてみる。そういえば隣はスイスだった、何度か行ったことがある。国境が地上にあるという概念が乏しい日本人だということを、こんなときに少し感じる。

「ま、それは置いといて、食えぇ」
「ん、いただきます」

 両手を合わせてきちんと挨拶して、山本がナイフとフォークを取る。それを見てから二人も同じように、カトラリーを手にした。
 しばらくなんの音もなく、おのおので食事をすすめる。鶏肉のトマト煮込みは普遍的な料理だが、そのぶん作った人の裁量と技巧が問われる。スクアーロのそれはあっさりしているが妙に懐かしい味がして、山本は思わず感嘆の声を上げた。

「…おいしい!」

 満面の笑みで味を褒めれば、そうだろうとも、とでも言わんばかりに視線を返される。ワインが空いているのを注いでもらって、なんかすげーことになってるな、とうっすら思った。
 ボンゴレの、十代目にはなれなかったが、先代のただ一人の血縁として、ザンザスは長いこと、ボンゴレのもうひとつの象徴としてあり続けていた。
 生まれは確かに卑しい女の腹からだっただろうが、その後の数年に及ぶ一流の教育によって、純然たる上流階級のマナーを完璧に身につけたこの男が、よりにもよって自分で料理をし、あまつさえそれを他人に振舞っている、という事実は、結構、かなり、山本を驚かせることになった。
 二人の行動から、それはそれほど珍しいことではないようで、これが初めてでもないらしい。ザンザスに給仕をされる…なんて、イタリアに、ヴァリアーにいたころは、まったく考えもつかなかったことだ。
 人生には何があるかわからないな――と、改めて山本は思った。野球選手になるつもりだった俺が、マフィアのボスの跡取りにワインとか注いでもらってるとか、なんか……いろいろ、凄いことになってるというか……人生いろいろだよな、と思いながら、開けたワインがおいしくて、サーブされる皿の中身がどれも、彩り豊かで新鮮で、ああ、なんかいいなぁ、とぼんやり、そう思った。

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XSの日 まちでうわさのおおきなおうち・3

 最後の仕上げの塩をひとふり、そしてソースを煮詰めてから火をとめ、少し味を馴染ませる。その間に皿をレンジで少し暖めて――そんなところに、カフェが入ったぞぉ、と一声。
 赤いエプロンをかけたスクアーロがリビングで山本の向かいに座って話をしている隣に座って、当たり前のように腰に手を回す。
 スクアーロはそれを当たり前のように受けて、ほんの少し、体重をザンザスの肩にかける姿勢を取る。
それを見て、ふっと山本の口元が緩む。

「これ最近人気がある店のラスクと、あとこれは煎餅。すっげーコショウが利いてて、酒のつまみにいいんだぜ!」
「そうかぁ? あ、おまえ今日車かぁ?」
「ううん、タクシーで来たよ。帰りもまた呼ぶから平気」
「そうかぁ? なぁ、こいつにも酒やってもいいかぁ?」
「客に振舞うのは当然だろう」
「そっかぁ! よかったなぁタケシ! じゃ付き合えよぉ!」
「なんだよ、昼間っから酒飲んでるのかよー、悠々自適だなぁ」
「今日はだらだらする日なんだぁ! ザンザスはいっつも昼間っから酒飲んでるけどなぁ!」
「最近はちゃんと日が暮れるまで待ってるだろうが」
「そうだったのかぁ?」
「日が暮れるまで外でふらふらしてるのはおまえだろう」
「日が短くなったんだからしょうがねぇだろぉ!」

なんだかんだ言いながら、話すスクアーロの腰に回ったザンザスの手は離れないし、ザンザスの太ももに摺り寄せたスクアーロの膝はくっついたままで、予想以上の熱々っぷりに、ほかの守護者よりは会っている回数の多いはずの山本も、なんだか少し、恥ずかしくなってくるような気配がしてくるのが、どうにもこうにも止められない。
そんなふうに自分も、妻を扱ったことあったっけ…と、山本は思い出そうとするが、並んで一緒に座ることも、最近はとんとしたことがないと思い返して、なんだか激しく負けている気がした。

年をとってもさすがに生まれた水が違うと改めて実感、カップルが並んで座ることの意味も、そこでどんな姿勢を取るべきなのかを知ってるということを含めても、さすがに日本と、習慣が違うと、毎度ながらそう、思う。
それにしても二人して並ぶ姿はまるで、一枚の見事な絵画のようだった。
若い頃から繰り返しているその姿勢に、山本は翻って反省する。
今夜は妻に優しくしようと思わずにはおられない、何かそんな力がある。

「あ」

スクアーロの腰を抱いていた手がするりと離れて、持ち主ごと立ち上がる。
まだ少し長い髪を首の後ろでまとめているのが、指先を追いかけてふわりと振り返る。

「おまえは話してろ。後は俺がやる」
「そうかぁ? じゃ頼むなぁ」

振り返ったスクアーロは着ていたエプロンを脱いでまとめながら、立ちあがって脇のフックに引っ掛けた。
フックのヘッドが赤と青、赤のほうに赤いエプロンをかけて、スクアーロが戻ってきて座る。
ああ、そうか、と思って一言、いまだに小僧扱いされている、二大剣豪のひとりが口を開いた。

「なぁスクアーロ、あそこのエプロンって、引越し祝いに笹川先輩が送ったやつ?」
「そうだぞぉ。よく知ってるなぁ」
「俺、ナニお祝い贈ればいいのかって、先輩に相談受けたのなー」
「そうだったのかぁ?」
「エプロンとかいいんじゃね、って言ったんだけど、色は知らなかったのな。でも、ちょっと意外だったのな」
「何が?」

首をこてんとかしげて人を、見上げるように見るのはスクアーロの癖のようなもの。
そんな顔をすると今でも本当に、どこかの人形のように見える灰青の瞳が透き通って、少しどきりとするのも、いつものこと。

「たぶん逆のイメージで選んだのかなーって思ってたからなのな。俺、スクアーロが青で、ザンザスが赤のイメージで話した記憶があるんだけど、スクアーロが赤いの着てるとは思わなかったのな」
「そうかぁ? そうでもねぇと思うけどなぁ」
「そうかもね。あのさー、ここにあるキッチンツールって、スクアーロが選んでるのな?」
「あー、? まぁそうだなぁ、俺が使うほうが多いからなぁ、俺が選んでるぜぇ。それがどうかしたのかぁ?」

「ふぅん。だと思った」
「なんだぁ?」
「んー? だって今もさ、……見えるとこに置いてある皿とかさ、…おたまとか、鍋とか、菜ばしとかがさ―、……見えるところにあるの、全部赤いのな―って思ったのな――」
「ああ、そういやそうだなぁ…。気がつくとつい、赤いの選んじまうんだぁ」
「赤ってイタリアの国旗の色だしね?」
「あぁ? そういやそうかもなぁ、気がつかなかったぜぇ! 大体、赤とか黄色とかのほうが料理がうまそうじゃねぇかぁ?」
「でもあんまり日本人って赤い道具選ばないと思うんだけど…最近はそうでもないのかなぁ?」
「そうかぁ? でも赤ってすげぇいい色だろぉ? トマトソースの色だしよぉ。赤が嫌いなイタリア人はいねぇぜぇ。俺は好きだけどなぁ」

「スクアーロがさぁ、赤が好きなのは、さ、……ザンザスの、瞳の色だから――だろ?」
「そりゃ当たり前だぁ!」

何を当たり前のことを聞いてくるんだ、とでも言わんばかりのスクアーロに、山本はつい、笑みがこぼれてしまう。
二人は仲良くやっているようだ。

そんな話をしていると、キッチンからザンザスがやってきた。
綺麗に二人の前を拭いた後、ランチョンマットを置き、カトラリーを置き、二人の前に前菜とサラダ、グラスにワインを置く。

「タケシぃ、これ、そこの畑で作ってるレタスだぁ。食ってみろぉ」
「えー、マジ? 家庭菜園やってるって聞いたけど本当なんだ!? うわーおいしそう、いただきます!」
「ドレッシングも作ったんだぁ」
「へぇー! すごいのな!」
「知り合いの人に教わったんだぁ! 後でお前んとこにも教えてやれぇ!」
「知り合い?」
「こいつは」

いままで黙っていたザンザスが口を開く。
山本は至極珍しいことがあるものだと思いながら、フォークでサラダの上のたまねぎを突き刺した。
口に運んだサラダは確かに大変おいしいが、なにぶん量が凄かった。
大変綺麗に盛り付けてあるのだが、皿がとにかくでかい。
味噌汁をよそる汁椀より一回りほど大きい。

これ本当に一人分か…? と思いながら山本はザンザスを見ていたが、全員の前に一皿つづ置かれたので確かにそのようだった。
前菜はトマトにモッツァレラチーズを挟んで、オリーブオイルに青紫蘇が散らしたものがたっぷりと盛り付けられている。分量も内容も、山本の腹には不足はない。
もう若くねぇんだからいい気になって食うんじゃねぇ! 動きが鈍くなったらどうすんだ! と、獄寺あたりから文句が出そうな量である。

「会合に出てはそこいらじゅうで、女をたぶらかしてきやがる尻軽だからな」
「たぶらかしてなんかいねーぞぉ!」
「ああ、悪かったな、女だけじゃなくて男もだったな、この淫乱が」
「向こうが勝手に声かけてくるんだからいいだろぉがぁ!」
「へぇ…そうなんだ…?」

その話は聞いたことがない。
本当だろうか、と思いながら、すぐにああ、そうだろうな、と山本は思い返した。

スクアーロはいつもまっすぐで、しゃんとしてて、綺麗なのだ。
外見が人形みたいに色がないから口を開く前はとっつきにくいだろうけれども、しゃべればすぐに、この男の輝きに、誰もが魅せられ、惹かれてしまうことだろう。
自分と同じように、鮮やかに。

「珍しいから気になるんだろぉ!」
「そんだけじゃないと思うのなー……。スクアーロ、いつもこんな感じなんだ?」
「ドカスはいつまでたってもドカスだ」

そういいながらスクアーロが開けたワインをグラスで受けて、うまそうに飲んでいるこの男の、それが最高の愛情の表現だと、知らないほどの時間をすごしているわけではない。
いつまでも変わらずの愛情を、示している言葉をこうやって時折、無意識か意識的にか、自分に漏らすのは――今でも少し、牽制されているのかもしれないと、思わないではないけれども。

ザンザスは案外――というかそのまま、というか――非常にさびしがりで甘えん坊で、スクアーロとは全然別の意味で、非常に愛情深い男なのだと、山本はよく知っている。
愛情が深いからこそ、その裏切りに耐え切れず、何もかもを破壊し、復讐しようとするほどには深く、愛するものを捨てきれず、忘れない男なのだ。
存在をまるごと全部、すべてを賭けてこの男を愛しているスクアーロと、過不足なく愛情の取引が出来るのは、世界のうちでもこの男しかいないだろう。

「ジャッポーネの女はやさしいからなぁ、俺がなんも知らねぇから、哀れに思ってんだろぉ」
「それで庭の木を持ってくるかよ」
「変わりにソースやってんだからいいだろぉ!」
「ハッ、……そんでまたジャムとかもらってりゃ世話ねぇ」
「いいじゃねぇかぁ! 食いもんには罪はねぇぞぉ! 毒見だってしてるだろぉ!」
「あー……」
 
このまま放置しておけば、自分を無視して延々と痴話げんかを続けそうだ。
適当なところで切り上げて、ザンザスが振舞う食事を味あわせてくれないかな――と、山本はそっと、二人の会話に口を挟む。

「ジャムとかソースとかって全部作ってるのか?」
「あぁ? ジャムはパンに毎日塗るからいくらあってもいいだろぉ! ソースだって同じだぁ! トマトソースを作るのは重要なイタリアの男の仕事なんだぞぉ!」
「…そうなの?」

何故かえらそうなスクアーロではなく、ザンザスに聞いてみれば、こっちもその通りだと言わんばかりに大きく頷いた。

手にもった大皿をようやくテーブルの上に置いてくれる。
前菜とサラダの後はスープだっけ? と頭の中ですっかり馴染んだコースを思い浮かべながら、しかし山本はスープをすっ飛ばしてメインが出てきたのに少しびっくりした。

「スープは後で出すから待ってろぉ。まずはメインのカチャトーラからだぁ」
「うわ、すっごいいい香り…。まさかこれも、作ったの?」
「自家製でも作ったけどなぁ、足りるわけがねぇだろ。これは多分トマト買ったやつだと思うぜぇ」
「え、ソースじゃなくてトマトのほう?」
「んー、なんか話つけてくれてよぉ、作ってるうちに直接、出荷出来ないトマトもらいに行ったんだぁ。それで作ったのはまだあるぜぇ。来年まではもつと思うぜぇ」
「…そんなに作ったのな?」
「本当は一年分くらい作っておくもんなんだぜぇ!
 俺も最初そんくらい作ろうかと思ったんだけどよぉ、ジャッポーネは夏の湿気が多いから夏を越えるのが素人だとちょっと難しいって、ヒバリに言われたからよぉ……」

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XSの日 まちでうわさのおおきなおうち・2

夕べは久しぶりにちゃんとした。
ちゃんと肌を寄せて、触れて、奪うあうようなキスをして、抱きしめて、足を開いて、受け入れて、受け入れられた。擦って締め付けて、扱いて嬲って、しがみついて揺さぶった。
だからつまりは、二人して、かなり疲れているというのが本音だった。
体が痛むというよりは、気力が沸かずにいるせいで、朝の日課の散歩も、毎日の鍛錬のランニングも、今日はしたくない気分だった。
二人でだらだら、ベッドの中で、のんびり抱き合って、どうでもいいことを話したり、何も言わずにじっとしていたり、そんな気分であったのだ。

「ふふ…」

唇を緩めて笑う、スクアーロの髪を撫でる手はいい加減、その手触りを愛でるのに飽きて、髪の中のこぶりな耳たぶや、細く研ぎ出されたうなじや、するどい直線を描く顎を撫でていた。喉の下を節くれだった指先で撫でられて、白銀の大きな獣がよろこびの声を上げる。

「寝坊したなぁ、もうこんな時間だぜぇ」
「たまにはいいじゃねぇか。なんかあったか?」
「そうだなぁ、…今日はゴミの日じゃねぇし、飽きるまで寝てるか?」
「そこまではいい。……おい、ガキの声がするぞ」
「ああ、ちょうどそんな時間だぜぇ…」

乾いた道路を子どもの足音が、遠くからやってくるのがよく聞こえる。
さすがに昔ほどいい耳であったわけではないが、子どもの足音は隠されないし、なにより大きな音なので、二人にはそれだけで、誰の足音か判別がつくほどである。
家の前を通る子どもはすでに全員把握済だ。
去年庭に忍び込んでスクアーロに怒鳴られた子の家の場所も、家族構成も親の職業も、一緒に来た子の家も二人はすでに調べているから、それが誰なのかはすぐにわかった。
家の前の道をわざわざ入り込んできて、門の近くまで来て、少し立ち止まって、また戻ってゆく。

「おめぇを探してるんじゃねぇのか」
「かもなぁ。……一応俺たち、外国人だろ? あっちの親が地域の防犯委員かなんからしくってよぉ、たぶん警察から通達でも出てるんじゃねぇのかってとこだろぉ」
「ガキに監視させてるってことか?」
「監視っていうか、……声かけ? とかゆーんだと」
「なんだそりゃあ」
「日本人はなかなか、知らねぇ人間に挨拶とかしねぇからさぁ…、防犯ってことらしーぜ」
「そんなもんでいいのか?」
「平和なんだろ……。まぁいいじゃねぇかぁ……もう少し寝てるか?」
「起きると腹が減る」

真顔で肩を撫でながら、そんなことを真剣に言うザンザスに、思わず噴出してしまったスクアーロは、撫でられた髪に自分の手を入れるのを、心底もったいない、と思いながら。
分厚い熱い手のひらが、肌を過ぎるのを惜しみながら、広いベッドに薄い体を起こした。


クラッカーとカフェを齧って飲んで起き上がって、結局二人して冷蔵庫の中を掃除するために、遅い朝食だか早い昼食を作り始めることにした。
今日は久しぶりにちゃんとイタリアの味を楽しもうと、まずはパンを作るところからはじめることにした。
日本のパンはさすがに二人には甘く、やわらかすぎて口に合わず、気に入ったパンを売っている店を探していたが、作り方をメールでルッスに送ってもらって試行錯誤しているうちに、自分で作ったほうが早いのではないか、ということに気がついたのだ。
さすがに向こうで食べていたものほどうまくは出来ないが、毎日はともかく、週に三回は作り続けていれば、その味にも慣れてくる。
パニーニは気に入った店を見つけたので大量に買ってきて冷凍することでなんとかなったが、ほかのものは長くそれを作っていた本人からの詳細なレシピのおかげでなんとか、同じは無理でも同じように、出来るようにはなっている。

サラダの野菜は庭にあるものをありあわせで、メインは鶏肉をトマトで煮込んだカチャトーラ、パンの発酵を待っている間に肉を切って香辛料に漬け込むのはザンザスの仕事だ。こういうものは珍しく、ザンザスはスクアーロに作らせない。
スクアーロは切るのはうまいが焼くのがどうも苦手で、通らなさ過ぎて生焼けだったり、焼けすぎたりで硬かったりが、圧倒的に多い。
最初は文句をつけていたが、大喧嘩して一度、自分で焼いてみたところ、今までの失敗作がうそのように上手に出来てしまったのだ。
すかさずそこを褒めたスクアーロは、前に近所のおばちゃんから耳打ちされた「亭主に家事をさせる方法」が小さい軽い脳みそのどこかにこっそり、残っていたのかもしれなかった。おそらくは無意識に、すげーな、さすがボスさんだぜぇ!! と、思っていただけ――なのかもしれないが。
一時間ほどそうやって、二人して手際よく調理をしていると、玄関の脇に設置したインターホンが間延びした鳴り方をする。
濡れた指先をエプロンで拭いて、キッチンの脇にある操作パネルを押せば、カメラには見覚えのある顔が立っていて、スクアーロは驚いた。



「こんにちはー。近くに来たので寄ってみたのなー」
「山本!? おおっタケシぃ、久しぶりだなぁ!!」
「こんにちはー。顔見せてくれよ、二人とも」
「ちょっと待ってろぉ!」

やりとりを聞いているザンザスは、煮込みの仕上げに忙しくて手が離せない。
振り返ったスクアーロが、いいか、と聞くのに好きにしろと返して、最後の味付けの塩をどのくらい入れるのかに悩んでいるほうが重要だとばかりに、視線を向けもしなかった。
玄関のロックをはずす。
スクアーロは、ばたばたと足音をたててリビングを抜けてホールへ向かう。
吹き抜けの天井があるホールはまだ朝のひんやりした空気のままで、しかし勢いよくドアを開ければ、そこに年をとっても能天気な声が、ただ朗々と響くばかりである。
基本的に山本武とスクアーロは、根が体育会系なだけあって、普段の話し声が、非常に大きい。
年を取って声が大きいのは、可聴音域が狭まっている相手にとって悪いことではない。
二人とも、その年齢の割に、体中どこもかしこも、非常に頑強で壮健ではあるけれども。
そんな大きな声が、そうでなくてもよく響く玄関の、吹き抜けの天井にガンガン響くものだから、二人が何を話しているのか、奥のキッチンにいるザンザスにも、非常によく聞こえていた。
日本人の長い挨拶、長い前口上、そして歩きながら入ってくる二つの足音。キッチンとリビングまでは土足なので、靴を脱ぐ動作がないのが、この屋敷の特色でもあった。

「こんにちはー、ザンザス! おおっすげぇ! ザンザスがエプロンしてるとこなんて始めて見るのな!」

にこにこと背景にそんな音が聞こえてきそうな、いかにもな日本男子が大股でリビングに入ってくる。
年はもう四十の半分を過ぎているが、髪が幾分白く、量が減ったくらいであまり変わった気がしない。
真っ黒の髪はところどころ白くなっているが、薄くなっている部分はなく、それだけでもかなり、若々しさを感じさせる。
背筋がまっすぐで、視線がいつも前を向いている。姿勢がいいから老けて見えない。
スクアーロがそれを椅子に座らせ、湯を沸かしてコーヒーを入れる準備を始め、ついでのように声をかけてきた。

「なぁ、せっかくだからタケシに飯食わせてもいいだろぉ? 一緒に食おうぜぇ!」
「好きにしろ」
「だとよ! そろそろ昼だろぉ、腹減ってるかぁ?」
「えー、いいの!? ご相伴に預かってもいいのかよ? いやったぁ!」 

顔中が笑顔になったような顔で、にこにこ笑う年下の、十代目の雨の守護者は昔から、本当にスクアーロと仲がよい。仲がよいというにはそれは少し、違うかもしれないが、少なくとも山本の、人生の意味をがらりと、変えてしまった男の一人がスクアーロなのは間違いない。

 二人の世界はどこか、ザンザスとスクアーロの世界とは違うところにあって、そこにどうやってもザンザスは入れないことに、羨ましくて妬ましく、どうにも自分の感情をもてあまして苦しんでいたことが、長い期間、あった。今でも少し、それは感じる。
感じるが――それも、スクアーロであると、受け入れることを厭わしいとは思わなくなった。

諦めたのかもしれない。
スクアーロはどうしたって、泳ぐことをやめられない、海洋の最強の魚なのだ。

飼い殺しの夢を見て、何度かそれをしてみたこともある。けれど鮫を殺すことなど到底出来ず、先に根をあげたのはザンザスのほうで――その強さに、たぶんずっと、救われていたのだと、思い知ることももう、数えることなど出来るものではない。

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XSの日ですよ更新 「まちでうわさのおおきなおうち」1

これは出そうな「まちでうわさのおおきなおうち」から
前の部分を続けて!

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久しぶりに晴れた。

この季節には珍しいらしい、長い雨が降っていて、なかなかはっきりしない日が、もう四日も続いていた。
この国の季節を一年三百六十五日、全部知るのは二人にははじめての経験なので、どんな季節も新鮮に思えるのは確かである。
田舎というほど田舎ではないが、ターミナルの駅からは車で三十分くらい。山はあるが平野で景色はよく、雪もそれほど降らないらしい。
さすがに二人が長年過ごしてきた欧州の、あの乾いた気候から比べれば、十分寒いし湿気が多い。
水も空気も全然違う、さすがに一年が過ぎればようやく、体もこの地の水に、慣れてきたような気がしないではない。

「なぁ」
「ん?」

ベッドに同衾するのはもう、何十年にもなる習慣のようなもの。前夜に何かをするかどうかは別として、一緒に寝るのはもう、習慣というよりは日課。お互いに相手がそこに生きていることを確かめるための、仕事というよりは、生活のようなもの、人生や生きがい、毎日の食事の時間や歯磨きをすることや、起きたら飲む一杯の水、そんなものに、すでに近い。

「最近さぁ、なんか髪のカンジ、変わってねぇかぁ?」
「あー? そういやおまえ、頭のカンジ、変わった気がするな」
「日本の水のせいかぁ? 最近髪がみょーにこう、……なんつーか…」
「手さわりがよくなったな。悪くねぇ」

そんなことを言い、手を伸ばすのは、いつもの男の慣れた手つき、そのもの。
それが撫でる小さい頭の、肩を流れる髪の艶も量も、随分少なくなったけれど、気に入っているのは変わらない。
さすがに若い時分のように、腰まで長く、伸ばすことはもう、しなくなって久しいが、それでも肩を超える長さでそろえられた銀の――いまでは本当に、しろがねの名そのものに近い髪の、いとおしいひとの体を、確かめるようにして、赤い瞳の男が撫でる。
言われてみれば確かに、昔よりずっと、しなやかになった気がしている。
前はもっとさらさら指の間をすり抜けるようだったが、今は吸い付くようになめらかで、年とともに失ったはずの柔軟さが、戻ってきたのではないかと思うほどには、その手触りが変わっている。

「あんたの髪も、なんか、……前より黒くなったような気がするのは気のせいかぁ?」
「心労がなくなったからじゃねぇのか」
「そうかもなぁ…毎日腑抜けた生活してるしなぁ、俺ら」
「染めるのをやめたから楽になったんだろ」
「かもなぁ…。最初はそのアタマ、見られるのイヤだったんだろ、ザンザス」
「あいつらが毎回、顔みるたんびに聞いてくるからうぜぇんだ」
「そりゃなぁ……、………でも、………」

白い髪のアンタもかっこいいぜぇ、と――続けようとして、スクアーロはさすがにそれを口にするのはやめた。

なんだか恥ずかしいというよりは余分なことのような気がして、いい気分で自分の髪を、撫でている男の指先が、枯れて乾いて節くれだっているけれども、それも悪くないというか――ひさしぶりに昨晩、たっぷり肌を撫でられたことを思い出して、少し、余韻に浸っていたいような、そんな気分になってしまったこからでもあるし、久しぶりに交じった体の奥が痺れていて、腫れぼったくて、懐かしくて、いい気持ちだった――せいもある。
肌を直接、触れるのはいつだって、気持ちがいいし、懐かしい。この手に撫でられるのは本当に、初めて触れられてから四十数年が過ぎてもまだ、いちばん気持ちがよくて、肌に馴染むばかりで、とても楽で、嬉しいのだ。

「日本は水が違うからだろぉなぁ…肌もなんか、妙にべたべたしてるしよぉ」
「そういうのはしっとりしてるって言うんだろうが」
「…アジア人が若く見えるのってこのせいかなぁ…」
「おまえも十分化け物らしいぞ」
「んなわけあるかぁ…まぁ、まだコッチはまだまだ現役だけどな」
「あたりめぇだ。枯れるには早ぇだろ、六十にもなってねぇ」
「まぁなぁ……」

いつもより早い時間というわけではないが、二人とも、しゃっきり起きる、気分にならない。というよりは、なれない、と言ったほうが正しい。
 
年をとっても出来るうちは、セックスをしない、という選択肢がないのがイタリアンだ。六十でも七十でも、生きている間は恋愛は現役、生きている限りは恋をして、恋をしたらセックスをするのが当然、と思っている。だからつまり、結局は、いくつになっても二人して、現役で閨事を繰り返しているのは、同性同士であっても、変わることはない――寧ろいっそう、それが重要になってくることも、きちんと理解しているのが、退廃で国を滅ぼした王国の末裔らしい発想だ。
さすがに若い時分のように、顔をつき合わせている間は毎日、というわけにはいかないが、それでも体調がよければ週に一度かそれ以上、肌を合わせることを怠ったことはない。交わらなくても触れるだけで、満足する日もあるようになったのが、若い時とはかわったことだといえるかもしれない――けれども。

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家庭教師鮫先生

次回予告ですごいくるんくるん飛んでいらっしゃった………!!!!
一時停止!一時停止!!コマ切り抜き!!
はぁはぁ来週は鮫先生の特盛り★禁断の回転&鮫に直立!ですね……
石榴に陵辱されるシーンは18禁なので放送できないってヤツですね!!!
ハァハァ……ハァハァ……

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昨日のアニリボ

昨日は所用で一日テレビを見ることも出来なかったので、今頃アニリボ見ています。
あれは絶対運命黙示録、正一と白蘭のめぐり合い宇宙!だな~~と思いました(笑)。
正一の過去話は面白いよなぁ…初めて会った白蘭さんが工科大学の学生だったのかぁ…日本語がわかってるってことは、白蘭もなんかの工科系の学生だったのかな…。で、十年後の学生だったってことは20歳以上ってことだよね…正一は10年後は24歳で学生だったってこと?
10年バズーカの玉ってなんであんなにピンクなのwww

無数の枝分かれをした無数のパラレルワールドには、ボスが蘇らないスクアーロとか、ボスに会わないスクアーロとか、養子にならないザンザスやスクアーロに会わないザンザスや凍らされていないザンザスもいるのかな……と思うと、なんかもうな…やるせないというか切ないというか……。

シリアル買ってる白蘭ってなんかいいなー。音楽家になった正一の世界にいる白蘭って普通の人だったってことだよね…工学部の学生でもない人ってことか…どんな人だったんだ…?
普通の格好してる白蘭新鮮過ぎるなー。
15歳で(16歳?)で10年後の世界の荒廃を知ってしまったんだよね…それを実感して知ったとき、正一ってまだ10代だよね……なんつー……。
などと思ってたら最後が録画されてねぇ~~!! おおお(涙)。
噂では予告に鮫先生でていらっしゃるようなのでこれから見てくるよ!
しかも誕生日だっていう…星占いに出たら死ぬ。

それにしても原作でも正一って怖い子だな…と思ったけど、一層その感が増す感じでございます。凄いなこの「荒廃した未来を救えるのは自分だけだという意思」は。
おそらく何度も何度も未来に向かっては正一は白蘭に会ったのではないのかな……未来の記憶を過去の自分がどうやって共有できるのか(発信機の性能云々も含めて『なんで?』って思うところはあるけどさ)とか考え出すと本当にキリがないけど、それでも今ここで過去の彼らに、未来の十代目に、恐るべき未来を変えることを願うその「使命感」って凄いよなぁ……。

スクアーロの誕生日までカウントダウン! そして3月9日はスクアーロの日!!
真面目にイタリアンコースを作ろう…と思ってメニューとか考えている自分がアホ過ぎるwwwやっぱアクアパッツァとかズッパデフェーロとか作るべきかしら…。

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何をするつもりだw

先日なんとなく「あーチュニック作りてぇ~」と思いつき、無料型紙配布サイトをぐるぐる回っておりました。
頭皮です、いや、逃避です。原稿の。
んで気がついたらヴァリアーコートをどうやって作るかな~~…ということに思いを馳せていて、「あれ、それちょっと目的見失ってないか」ということに気がつきました(笑)。
なんとかwww

ヴァリアーコートはトレンチの応用で作れるんじゃないかとか
打ち合わせをダブルにすればそれっぽくなるんじゃねーかとか
布地を綿ギャバで作れば3シーズン着られるよね?とか
麻で作ればワンピースにならね?とか
だんだん話がおかしな方向に移動してきました……最初はブックカバーを作ろうかな~~って思ってたのに…同人誌の……(笑)

個人的にヴァリアーマークのバックインバックとか財布とか欲しい。自分で作れって話か!!
Yシャツは作れるんじゃないかと思うんですが…普通に。マークをワッペンにするかステンシルにするかの違いかなぁ…。
スペースに飾る布にステンシルすればいいのか。まずは(笑)。
マグカップとかにするのもいいなぁ…お皿とか。陶器用絵の具あるもんね。
マークを綺麗に書くのが一番大変ですな……

参考資料にした本(図書館で借りた)

参考にしたサイト
サマンサの簡単洋裁教室へようこそ!
うさこの洋裁工房
あとはグーグル先生とヤフー先生とミクシの過去ログ

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欝ってる

なんだか微妙に欝ってる……
掃除が大嫌いなので掃除をしなくてはならないと思うだけで欝になります
片付けするの本当に嫌い
嫌いなので勝手に片付けられるんですがそのときに言われることでさらに欝になってしたくなくなるというデススパイラル(意味違う)
掃除してると本当に悲しくなるのでよほど気分よくないと出来ないという…そういう人は夜に掃除してはいけないらしいです

スクアーロの誕生日話を楽しく考えるはずなのになんでこんな殺伐とした話を書いているのか
もっとこうスクたんとか子鮫とか剣帝さまを幸せにしてやりたいんだけど……って一年前から行ってるんだがなんかあんまり出来た気がしない

通販の発送が遅れててすみません…入金確認できた分から発送していますがここんとこ滞りがちです……なんかバーッと住所ラベルに吐き出せるソフトってないのかなーヤマトで配布してるソフトでメール便に吐き出せるソフトって法人向けしかないんだよねぇ……。

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かつて自分もしたことがあります…

DB燃えとかアカギ萌えとか人の日記を読んでいるとなんかこういろいろ…思い出が走ります。
ヘルシングは最初のアニメの時にヤンキン買ってて限定カレンダーとかアニメグッズとか買ったりテレホンカード申し込んだりアニメ対談とか読みまくったなぁ…ヒラコーのメガネ好きっぷりに死ぬほど慄いた覚えが(1Pに17コマもメガネを書くあたりがオカシイ)あったり…とか。
DBZは映画公開当時見に行ってあまりのエロさに悶え狂い(しかも誰にもそれを理解してもらえなかったというオマケつき)、同人誌買って予想以上に女性向け展開全開で驚いたり、Pさん花嫁本とかPさん総受本とかりょうじょ(ry)とか親子丼本とか当時出てたのを買い捲った記憶があります。たぶんまだ部屋のどこかにあるはず。物置にあるのかな?
一部は10年くらい前に処分したんですが値段つかなかったんだよな…今だったら売れたかもしれないのに(笑)
たしかSDで暮三書いてた人がすごいうまい空飯P漫画をイベントごとに出していて、まさにあの絵でそのまんまドエロ漫画を描いていて、ウハウハしながら買っていた記憶とか思い出しました。……本出そうと思って挫折した嫌な思い出も(笑)。
今でも思い出すとキュンとするっちゅーか…空と飯の間にいる微妙さとか、乱暴だけど本能的に子供に優しいとこにキュンキュンしてる飯とかにハゲ萌えた若かりし日々(笑)。

…なんかその後、ブラックジャックのキリコ×黒男とかあしたのジョーのジョー総受本とか買ったことも思い出した……(笑)。
確か009がアニメになった2年くらい前から、懐かしいアニメのリバイバルブームが同人的にあって(笑)、あしたのジョーとかブラックジャックとかサザエさんとかドラえもんとかパーマンとかアンパンマンとかありとあらゆる懐かしアニメが腐女子的にリバイバルされたんだよなー。手塚漫画そのおかげで大量にリバイバル解釈されたしなぁ…キューティハニーやデビルマンの男性向けエロも読んだ記憶が。永井豪は男女問わず使える漫画だからな…。

ある意味懐かしいアニメは旬がないので、いつでもはじめたら旬、そして結構知ってる人が多いのである程度は読み手が確保できるのか、ということに気がついてなるほどなぁ…と思った記憶も蘇りました(笑)。そこで買った本の作家さんとまた別のジャンルで知り合い、いろいろあって最後は葬式に香典を包んだのもひとつの思い出ですな。

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