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ヌーベルバーグ

REBORN深夜の真剣文字書き60分一本勝負 第15回「ハッピーエンド」
一時間で書ききれないようなネタを突っ込むのはやめておこうと半分くらい書いてから気がつく
もっと早く書かないとオチまで辿り着かないと思うんですがつい書きすぎてしまいます
引き続き王子語りでスクアーロと映画の話


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いい加減慣れるよね

REBORN腐向け深夜の真剣文字書き60分一本勝負 第1回め「慣れ」
気が付くと手が勝手にザンスクにしてしまうので後でもう一本書いたもの。
時間内にオチまで書くので割と尻切れトンボ



「痛い」
「いやぁねぇ朝からずいぶん機嫌ワルいじゃないスクちゃん」
「センパイの唯一の取り柄くらい俺たちにサービスしてもいんじゃない?」
「傷が残ることになると本当にボクの財布に響いて困るから気をつけてよね。いい医者紹介しようか?10ユーロで」
 
スクアーロは朝が強い。朝からテンションマックスで元気なことが多く、よほどのことがない限りはいつも朝早くからどこから声が出るのか不思議なほど大声で元気よく動き回る。余程のことがないかぎりは。
今朝のスクアーロは機嫌が悪かった。最近よくある「余程のこと」がまた昨夜あったのだ、と約一名を除いた全員が察することが出来るくらいには。

「センパイどうしたのそれ飲まないの朝からしぼりたてのジュース飲むの習慣でしょ?もしかしてどっか悪いの」
「ベル、それは口に出さないほうがいいんじゃないのかい」
「マーモンがシモネタ言うとはびっくりした!」
「やめなさいよ朝から」
「意味わかんねーぜぇ。口の中切ったから染みるんだよ」

そういうスクアーロの口調はいくぶんくぐもっていて、額に赤くなった打撲痕、鼻の頭にすりむけた打撃痕、パジャマ代わりの七分袖のシャツの二の腕には真っ赤な鬱血跡があるのを幹部全員が素早く確認して、なるほどまた一戦交えたのか、と納得したものだった。
一戦はどちらの意味だろう? と一瞬考えた彼等の中で、バトルと取ったものとバトル&アフェアと取ったものとにきっちりとそれはわかれた。
後者と受け取ったのはルッスーリアだけだったのも、それもいつものことだ。


「そりゃ大変だ! 血出た?」
「出たぜぇ。口内炎出来ると困るんだよなぁ…」

不平を漏らすスクアーロは心底ダルそうに焼いたクロワッサンをちぎった。小さく小さく、まるで深窓の姫君のように小さくちぎって、小鳥のように口を開けて、やけに上品に食事をするのだ。
まーボスと殴り合いの喧嘩したらそりゃーだるいよね! とベルフェゴールは納得したし、マーモンはこれでしばらくスクアーロの隠し撮りの写真が売れなくなるじゃないか、いやいやこういう顔のスクアーロもそれはそれで?需要あるかも?などと思いながら得意先を思い浮かべて皮算用に忙しかった。

「熱いスープとか飲めなくなるわねぇ。固いものも難しいわ」
「まーなんとか食べるからそれは別にいいんだけどよぉ」

一応少しはそれっぽく対応してみる姿勢を見せようかとルッスーリアが口に出すと、スクアーロはあまりそれに食いついてこない。それはスクアーロにとって、あまり大きな問題でないらしい。

「それよりもボスさんがうっせーなぁ…」

へぇ、スクアーロの言葉はあまりにさらりとしていて、その場にいた四名(レヴィ・ア・タンも当然そこにいた。彼は昨夜遅くに戻ってきたばかりであまり寝ていなかったのだが、空腹に耐えかねて朝食を取りに来たのだ。当然半分は寝ていたので、会話にほとんど参加しなかった)は聞き流してしまっていた。
スクアーロの話はほとんどがどうでもいい話で、それ以外の実のある話も実のない話もほとんどがボスの――ザンザスの話なので、皆それに慣れていたのだった。
だが、他の話ならともかく、『ボス』の単語で半分寝ぼけていたレヴィ・ア・タンが覚醒した。

「ボスが何故おまえの口内炎ごときで文句を言うのだ」

ことボスのことになると天才的な判断力を発揮するレヴィ・ア・タンのツッコミに三名は目を見張った。意味を解釈しようとそれぞれが脳内でツッコミを開始する前に、スクアーロは懸命口の中の痛いところを避けて食べていたクロワッサンをひとつ食べ終わり、水を飲んで口を湿らせていた。

「キスするからだろ」



――――――――――――――――――――――――――――――――

「あれってもしかしてボスの性癖カミングアウト?」
「そうかもしれないわね」
「キスするから口内炎がいやなんだろ? 違うのルッス」

食器洗浄機に皿を入れながらルッスーリアはニヤニヤしているが、食後のジュースのおかわりとデザートを食べている王子と赤ん坊は普通の態度だ。最近スクアーロが朝テーブルで、ザンザスとの夜のことを無自覚で口に出すことがあるのだが、それは概ね喧嘩やそれに準ずる内容なので、二人はそれをそのまま受け取っていた。

「そもそも原因はボスかもしれないわね」
「喧嘩した時にぶつかってヘマしたんじゃないの?」
「そもそもスクちゃんのあの傷だって、全部が喧嘩したものなのかあやしいわね」
「え? どういうこと?」
「セックスの時にパートナーを噛む趣味のひとってけっこういるのよねぇ」
「え?」
「ボスが噛んだのかもしれないでしょ」
「なにを?」
「口内炎の原因よ」

ベルと赤ん坊はスクアーロの怪我は全部、昨夜いつものようにボスと何かが原因で喧嘩して、いつものようにスクアーロがぶっ飛ばされたり殴られたりしたせいだと思っていた。
けれども。

「噛んだの?」
「噛まれたのかもね」

どこを。どうやって。どうしたらそんなことが。どこを?

「あー」

赤ん坊と王子は同時に声をあげた。

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慣れてくるまであともうちょっと

Twitter上企画REBORN深夜の真剣お絵かき60分一本勝負に参加した作品です。
一回目お題「慣れ」
リアルタイムに参加するのは難しいので、タイマーかけて後で書きました。
なかなかこういう小ネタを書く機会がないのでリハビリですね。



「おまたせ」
年季の入ったカウンターは綺麗に磨き上げられていて、新しくはないけれども落ち着いた雰囲気を醸し出している。子供がひょいっと入れるような店ではないが、常連さんと彼等が連れてくるご新規さんが途切れることなく続いていて、このご時世にそこそこ流行っている寿司屋というのはたいへん貴重だ。
「待ってました♪」
フランスのタイヤメーカーが作るレストランガイドのアジア版が出来るまでもなく、東洋の小さい国の食事は世界的に有名だ。こんな小さな店にすら、外国人の客が訪ねてくる程度には。
カウンターにはキラキラした金髪と銀髪の青年が二人、並んで座って店の主が握ってくれる寿司が来るのを待っている。
見ればちょこんと、ずいぶん小さいこどものような影が、隣の椅子に座っていた。
フードを深くかぶっているので容貌が伺えないが、どうやら二人の仲間らしい。
三人の前に頼んだネタがこぶりの皿に盛られて出てくる。
子供には玉子焼きがふたつ、半分に包丁を入れて置かれる。
金髪の少年の前には青魚を酢でしめたものと、薄くスライスされた貝を焼いたもの。
わくわくしながら二人が皿に醤油を垂らして食べ始めようとしたところで、最後の青年の前に赤身の魚と薄くスライスした蛸が置かれる。
「いただきまーす」
行儀よく手を合わせて、おしぼりで丁寧に指先を拭いてから、手で直接寿司を摘んで、タネをそっと醤油につけ、口の中にそっとそれを置いた。
口に含んだ瞬間、三者三様の表情で、その寿司のうまさを語るのを、カウンターの中で寿司屋の主は横目でちらりと眺める。
わざわざ遠くから来てくれる客がその費やした労力に見合うだけの味を提供出来たのかどうか? それは結構重要な問題だ。
三人は黙ってそれぞれの味を確かめる。
子供は二つに割った淡いたんぽぽの花のようなやわらかい黄色の玉子の中の、甘みやかすかな塩気、そして濃厚なダシの味を白いご飯の上に乗せてじっくりと味わっているし、金髪の青年は、まずは焼いた貝をつまんで口に入れ、顔を少し上げて店主の方を見たーーような気がした。なにしろ青年の前髪はとても長く、目元を完全に覆い隠していて、普通にしていると視線を見ることが出来ないのだ。だから目で推し量ることが出来ないのだ。だが青年はそれを補って余りあるボディランゲージで、「これはうまい!」と叫んでいた。
「ん…」
銀髪の青年はためらうことなく赤身の魚をつまんで丁寧に醤油につけ、それが垂れないようにすばやく口に入れて味わう。
青年は相当の美形で、どちらかといえばハンサムというより美人というほうだったが、その顔が崩れる勢いで大きな口をあけ、そこに寿司をさっと素早く入れるのだ。
それももう数貝繰り返したことなので店主は慣れているが、初めて見た時は驚いたものだった。
三人は黙ってもくもくと寿司を口に入れ、あっという間に出した皿を空にする。次は、と聞こうとする前に、銀の青年が主に声をかけた。
「なぁ、今日なんかいいもん入ってるかぁ?」
「そうだなぁ…ちょっと珍しい魚を買ってきたんだが食べてみるかい?」
「えっ、なになに?もしかしてチョーグロい魚とか?」
「ちょっと名前を教えてくれないか」
三人は外見はあきらかに外国人なのだが、その口からは流暢に日本語が飛び出してくる。それに驚いたのもだいぶ前の話だ。
「あ、ボクの分はわさび抜いてよね」
「王子もー!」
「おめーらもったいねぇことしやがるなぁ!わさびがあるからうめぇんだろぉ゛お゛!」
「王子ちょっと無理!かんべーん」
「ボクはまだ子供だから刺激物は与えないでおくれよ」
「わかってるって」
店主は慣れた手つきで魚の身を切りわけ、シャリを握って三人の前に2カンづつ置く。初めての魚を、緊張や期待を込めてじっと見つめている視線を眺めているのは、どこか誇らしい気持ちになるものだ。
さきほどと同じ手つきで寿司を取り、醤油につけ、口に運んで味わうまでの、タイミングが本当にバラバラで、毎回それを見るたびに店主は内心笑ってしまうのだ。確かに日本語はうまいし、日本の風習には精通しているようだけれども、やはり彼等は外国人なのだな、ということをそんなところで感じるのだ。
「お?」
「すげー!なにこれ甘いー!んでしょっぱいー!」
「不思議な味だね。何もしてないように見えるけれど、甘みがある」
一番子供であるはずの小さいフードの子が、実は語彙がもっとも豊富で、的確に正しく自分の食べたものの表現をする。年長に見える銀の青年が一番、歓声を上げるばかりでそれ以上の言葉をあまり口に出せないようだ。けれどそれで十分、彼は店主の息子と通じているように見えるし、店主も彼の言いたいことがわかる気がした。
こうして三人が寿司屋のカウンターに並んで、しっかり食べてゆくのももう何度目になるだろう。酒をすすめても飲まないのが残念だが、この気前よく身目よい外国人の集団を、店主は嫌いではない。
わさびに慣れてくれないのがもったいないが、こればかりは日本人でも駄目な人も多いので、無理強いするわけにもいくまいが、惜しいことだ。
「あと王子サーモン食べたいー!」
「俺はそこの魚、…そう、その魚くれ」
「ボクにはかっぱ巻きを作ってくれないか」
それぞれの注文が入って、まだまだ食事は続くようだ。

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いきもののはなし

スクアーロに食事を与えるのはザンザスの道楽のようなものだ。
普段の食事はほとんど気にも止めない。
ルッスーリアの食事はおいしいし、ヴァリアーのコックの料理は悪くない。時々作るスクアーロの食事も、見目は粗雑だがまぁ悪くない。
だがスクアーロと、スクアーロだけと一緒に食事をすることは滅多にない。
何故だろう?
ザンザスはそんなことを考える。
そんなことを考える程度にはスクアーロの食事の姿を見るのは珍しいのだ、ということに気がついた。
おかしなことだ。そう、とても。

スクアーロが食事をしている。食べ物を口に含み、噛み砕き、飲み下す。そんな動作を見たことがないわけではないというのに――食べものという意味では近いのかもしれないが、本来は口にするものではないものを同じようにして嚥下する姿はそれこそ、毎晩のように見ているというのに――それがなんだか珍しく感じる。
珍しいと思うことが不思議だ。とても。
スクアーロの食事をしている姿はどこか映画を見ているような気分になる。
何故だろう、と考える。
ああそうだ、コイツは食べながら、食事の内容について感想を言わないのだ。
食事の中身について、たとえばこれが何で出来ていて、どうやって料理したのか、ということについては話題にすることはある。
けれどその料理の味、感触、それらから思い浮かべる自分の感情、楽しみ、記憶、そんなものを自分に語ったことがないことにザンザスはふと気がついた。
ザンザスの耳に、同じレストランで食事をするカップルの、家族の友人同士の、会話がふと入ってきたからだ。

どうしたんだぁ、…ザンザス。

一瞬ボス、といつものように呼びかけようとして、スクアーロは一瞬喉から吐き出す空気を止め、滅多に呼び慣れていない名前を、ひどく丁寧に口にした。


いつ書いたのか覚えていないが一年くらい前に書いた話

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もてる男

※R18
※倦怠期通り越してるXS
※たぶん30代半ばあたり


「あいつは多分女が嫌いなんだろうなぁ」スクアーロはグラスを一気にあけた。そんなに一気に飲むのは珍しい。
「嫌いというより怖ぇんだろ。巨乳が好きな癖にな」「そうなのな」「そうだぜぇ。ママのおっぱいが恋しいんだろ」「男はみんなそんなもんだろ?」「日本人のおっぱい好きは有名だもんな」「いいじゃんおっぱい。男のロマンでしょ」「そんなもん、つっこむほうがいいに決まってる」「洋物のAVってホントそんなんだもんなー」酒飲談義は大抵シモネタと相場が決まっている。好きな女の子のタイプを明かし合うと打ち解けた気がする。スクアーロの好きなタイプの女の子ってどんなの?それだけを口にするのに山本はなけなしの勇気を振り絞った。スクアーロはザンザスの恋人だ。もう十年も前から。
俺は金髪のよく喋る明るい女が好きだ、スクアーロの言葉にちょっと驚いた。やけに具体的だなと水を向ければ、そういう女は俺が声かけてもちゃんと返事してくれるからな、と返事。
「ナンパとかすんの?」「しねぇのか?」質問に質問で返すなよ、するの?したいと思ってしてるわけじゃねえけど、目が合うと声かけてくるだろ、だから返事する。値踏みされて合格すれば一緒に部屋に行く。そんなもんだろ。「へー」すごいな。てめぇだってしてるだろうがぁ、スクアーロはまたワインを干す。空いたグラスに注ぐ。今日は随分飲むなぁ、自分も同じくらいのペースで開けながらちょっとだけ山本は気にかかる。
「俺の話はいいじゃん」「おめーはモテるだろうなー。そしてこれからもっとモテる」「断言するね」「強い男だからなぁ」強い?そんならスクアーロの方が。「馬鹿言うんじゃねーぞぉ、強い男ってのは女にとっちゃ一番魅力的な獲物だろーがぁ。いい種取るのは本能だろぉがぁ」「スクアーロだってそうじゃん」「そうでもねぇぞ」スクアーロの目元が赤い。「キレイだし」「ばーか、キレイな男ってのは案外価値がねぇんだぜ」そうなの?「賞味期限が短いからなぁ」そうでもないと思うけど。「アジア人は馬鹿みてぇに若いからなぁ」よく言われるけど、それっていいこと?「いいことだぜぇ」
てっきり大人っぽい大人のほうが価値があると思ってたけど。「それとこれとは別だぁ」別なのかな。同じみたいな気がする。「てめえらはなんでも可愛いですませるじゃねぇかぁ」そうだね。
可愛いってのは自分より劣ったものを愛でる気持ちだ。小さい物、愛らしい物、価値がないもの、ささやかで美しいもの。それを愛でるから可愛い。自分より圧倒的に素晴らしいもの、強烈に強いもの、神々しいほどに美しいもの、畏れるほどにすばらしいものをかわいいとはけして言わない。知ってる、それは知ってる。山本は昔スクアーロを可愛いとおもった時のことを思い出す。
「可愛い女ってのは結構長いこと価値を保てる。男に優越感を感じさせることが出来るからなぁ。そういう女は長く価値がある。キレイな女はどうだ?かわいくねぇだろぉ。綺麗な女は可愛いとは思われにくいだろぉ。綺麗であり続けることは面倒だし大変だ。そんな努力を続けることはそうそう出来ねぇだろ、目的がなけりゃあな」綺麗な人が綺麗なままでいるには何が必要かってこと?「そうだ」それは可愛いの逆だよね。自分より上のものを賛美する気持ち。畏怖とか、敬意とか、そういうもの。だから俺、スクアーロを綺麗だと思ってるのかなぁ。「そうかよ」…そこ少しは嬉しそうにしてよ。「してほしいか?」……なんか気持ち悪いから別にいい。「そうか」飲み過ぎてない?今日そんなに飲んでいいの?運転しないの?「いいんだ」へぇ。
「ザンザスは――女が怖いんだろぉよぉ」スクアーロはワイングラスに自分でワインを注ごうとする。手酌なのにやっぱり優雅だけれど、少し手元が危なっかしくて瓶を奪って注いでやる。山本もだいぶ指先があやうい。
「母親が嫌いなんだろうし、女にいい思い出がねぇんだろぉなぁ。御曹司時代にもいろいろ、あったんだろうしよぉ」スクアーロの眼の色がすうっと薄くなる。ザンザスのことを考えてる時の癖。焦点が少し遠くなるというか、そんな感じ。それが見えるほど近くで何度も見たから山本にはわかった。自分が大人になったのと同じで、スクアーロも年取ってる筈なんだけどな。昔はすっごいキラキラしてて眩しかったけれど、今はずっと静かに光ってる感じ。刀工が作った日本刀みたいだな、と山本は思っている。昔はおろしたてのナイフみたいだった。今は博物館にあるような名刀の雰囲気。刃の波紋が美しくて、引きこまれてくらっとしてしまいそうな。
「綺麗な男の機嫌は短いぜぇ。次の手を打たねぇとすぐに枯れて捨てられちまう。それに比べりゃ強い男の価値はそう簡単には下がらねぇからなぁ。昔強かったってのは武勇伝になるが、男も女も、昔綺麗だった、ってのはただの回顧録だろ?誰も読まねぇ」そうかなぁ。「まぁそんな強い男が女がダメだったのが笑えるんだけどな」へー。
スクアーロは声を殺してくすくす笑う。背中に流していた髪が流れてスーツの上を滑る。前髪が顔にかかって邪魔じゃない?なんて言ってこの前中国で買ったピンを渡した。小さい魚のチャームのついたピンで、前髪を止めている。
「強い男ってのはモテるからなぁ。女にも、――男にも。おめぇんとこのボスも色気出してきやがるし」ツナが?まぁ、ザンザスがいないと舐められてばっかりだからしょうがないよ。「そりゃそうだ」確かにすごくアテにしてるよね。「されてやってるんだぜぇ」そうかもなー。強い男は男にこそモテるよね。うん、確かに。
「ザンザスはなぁー」はいはい。スクアーロがザンザスを名前で呼び始めるのは酔いが回ってきた証拠だ。普段はボスさんとかボスとかあいつとかいうもんな。時計をちらりと見れば、そろそろあっちも終わる時間だ。酒出して飲ませていいと言われたけれど、ホントにこんなにしちゃってよかったのかな?
廊下に足音、ドアが開く寸前にスクアーロの視線がそちらを向く。早いなぁ、ホント。手にしたグラスを押しつけられる。綺麗に空っぽでいつの間に飲んだのか気が付かなかった。あのさ、スクアーロ、続けようとして別れの挨拶に顔を近づけられる。「てめぇもボスさんに色気出すなよ」えっ。
山本は固まったままスクアーロを目で追いかける。ドアの間から彼のボスが見える。視線だけでスクアーロは動き出し、上着をハンガーから取る。袖を通してボタンを嵌め、少しだけ雑な動きで部屋を出て行く。ザンザスの前を通し抜ける。ザンザスがドアを開けて待っているのを、一歩立ち止まって待ってから、視線で動かされて先に部屋を出る。ザンザスがドアを閉める。目が合う。なるほど、威嚇とはこういうふうにするものか、と山本武はひとつ学んだ。今日は自分も酔っているようだ。スクアーロの後ろ姿を見届ける事ができなかったのが証拠だ。

酔ってるなと言う前にスクアーロの腰に手を回した。途端に腕の中で体がぐにゃりと緩む。「飲み過ぎだ」そうだなぁ、吐き出す息が酒臭い。「何管巻いてるんだ」いいじゃねぇかぁ。いいわけあるか、脇に手を回そうとしたけれどそれは断られる。少し休むか、いい、帰ろう。屋敷はやけに広くて大きい、勝手知ったるつくりだが、玄関までは長い廊下を抜けて、中庭を通り抜ける必要がある。冷たい風にあたれば少しは酔いも覚めるだろう。
スクアーロの体温が少し高い。足取りはふらついていないが、平衡感覚がおかしいのか。珍しいと思いながらザンザスは普段よりゆっくり歩いて玄関へ。連絡が回っているのか、車はもう回されている。鍵を受け取ったのはザンザスで、玄関で客人を送り出す役目のポーターについた執事が少し前を細める。
車の周りを回って歩いてから下を覗きこみ、トランクを開けて中をひと通り見てからドアを開ける。全部のドアをひと通り開けてから締め、助手席のドアを開けてスクアーロをそこに突っ込む。自分でシートベルトをするのを確認してザンザスが運転席に回るのを、ドアの中から驚いた顔をして執事が見ていた。
「なぁ」スクアーロが口をひらいたのはだいぶ走ってからだ。あまりに静かなので寝ているかと思っていた。「どうだった?」何が。「女がいたんだろ」いた。それが何か?「可愛い女だったか」そうだな。確かに。「よかったかぁ?」悪くねぇ。「そうかぁ」ふうっと大きく息を吐く。寝るのか、そう思いながらアクセルを踏む。信号が赤になるのが見える。減速。こいつは酔っている。急停車しないよう、注意してブレーキを踏む。加速も減速も悪くない。スクアーロが気に入っているだけのことはある。
スクアーロは先を続けない。だからザンザスは答えない。今日は見合いだったと思っているスクアーロの誤解はそのままに。席に座ったのは九代目の幼馴染み、年は十近く下だがもう還暦を超えている。長くアメリカに住んでいて最近、連れ合いを亡くしてイタリアに戻ってきた。老後はオーストラリアで過ごすことにしたらしく、最後かもしれないから、と会食の席についたのだ。同じ名前の孫娘がおり、それがまだ二十歳の小娘で、スクアーロはそちらのことだと思っていた。もちろんザンザスも。部屋に入ってすぐにわかったが。
「面倒になったら」声が小さい。窓に向かってスクアーロが何か言う。車は大きな国道に入った。ここからヴァリアーの城まで人気のない道が続く。静かだ。「捨てていいからなぁ」何を。捨てられるものなど何があるというのか。「結婚するのかぁ」誰と。「今日の女」さぁな。少なくとも向こうはその気はないだろう。「その女不感症なんじゃねぇの」そうかもな。「おまえみたいな強い男見て濡れない女なんかいねぇだろ」そういえばさっき、「ホントのことだろ…おまえおっぱい好きだもんなぁ」まぁな。否定はしねぇ。「でっかい乳に顔うずめてぇんじゃねぇの」そりゃ枕だろ。「いいじゃん、気持ちよさそうだぜぇ」いいもんか。ありゃ脂肪の塊だ。筋肉よりよほど冷てぇ。あったまるにゃ時間がかかる。「そうなのかぁ?そうでもなかったと思うんだけどなぁ…」そりゃおまえの相手がいいんだろう。感じて、興奮してるから血行がいいんだろう。脂肪が溶けるまで、時間をかけて、……ああ、クソッ。
「なぁ」こういう時は黙ってるのが礼儀じゃねぇのか。黙ってろ。「なぁ」黙れ。「…!」うるさい。背中叩くな、てめぇの左手で本気で叩くと青あざになるって知ってるか?今日はそれじゃねぇのか。変な音がするな。はずされたのか。「なんだよ」泣くなよ。「泣いてねぇ」泣いてるだろ。「酔っ払ってるせいだ」そうか?ずいぶんゆるいな。「どうせな」怒った。スクアーロに何を言えば怒るのか、ザンザスはよく知っている。「おい」いまさら慌てているのに笑ってしまう。それをどうとったのか、不自由に衣服が絡んだ手足が懸命にもがいて逃げようとする。どこに逃げる?この小さい車の中のどこに?「本気かよ」黙れ。すぐに忘れるくせに。
そうだすぐにスクアーロは忘れる。シャツをたくしあげてベルトを外して、助手席を倒して乗り上げて、足の間に手を入れるとすぐに忘れる。すぐに尻を振って欲しがる。くれてやる。シャツの間から乳嘴を探してつねる。撫でる。おまえが抱いた女はおまえの手管に喜んだのか?綺麗な男に抱かれることに喜んだのか?それとも、綺麗な男に奉仕するのが楽しかったのか?子供のおまえに抱きつかれて、母性とやらが芽生えたのか? 懐にするりと滑りこんでくる綺麗で強い獣。抱いて撫でて喉を鳴らせば、可愛いのは道理だろう。
酔っているせいか喘ぎ声がいつになく派手だ。夜に道路脇に止まった車が不自然に上下に動いていれば目的なんか一つしかない。そんな車に声をかけるほど真面目な警官がいるわけもない。車は立派な部屋だ。ティッシュだってあるからな。
「馬鹿じゃねーの…」何がだ。「アジト帰るまで待てねぇのかよぉ…」待てるか。酔って泣いてる恋人を慰めるのに家に帰るまで待ってろとでもいうつもりか。おまえは大事なことを忘れている。「舐めるなよぉ」何が悪い。「いいからさぁ」うるさい。「…あーあ……」

「あいつに適当なこと言うな」
「なんのことだぁ」
「あいつの俺の女の好みとか教えてどうするんだ」
「…駄目かぁ」
「教えてどうする」
「牽制になるだろぉ」
「何の」
「おまえのさぁ。…おまえ、いい男だかんなぁ。気をつけねぇとよぉ、取られるかもしんねぇし」
「は?」
「別におまえゲイってわけでもねぇし、俺とヤッてるのもそっちが好きってわけでもねぇんだろぉ。おまえみたいなの、男にもすげえxモテるしなぁ」
「そういう趣味はねぇ」
「まぁそうだろうけどよぉ、あんま女っ気がねぇもの問題あんだろぉ」
「別に」
「そんなことねぇだろぉ」
「恋人がいるのにそんな必要あるか。めんどくさいのはてめぇで間に合ってる」
「そーかよ」
そこを否定されなかったことが今日の収穫だ。
強い男はモテる。綺麗な男もモテるだろう。強くて綺麗な男が男にモテるのは、おまえの事で実証済だろうが。

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ひさしぶりの歌を歌おう

「Buon Compleanno マーモン!おめでっとう~!」
「………………ベル、僕が寝たの二時だって知ってるよね…?」
「いつもはそれくらいじゃねーのかってことくらいは知ってるよ!」
「昨夜は会社研究で三時半に寝たんだよ…」
「勉強熱心だなぁマーモンは」
「ちなみに今、何時なのか知ってるかい?キミ」
「俺の時計だと午前七時三十分だけど?」
「………キミいつから早起きするようになったの」
「七時三十分って早起きじゃなくね?」
「暗殺部隊じゃ早起きだろ。………いつも夜更かししてるクセに」
「王子生活改善中だから」
「……本気で言ってるんじゃないだろうね?」
「王子マーモンにはいっつも本気だよ~?」
「…どうだか。で、なに。こんな時間に何の用」
「用件最初に言ったじゃん。マーモン、中入れてよ」
「……ここで話なよ」
「もしかしてマーモン、寝ぼけてた?」
「睡眠が足りていないことは確かだね」
ずっと地面に近い下を見ていることにベルフェゴールはいい加減疲れを感じていた。
とにかく首が痛い。
視線を合わせようとしゃがみこむとマーモンはてきめんに不機嫌になるので、
ベルフェゴールはその姿勢を取ることができない。
仕方ないなぁ、ベルフェゴールは手に持った荷物を片手に寄せて、空いた手でかなり地面に近い身体を素早く抱き上げた。
「部屋入れてよ」
「僕の中ではまだ夜だよ。勝手に人の部屋に入ろうとするつもりかい」
「マーモンが一緒だから問題ないだろー?」
「君ねぇ」
 マーモンは明らかに眠りが足りていないようだ。普段ならここで幻覚でも飛んでくるか、マーモンを掴んだ指に何かぶつかるか、身体が宙に浮くかするところだが、それはどれも行われていない。
 本当に眠いらしく、意識的に念動力を起こすことも出来ないようだ。
「ま、いいか」
 ベルフェゴールは痺れを切らせてマーモンの部屋に入ってしまう。マーモンは抱き上げられたことに怒って入るがろくに抵抗もせず、ベルフェゴールの肩に頭を乗せて運ばれるままだ。
 マーモンの部屋の中は本ばかりで、ベッドサイドに株式取引用のノートパソコンが一台、隣に外付けのディスプレイを繋げて置いてある。株取引するならデスクトップのほうがいいんじゃないの、前にそんなことを聞いたことがあったがその時は、デスクトップのキーボードはキートップが大きすぎて、子供の手では打つのが大変なのだ、と言われたのだっけ。
「で、何の用。僕眠いから手短にね」
ベッドの上に降りたマーモンは寝ぼけた顔でベルフェゴールを見上げる。いつも被ってるフードを取ったマーモンはルッスーリアに選んでもらったパジャマにガウンを羽織っている。小さいサイズの服が子供向けのものしかなくて(マーモンも外見は完全に子供なのだが)、そんな服を着るのは嫌だと言っていたら、ルッスーリアが知り合いのデザイナーに頼んで作ってもらったのだそうだ。
それが思いのほか気に入ったらしく、部屋にいるときはいつもその格好でいる。
「ひっどいなぁマーモン、今日何の日か知ってる?」
「今日?なんの日?……なんだっけ?」
眉間に皺が寄っているマーモンは本気で眠いようだ。普段から少しは考えてから質問するくせに、今日はそこまでも頭がまわらないらしい。
ベルフェゴールは唾を飲んで背を正した。それから一番カッコイイ声を出そうと背筋に少し力を入れて、抜く。息を吸う。
「Buon Compleanno マーモン」
「……………は?」
マーモンは完全に虚をつかれた顔をした。意味がわからない、とでも言うような。
ベルフェゴールは片手に持っていた箱を取り出して、ぼーっとしているマーモンの手を取った。
右手を恭しく取り、手を開かせて上を向かせ、自分の手に握っていた小さいプレゼントの小箱をそこにそっと置いた。
「これ王子からのプレゼント」
「え…? あ…? あれ、2日…?」
「毎日株価見てるのに忘れてたの」
「あ、…うん、完全に忘れてたよ」
「あ、そう……」
忘れてたのか、そうか、そうなんだーマーモンそんなに覚えてなかったんだー、ベルフェゴールはちょっと残念だなと思った。
一応先月というか先々月あたりから、マーモンが欲しいもの必死で考えていたんだけどなー、何度かさりげなーく欲しいものとか聞いたんだけどな。うん、多分伝わってないと思ってたけど当然でしたね!!
多少のガッカリは顔に出さず、ベルフェゴールはプレゼントを渡すのに成功した。マーモンの反応は非常に薄かったが、まだ半分ねぼけているに違いない。完全に起きていたらそもそもこうやって、マーモンの手を取ってプレゼントを渡すなんて出来るわけがない。
「なに?」
「一応マーモンが欲しいって言ってたものだけど」
「へー」
「うん」
「ありがとう。開けてもいい?」
「いいけど、眠いんじゃない」
「眠いよ。今すごく眠気がやってきたので眠くて仕方ないよ」
「じゃあ寝なよ…俺出てくから」
「君を見送ったら寝るよ。用件はそれだけ?」
「そ。プレゼント渡したかっただけさ」
「そうかい」
そこまで言うのにもマーモンは本当に眠そうだった。話ながら目を閉じてしまいそうだった。ベルフェゴールはちょっと残念だとは思ったが、まぁ誰よりも早くプレゼント渡せたからまぁいいや、と思うことにした。
「じゃあね。朝メシ食べる?」
「僕は一眠りしたいからいらない」
「そっかー、じゃあな」
ベルフェゴールはしつこくせず、そう言って部屋を出て行く。ドアを閉めるのを待たず、ベッドに倒れこむ音がする。いいのかよマーモン、せめて鍵閉めてから寝たほうがよくね?
まぁ部屋の鍵なんて、王子がその気になれば簡単に開けられるけど。
ベルフェゴールは目的を果たせたので満足している。
今日はこれから少し早めの食事をしてお出かけだ。午前の便に乗ってアメリカまで飛ばなくてはいけない。ニューヨークから乗り換えて南部の田舎に行かなくてはいけないのだ。先に現地で潜入しているレヴィと落ち合って、そこでオシゴトをして後始末をして、西海岸回ってから帰国する予定だ。途中でパスポートを替えるので、ちょっと移動がめんどくさい。
誕生日にちゃんとプレゼントあげられてよかったな、と王子は鼻歌を歌いながら自分の部屋に戻った。


午後の休憩をとっている談話室に、軽やかな足音が向かっている。ルッスーリアが焼いておいたクッキーが一日置いたのでさらにしっとりしてきている。
「一日置いたほうがうまいなぁ、さすがだぜぇ」
「オホホホもっと言ってちょうだい」
「カフェに合うしよぉ、食い過ぎそうでやべぇなぁー」
「夜にちゃんと運動すればダイジョウブよぉ」
「つーかマーモンが走ってるなんて珍しくねえかぁ?」
「そうね」
「ルッスーリア!スクアーロ!ベルは?」
部屋の中にはいつもとおり、スクアーロとルッスーリアしかいない。入る前からそれはわかっていたのに、聞いてしまうのは無駄なことだ、とマーモンは一瞬後に後悔した。
「いないわよ」
「今朝早く起きて仕事行ったぜ」
二人の口から出てきた言葉はわかっていたことだった。
わかっていた、なのに予想通りの言葉が出てきたことにマーモンは落胆する。落胆する自分に驚く。驚くことに感動する。そんな場合じゃないのに、頭のどこかでいつも冷静なもう一人の自分が、にくらしい顔で笑っている。
「なにかあったの?」
ルッスーリアの勘の鋭さは魔術的だ。超能力者として一応全ての能力を有しているマーモンだったが、メインの能力は念動力で、読心力はあまり得手ではない。時々、ルッスーリアにこそ読心力があるのではないかと思うことがある。
今みたいなときは、特に。
「……」
答えられないで黙りこむのは、何かあったといっているようなものだ。二人の間に何かあることは日常茶飯事だが、マーモンが訴えることはあまり多くない。
「それよりも朝ごはんも食べないでよく寝ていたわね。何か食べる?簡単なものしかないけど」
「あ、…うん…」
「おめぇもっとちゃんとメシ食えよぉ。せっかく大きくなってんだから、いいもん食って大きくなったほうがいいぜぇ」
「ちゃんとやってるよ」
「それともなにか?超能力使うとどっか体に問題あるとかあるのか?」
「なんでそう思うの」
「だって超能力だって『からだの能力』だろー? 炎指輪に突っ込むんだって慣れるまではすげー腹減ったんだしよぉ、使ったら腹減るんじゃねぇのかぁ?ボスだって炎全開で使った後はすげぇ酒飲むし」
「アル中と一緒にしないでよ」
「アル中じゃねぇぞぉ! だいたいいつもはそんなに酒呑まねぇぜぇ!」
「…そうなの?」
「最近はすぐ寝ちまうわな」
「…あっそ」
「あらあら汚い大人のただれた会話なんか聞いてるもんじゃないわ!パニーニ焼いたから食べなさい」
「早いね」
「今食べようと思ってたとこなのよぉ。ハム焼いたの挟んだだけだけど。もっと食べるならパスタ茹でるわよぉ」
「おい、今食べたら夕飯入らねぇだろ」
「あらそうだったわ。でも子供にお腹すかせて待たせるのは嫌ねぇー」
「何の話?」
かぶりついたパニーニは冷凍してあったもののようで、芯が少し冷たかった。でも焼いて挟んだボロニアソーセイジがすごく美味しかったので相殺だ。食べた瞬間、自分は相当空腹だったのだということにマーモンは気がついた。もっと食べたかった。
「今日マーモンちゃんの誕生日でしょ? せっかくだからディナーは好きなもの作るわよ。何がいい?」
「あ」
「今あんまり食べると夕飯はいらなくなるからよぉ。少しは大きくなったっつてもまだガキの体だからなぁ」
二人の会話にマーモンは思わず、今朝の会話を思い出す。覚えてるんだ、自分の誕生日を。
「どうしたの」
「顔赤いぜぇ?」
「なんでもない!」
急に喉が塞がって、あんなにお腹がすいていたのに口の中に入れたパニーニが砂みたいな味になる。おかしい、お腹すいてるのになんで食べられないんだろう、マーモンは自分の体の変調に驚く。そして今朝のプレゼントを思い出す。それをくれた人を思い出す。
連鎖する記憶がさらにマーモンの食欲を著しく減退させる。さっきまで元気よくかぶりついていた口がとたんに動かなくなる。スクアーロの視線が不審そうに眇められる。
「何がいいかしら? ケーキはレモンタルトを注文してあるけど」
マーモンが好きだと言ったものをいくつかルッスーリアが上げてくる。その中から一つ選ぶと、じゃあそれにするわね、とルッスーリアはキッチンへ引っ込んむ。
スクアーロは自分の前にあるアイシングのかけられたクッキーをマーモンに差し出す。
「結構おいしいぜぇ。飲み物いるかァ?」
「レモンウォーターちょうだい」
「おう」
食べ終わったパニーニの乗っていた皿にクッキーを三枚取り分ける。確かにすごくおいしい。
スクアーロは持ってきたグラスをマーモンの前に置いてしばらく食べる様子を眺めている。それはもういつものことなので、それほど緊張することでもないのだが、今日のマーモンは少し背中が汗ばんでいるのを感じている。
「ベルからプレゼント貰ったかぁ?」
「あっ、えっ、う、うん、貰った、貰ったよ」
「そうかぁ…。あいつすげぇ張り切って選んでたから、仕事行く前に渡せてよかったぜぇ」
「…そうなの?」
「朝早く叩き起こされて怒ってるわけでもなさそうだしなぁ?」
「……」
スクアーロはなんだか嬉しそうにニヤニヤ笑っている。それに気がついたらマーモンは猛烈に恥ずかしくなった。自意識過剰だ、そう思うのに、顔がみるみる赤くなるのを肌の温度で感じる。今日はフードをかぶっていないことに今更気がついた。
「べつになんにもないよ!ごちそうさま!」
「おう」
スクアーロはニヤニヤしたままだ。マーモンは自分の顔をこれ以上スクアーロに見られるわけにはいかないと思った。席を立って部屋を出る。ひらひらとスクアーロが手を振る。がんばれよ~とか言ってるけれど意味がわからない。何を頑張るんだよ!

マーモンは部屋に戻る。
ベルフェゴールがいないことはわかっていたことだったのに、朝のあれは夢だったんじゃないかとも思っていたのだ。
だって半分寝ぼけていたし、ベルフェゴールはいつもの通りだったし。
マーモンはパソコンの隣においてある箱を見る。珍しくベルフェゴールがマーモンの手を握って、その手の中に置いた箱。随分大きなものだな、とそう思っていた箱。

「指輪贈ってくるとか何考えてるんだよ…。まだボク子供なんだぜ…」

予約とかかれたカードの意味は、帰ってきたら聞きただすつもりだ。

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Buon Compleanno!!まであといくつ?

なんだか最近やたらとみんなが何かくれるなーと思っていた。
春だからか?
プレゼントはそんなに珍しいものでもない。自分だって行った先で気がつけば、あれこれ買ってくることもある。
昔はもうちょっといろいろ買ってきていたが、いつだったかルッスに「アンタのモノの趣味はすんごく限定されてるから、ワタシタチに買ってくるなら食べ物にしてちょうだい。それなら外れがないわ」と言われたことがあってから、なるべく口に入るものに限定して買ってきている。
それでも時々、どうしても、と思うことがあって、そういう時は思わず買ってきてしまうこともあるのだが。

「スクアーロ」

珍しいものがあるものだ。
報告書を出しに行ったあと、廊下を歩いていたらマーモンに声をかけられた。

「久しぶりだね。どうやら元気そうじゃない」
「俺ぁいつだって元気だぜぇ!」

アルコバレーノの呪いが解かれてから、マーモンはよく喋るようになった。内容はあまり褒められたものではないが、これは見た目と違うのだ。昔の話もよくするようになった。好き嫌いも素直に口にするようになったのは面白いことだった。
確かに少し、体が育っているのかもしれない。ベルがそんなことを口にしていた。

「それならいいけど。これあげるよ」
「おっ? おまえが何かよこすなんて珍しいなぁ?」
「ちょっとした気まぐれさ」

すっと目の前にやってきた赤ん坊が、マントの下から小さい手を出す。
その手の中にある小さい包みを受け取った。

「じゃあね。あ、ルッスが作ったケーキ、出してあるから食べなよ。ベルが戻ってくる前にさ」
「おう」

まるで義務を果たしたかのように、赤ん坊はふわふわ浮きながら、廊下をすーっと移動していく。
珍しいもんだな、と思いながら受け取った包みを眺めた。中身を知りたくて開けると、青いビーズがあしらってあるヘアクリップが入っている。

「これで髪の毛止めとけってことかぁ?」

時々髪の毛を止めているところを見られていたのだろう。シルバーの金具に青いビーズで魚のパーツが作られている。魚はちょっとアーロに似ている気がする。
隊服のポケットにそれを入れて、俺は部屋に戻った。

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