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君はいつもそんなことばかり言うんだね

何の話のついでに書いたのか覚えていない綱吉とスクアーロの会話
たぶん8年後くらい?







「痛くないの」

青い肌の色を見咎めて、そういわずにいられなかった。
だって痛そうだもの、見ているだけで、肌が白いから余計に、一層、目立つというか、わかる。
白い肌の下、リンパの黄色の色すら見えて、なんだかそれが本当に、不謹慎な話だとは思うけれど、まるで白い雪原に咲いた春の花のようで、透明な薄い花びらのような青痣が、痛ましいのに目を奪われて仕方ない。

「痛いぜぇ? まぁ、風呂入るときくらいしか、痛ぇってわかんねぇけどなぁ」
「……なんでそんなことするんだろう」

そうだ、それが本当にわからない。
どう見たってあれは、恋というか愛になるのか、あれは普通の上司と部下じゃないだろう。もっと深い、もっと近い、もっと遠い、もっと――もっと、なんだろう、どんな言葉もそぐわない、けれどどんな言葉だって当てはまる気もする。恋人、愛人、情人、家族、友人、同志、幼馴染、腐れ縁、パートナー、夫婦――そのどれだって合う、どのどれだって合わない。

綱吉の言葉は確認でもなければ同意を求めているわけでもない。ただ口に出た、としか言いようがない言葉、でも言わずにいられないことば。だからこそ真実に近く、だからこそ現実に遠く――張り付いたように、すぐ近くにある言葉だった。だからこそ、普段他人の言葉など、耳に入れない男の耳朶に、入ることを許された言葉になった。
けれど感情を余人に語る余裕はなかった。それは、かの人に捧げるべきものだった。
目の前にある、ドン・ボンゴレではなく、彼のイクス、彼の主にこそ迎え得る言葉と心だった。

「さぁなぁ? そこに俺がいるからじゃねぇの」
「だっ――、……」
「用事が終わりだろ、もういいかぁ、ドン・ボンゴレ」

そう言って書類を手にした姿を見下ろして、返事も待たずにくるりと振り返る背中、ついてくるのは――長い長い銀の髪、光るばかりで目が痛い。

「スクアーロ! 本当に、なんかあったら……俺、出来る限り、力になるから、言ってよね!」
「覚えてたらなぁ」

返事もしない上司とはちがって、律儀に返事だけはしてくれる。でもそれだけ、そのほうがもっと、たちが悪い。受け入れられているのではないかと誤解してしまうのだ、あの男よりはるかに普通に、対応してくれるから――それがたとえ、単なる処世術に過ぎないものだとしても。
それを使えるあたり、彼はあの上司よりはるかに大人なんだろうと、綱吉はそう思う。そう思うが――やはり大人なだけに、子供よりもずっと、性質が悪い。
ひらひら、片手だけ振って、ドアが閉まる。
振り返ったりはしない。そこまでサービスしてくれるなんて、そんなこと、しない。

「なんでそんなことするのかなぁ…」

思わず呟いてしまったのは、別に誰かに言いたかったわけではない。返事を求めていたわけではない、返事なんかかえってくるとは思わない。

なんでそんなことするの、殴って蹴って頬を叩くよりもっと、髪を掴んで引っ張って、言葉で傷つけるよりももっと、出来ることがあるはずなのに、やれることがあるはずなのに、どうしてそれが――それが――。
遠くで見ているだけなのに、赤眼の暴君の手が髪を撫でる指先がいつも、名残惜しそうに一瞬、そこで待っているというのに、銀の副官の冴えた眼差しがいつも、狂おしいほどの恋情を溢れんばかりにたたえて、その背中を見つめているのを、そうだ誰だって気がつく、すぐにわかる、相手の目を見ていれば、わかるだろうと思うのに。
相手が見ていないところでしか、そんな顔をしていないのだとわかるのに。

スクアーロの頬にも顎にも首にも咲いた、赤と青と黄色の花を、彼がどこか愛しそうな眼差しで語っていた気がするのも、そうだきっとたぶん、気のせいだと――今はそう、ドン・ボンゴレは思いたかった。
花はそこではないところで咲いたほうがいいのに――その青い唇の上、とかに。

そこにいるからそうするんだろう、それはそこにいられることの喜びなの?
そんなことをしていて大丈夫なの、君はそれでいいの、彼はそれで大丈夫なの、壊れたら壊れてしまうよ、君だけが壊れるなんて君以外誰も信じていないのに、そんなことが――それが、……嬉しいの?

こんな言葉を彼らに捧げることの傲慢を、嫌というほど噛み締めてきた。それこそもう何回も、けれど今でもやはり、そう思ってしまう。傲慢だとは思うけれども。
――かわいそうに。







ボスと鮫に綱吉を絡めるのが面白いのは、部外者として二人に意見できるのは彼しかいないからだな~と自分が思っているからだと思います。部外者だけど権力者だからね。

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何百回でも言える覚悟

「あのさあ」

ドン・ボンゴレは最近こういう伝法な口を利けるようになった。お相手はボンゴレの誇る暗殺部隊ヴァリアーのボスをすでに四半世紀近く務めている(ことになっている)ザンザスだ。

「もーいいかげん諦めたほうがいいと思うよ」

目的語がわからないので答えようがない、というそぶりをしようとして、ザンザスは失敗した。意味をなんとなしに理解してしまって、たいへん、たいへん苦々しい顔をすることを止められなかったからだった。

「本当はわかってるんでしょ? 変えるのより変わるほうが楽だって」

またもや目的語がない。何かを指して二人は語っているのだが、その何かがなんなのか、十代目ドン・ボンゴレは語らない。言う必要がないからだ。

二人が誰かについて語るとき、その対象はまず、たいへんかぎられる。
その中で、綱吉はともかく、ザンザスが興味を持つ人間というのはさらに限られる。
今回はその非常にまれな話題だったので、彼らが指している人間が誰なのか、目的語はあきらかだ。

「八年待って固まっちゃったの溶かすのはさー、十年くらいじゃ足りないんじゃない?」
「溶けないくれぇ固いんだよ」

答えてしまったので、ザンザスは綱吉の言っている相手が誰なのか、自分で白状したようなものだった。
もっとも、この男がその話題でない話を、おとなしく聞いているわけがなかった。

「あとはさー、馬鹿なのはもうしょうがないんだからさー」
「おまえに言われるとムカつくな」
「自分がいうのはいいの? やだなぁ」

そう言って、けらけら笑う。子どもみたいな顔で、でもけして子どもでない声で、大人のくせに、大人だから、子どもの時代のふりばかり、うまくなってしまった大人がいう。

「それでこそ惚気って言うんじゃない? あーあ、あっちもおんなじこと言うんだもんなー、どっかの夫婦みたいでいやだいやだ」
「いやなら聞くな」
「いやでも聞かれるのが惚気ってんじゃないの? 俺、いちおうそれだけは経験長いんだよね」
「……チッ」

嫌な男のことを持ち出されて、ザンザスは舌打ちをする。あの男がこの男に、どんな顔で、そんなことを言うのか、聞いたことがないわけでもない。思い出したくもない。
一緒にするな、とにらみつければ。

「凍ったの溶かすのはさ、氷じゃだめじゃない。だからって、あんまり温度、高くても駄目でしょ。蒸発させたいわけじゃなくて、水に戻したいんでしょ。温度高すぎると、一気に蒸発して、消えちゃうじゃない?」
「そんなに簡単に溶けるもんならそうしてる」
「だからさ、炎じゃなくて、ぬるま湯にしてあげなよ。そうすればちゃんと、水になるから」
「埒があかねぇだろうが」
「急ぐ仕事じゃないでしょ? 別に他の人と結婚しろって言ってるわけじゃないんだし」

十代目ドン・ボンゴレはそうやって、暗に弾幕の用意をしてることをザンザスに知らせる。借りのつもりかと一蹴できないのは、その点だけはちゃんと、ドンの仕事を引き受けているから。
長く続いている女と、長く続けたい男をきちんと手に入れて、ちゃんと面倒をみている自信があるからなのだと知らされて、少しばかりザンザスはおもしろくない。

「そっちはそっちでがんばってよ。結果出るまで引きとめておくから。俺のはどっちも優秀だしね。文句は言わせない実績だって作れるし」
「……出来たのか」
「うん。来年の春には出てくるよ。名づけ親になってね、ザンザス」
「……呪ってやる」
「楽しみにしてるよ」

だからさ、毎日、少しでいいから、お湯でいいからさ。
八年かけて凍ったんだもの。同じだけかけて溶かさないと、蒸発しちゃうよ。
その時になってから乾いても、もう一度水を溜めるの、大変じゃない?

「年月だけだよ、証ってのは」
「そんなもんでも裏切れるし、なくせる」
「生きていれば、残るよ。どんなものも、どこかに。忘れていても、そこにあるもの」

きっと君だって知ってるでしょ、炎の静まる夜があること。
夜に雨が降るということ。

何回でもいいでしょ。何百回でも。磨り減るほど、言ってみなよ。
そうしたら磨けるかもよ。中からなにか、出てくるかもよ。

「俺もっと外国人って簡単に言うと思ってたけど、そうでもないんだねぇ」
「カワイイとかいうのと一緒にすんじゃねぇ」
「あはは! やだな、それだってあいのことばじゃない。あいされるにあたいするものだって、みとめることばだよ」
「簡単に言いやがる」
「言ってあげれば。っていうか、ザンザスってカワイイねぇ」

そう言って十代目ドン・ボンゴレはにっこり笑った。
何百回でも何千回でも言ってあげなよ。そうすればきっと、氷は溶けるよ。

君の口から出ることばが、全部あいのことばだって信じてくれるよ。

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心臓を守る空白

彼は戦わなくてはなりませんでした。
どうしても、その業火の戦いの中に、身を投げなくては治まらないなにか、手に入らない何かを得る必要がありました。
そのために、戦わなくてはならないことも。
しかし彼はどうしても勝ちたかったのです。戦うだけではなく、勝つことが重要でした。
「おまえの心臓は赤く燃えていて綺麗ないろをしているな。俺には心臓がない。おまえの心臓の火を貸してくれれば、俺はおまえの心臓を守るだろう」
銀色の型代がそう彼に問いかけ、彼はその取引に乗りました。暴いた型代はその名のとおり、胸の中はからっぽで、なるほど彼の心臓を隠しておくにはふさわしい場所だと思ったからです。

型代は大変強くて立派でした。びゅんびゅん刀を振り回して、彼のはるか先を走って敵をばさばさと倒してゆきます。彼は心臓がないものですから、どんな攻撃を受けてもびくともしません。彼は負けることがありません。どこまでも戦って、勝ち続けることが出来るのです。
「おまえの心臓はすごいなぁ!ほんのわずかの炎で、俺は燃えそうだぜぇ!」
型代はそう言って、いっそう高く飛び、早く走りました。腕がもげるほど、足は折れるほど、型代は襲い掛かってくる敵を倒し続けました。彼はその後を悠々とすすみ、最後の敵と戦うまで、全ての力を温存することが出来たのです。

彼が戦うのはたいへん大きな敵でした。それと戦うために、彼は少しも自分に傷をつけるわけにはいきませんでした。全力で戦わないと勝てそうにない相手です。型代に心臓を預けているので、彼は死ぬことがありません。型代はそもそも生きているわけではないので、どんなに刺されても死ぬことがありませんから、彼にとってそこは最高の宝箱でした。

彼は敵と戦いました。はげしいはげしい戦いでした。
彼は敵に勝ちそうでした。型代だって、ぜったい彼が勝つと思っていました。

けれど彼は負けてしまいました。罰として、冷たい氷の中に閉じ込められてしまったのです。炎の心臓が止まってしまって、彼が動くことを止めてしまいました。

たいへんです。
彼に心臓を返さなくてはなりません。

型代は、もしここで彼に心臓を返したら、冷たい氷ですぐに止まってしまうだろうと考えました。それに彼が心臓を型代にかくしたとき、型代はそれをどうやって彼に戻せばいいのか、その方法を教わらなかったことを思い出したのです。
型代は胸の中にしまっておいた、たいせつな心臓を守ることにしました。冷たい氷が溶ければ、彼が心臓の戻し方を型代におしえてくれるでしょう。そのときまで、大切な心臓を、守っておればいいのです。
さいわい型代は彼の心臓の炎のおかげで、動き続けることができたので、氷が溶けるまで、待っていることなどかんたんにできそうだと思いました。
心臓を守っていることは誰にもひみつです。彼の敵に知られたら、心臓を奪われてしまいます。
型代は秘密を胸に仕舞いこんで、彼の心臓を守ることにしました。
彼の心臓はたいへん熱くて立派で見事な赤い炎でごうごうと燃えていましたが、たいへん脆くて壊れやすいので、守るにはたいへんな注意が必要でした。
型代はそれを空っぽの胸の中にたいせつにしまって、氷が溶ける日を待ちました。

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コイバナコゴロコイバナカタリ

来週なる前に一発な本誌ネタでひとつ。確かにただひたすら胡散臭いだけだな。


「ハルはクリームソーダ、京子はオレンジジュースでいいかしら?」
「はひっ! あ、ありがとうございますぅ、ビアンキさん!」
「ありがとう、ビアンキさん。オレンジでいいです」
「そう」

ディーノに促されて、京子とハルを連れてビアンキは一時、バックヤードに引き上げてきたときのことだ。二人に見せるにはミルフィオーレの、白蘭のやり方はあまりに残酷に過ぎた…と、さすがに毒サソリの異名を持つ殺し屋の端くれである彼女にも、その意味は理解できる。それを、たとえ足を踏み入れたとはいえ、まだ十四になるかならずの少女に見せることを厭うのは、男としては当然だろう、という気持ちも。
 気分を変えようと飲み物を二人に用意し、戻ってくると、さっきまで青ざめた顔をしていた二人は、ぼそぼそと何か話しをしていた。

「どうぞ」
「ありがとうございますっ!」
「すみません、ありがとう」

二人にオレンジジュースとクリームソーダを渡し、自分にはカフェオレを入れて、すばらくその香りを楽しむ。ほんのすこし緊張がほぐれ、こういうものまで準備してくれた正一とスパナの慧眼に感動していたビアンキの耳に、ハルの言葉が飛び込んできた。

「ところでハル、すっごく気になってたんですけど、あの、山本さんの技をえらっそーに説明したり解説したりしてるあの人、いったい何処の誰なんでしょーか??」
「そうなのよハルちゃん!あの人どこの人なの?なんだかいきなり自然に混ざって一緒に見てるんだけど」
「ハルは初めて見る人なんですけどー、なんなんですかあのヒトは! …なーんかハル、どっかで見たことがあるような気がするんですけど…??」
「そうなの? わたしははじめてだけど」
「そうなんですよねぇ…? あんな綺麗な長い髪のヒト、見たことあったら私絶対忘れないと思うんですけど……??」
「そうよね…ビアンキさんは知ってますか?」

いきなり話をこちらにふられて、ビアンキは大変あせった。
顔には出さなかったが。

確かに言われてみれば、十年前の彼女たちは、そもそもヴァリアーの存在を知らないのだ。

もちろん次席のスクアーロのことなど微塵も知るはずもなく、京子だけは兄の晴戦を見たことがあるから、もしかしたら見たことがあるかもしれないが、しかしその時点からすでに十年が過ぎている。
髪の長さはそのままだが、スクアーロはこの十年で、あの頃とは比べられないほど外見の雰囲気が変化した(と、ビアンキは思っている)。

しかも彼女たちは山本がスクアーロに連れて行かれた場面を見ていないので、いったいなんで彼がチョイスの会場に紛れ込んで、一緒に観戦しているのかということの理由をそもそもまったく知らないのだ――そういえば。さっきまでは展開に緊張していて回りを見回す余裕もなかったから、そこまで気がつかなかったのかもしれないが、跳ね馬がちゃっかり混ざっていることといい、スクアーロがさりげなく一緒に見ていることといい、彼女たちにとっては大変意味不明なことには違いなかった。

「ビアンキさん、知ってます?」
「…知って…るといえば知ってるわ」

困った。
どうやって説明するべきだろう。
まさか暗殺部隊の次席だというわけにはいかないだろうし…、争奪戦の話は聞いているのだろうか。

「あのひと、いったいなんなんですかー? というかなんであんなに山本さんのことを誉めるんでしょうか」
「もしかしてあの人が山本くんの先生だったの?」
「そ、…そうね、そうなのよ。彼は山本の先生なのよ」
「そうだったんですかー! それで心配でついてきちゃったんですねー!」
「だからいるのね…ってことは、あの人も関係者ってこと…なの?」
「そうね。彼はディーノの同級生よ」

ビアンキは色々あるスクアーロの説明の中で、一番あたりさわりのないものを選んで唇に乗せてみた。
確かに間違ってはいない……確かに。

「そうなんですか!」
「そうだったの?」
「そうよ。へなちょこ学生時代に一緒だったの。おさななじみ、ってやつね」
「そうなんですか~」
「へぇ、そうなんだー」

とりあえず、この説明でなんとか、二人の少女は納得したらしい。
ビアンキはほっと胸を撫で下ろした。

「それにしてもすごいですね! あんな美人でスタイルのいい家庭教師に教えてもらえるなんて、山本さん凄すぎます!」
「いったいいつ知り合ったのかしら…。あんな美人さんと知り合いになってるなんて、隅に置けないわね」

確かにスクアーロが美しいという言葉には、不本意ながらビアンキにも異論はない。
この十年、年月の衰えをどこかに置いていたとしか思えないほど、スクアーロはぞっとするほど美しくなっているのだ。
ビアンキは年に数回ほどしか顔を見ることはなかったが、みるたびにぞっとするほど玲瓏で硬質な美貌が冴えてくるのを、妬むより先に感嘆して見てしまうことが多くなっていたことを思い出した。
ビアンキがスクアーロに嫉妬を感じないのは、スクアーロは彼女にとっての敵ではないからだ。それは彼女もよくわかっている。

「山本くんってあんまり、彼女とかの話聞いたことなかったんだけど……あんな凄い人と知り合っているんだったら、しょうがないわよねー」
「ですよねぇ…! はぁ~、どうやったらあんなさらさらつやつやの髪になれるんでしょうかぁ…ハル後で教えてもらいますぅ~」

…なんだか話の展開があやしい方向に進んでいるような気がしてきた。
気のせいではないようだが。

「ビアンキさんはあの人と山本さんがどーやって知り合ったのか知ってますかぁ!?」
「うん、わたしも知りたいわ。あとディーノさんとおさななじみだって言ってましたよね? じゃあディーノさんとも古い知り合いなのかしら?」
「そうよ」
「今もですか!? 今は!?」
「今は見ての通りよ。彼が山本の家庭教師に来るのはディーノは知ってたの」
「そうなんですか!?」

さっきまで真っ青な顔をしていた二人は、甘い飲み物を口にしたせいか、大分顔色がよくなっている。

「そうね…聞きたい?」
「聞きたいですぅ!」
「わたしも」

女の子はそういう話が大好きだ。
もちろんビアンキも女なので、そういう話をそういうふうに色をつけて、それっぽく話にしてしまうことも大得意、だった。


「戻ったか」
「ええ」

バックヤードから戻ってきた三人は、行く前の真っ青な顔から、やけに上気した顔になって戻ってきた。
少女の瞳が潤んでいるのはいいことだ、とディーノは京子とハルに目をやった。

「落ち着いたか」
「はい。ディーノさんも大変だったんですねぇ」
「そうよね。私たち応援しますから、がんばってくださいね!」
「…?? あ、ああ? とりあえず、元気になってよかったな! さぁ、続きが始まるぞ」
「「はい!」」

幻騎士の残酷な最後の姿を見てしまったディーノは少し血が引いているが、二人の少女が元気になったのを見て安心した。

「ありがとう、ビアンキ。落ち着いたみたいでよかったよ」
「そうね。たいしたことじゃないわ。こっちも楽しかったわ」
「楽しかった…? のか…??」
「ええ」

そう言ってビアンキは、にっこりと笑った。
リボーンだけがその意味に気がついた。
だが何も言わなかった。
女にコイバナのネタとして語られるのは、男には悪いことではない。
その中身がたとえ、どんなものだったとしても、だ――。

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言えないたったその一言が

「言えばいいのよ」
そう、ほんのひとこと。唇に乗せる、一言でいいの。それでいいのよ、ねぇ、ボス。

告げられる言葉に鼻で笑った。

「それくらい言えばいいじゃん。減らないし」
一言でいいんじゃねーの? ご褒美としては簡単だろ、別に金でも物でもないしさ。

呟かれる言葉を聞かないフリをした。

「ボスが言えば仕事の効率はあがるだろうね。ボクはそのほうが嬉しいけど」
今まで以上に、滅私奉公するんじゃないの。それで満足しないのかい。

忠告は、聞こえなかったから聞き返さなかった。

「おまえが言えば一発じゃねぇの? いっくらだって信じるって!」
唇に甘い蜜をたたえることなど朝飯前だけど、そんなものが欲しいわけじゃないって知ってるくせに。

軽口は耳をすり抜けるばかり。

「そんなこと言ってると誰かにさらわれちまうぜー? 俺あんたに負けたくねぇもんな!」
でも違う本当は、負けたいんじゃない、気に入られたいだけ。戦う相手、あんたじゃないもん。

宣言は、鼻で笑った。


「…本当は、言えないんじゃないの? きっと、信じないから」
なんでわかるんだろう僕は、君がいつもそんな、どうしてそんな、なんでそんな、そんなふうに、いつも自分を抱きしめているのか、知ってしまうの、わかってしまうのだろう。

進言が本当だと、認めたくなかったから無視した。



「ザンザス、………だぜぇ?」
「そうか」
「なんだよぉ、そんで終わりかぁ?」
「知ってる」
「お、おぉ」
「知ってる」
「そっかぁ……」

そういいながら、それが宣言ではなく、会話であることを、応じる言葉があることを、微塵も信じていない相手がそれを言う。
持ち主にふさわしい、それは刃の鋭さで、いくらでも、ザンザスを切り裂いて、切り口の鋭さゆえに血も流せないまま、また、癒着する。
ずれて癒着してしまったから、血が通わなくなる、神経が届かなくなる――動いているのに死人のよう、そうしていつまでも、殺されながら生きている。

(信じない)
(俺が信じないのではなくて)
(おまえが俺の言葉を)
(どれだけ愛しているといっても)
(絶対に)
(信じない)

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その色こそが唯一の

山→スクかなぁ…これ


なんというか、体の中から光る人種ってのはいるもんだ。

そんなことを時折、山本武は考えることがある。

日本人にはない光だよな。
やっぱり肌が全然違う。雪国出身の知り合いがそんな色の肌をしていて、シャツの下の素肌がちょっとどきっとするほどキメが細かくて白くて、ああ、こりゃ肌の白いの七難隠すってのは本当だな――とかなんとか、思ったものだったが。
それよりももっと、色というものがない。全体に。

「おめーそんなに珍しいのか?この髪が」
「うん」
「物好きだなぁ」
「しょーがないじゃん。日本には基本的に黒髪の人間しかいねーんだし」
「そうだなぁ」
「目が青いのなんか滅多に見ねーもん。ホントに見えてんのか今も不思議」
「てめぇんとこの嵐だってそうだろ」
「うん。だから昔はしょっちゅう怒られた」
「あっそ」

仕事の話以外でも案外、他愛ない会話に付き合ってくれるもんなんだなー…と、話をするようになったしばらくしてから気がついた。
なんでこんなに世話好きなんだろ。
やっぱりあのこわーいボスのせいかなー、なんかあのヒト、ほっとけないとこあるもんなー、俺近づきたくないけど。

「そんなにあっちだと疲れるのな?」
「はぁ? なに言ってやがる」
「だぁってスクアーロ、いっつも俺のとこ来ると気が抜けてるじゃん」
「おめぇのところで気を張ってるようじゃぁ、ボンゴレも大したことねぇだろぉ」
「あ、そーゆー意味?」
「さぁなぁ?」

そんなこと言いながら、たぶん自分と同じ気持ちになっていること、知ってるかもしれない。スクアーロは、わかる。わかることが判ってる。判ってることを知ってる。
安心してる、のは俺だけかもしれないけど。

食事をしているときのスクアーロはよく喋る。口にものを入れて喋る不調法はしないけれど、合間に口を聞く、その会話がどこか、立会いの間合いに似ていて、楽しいけれど少し緊張する。緊張するけど楽しくて、自分が一番機嫌のいい顔、していることもよくわかる。そんなこともたぶんわかってる。同じような感じで、返してくれていることもわかってる。
甘い匂いがして、やさしい声で喋って、長い指が動いて、そして中からキラキラ光る。

銀は白銀、つまりはもともと、白のことを指す。
白いということは、黒いということと同じくらい、強いことだ。
余人のなにものでも、汚れない、色づかない、色あせない。だから銀、だから白。
光を跳ね返す色、光を導く色、光を遠く色。

「おめぇは綺麗に食事すんなぁ」
「そうかなぁ? 箸はオヤジにすげー仕込まれたけど」
「箸はいまんとこ一番面倒な食器だったぞぉ…。俺きれーに使えれば、どんなもんだって綺麗に食えるぜぇ」
「トマトのソース、シャツの飛ばさなくなったしな!」
「跳ね馬におめぇの爪の垢でもせんじて飲ませてやりてぇぜぇ」
「…今でも駄目なんだ?」
「一緒に二人だけでメシ食いに行きたくなくなるひどさだぜぇ」
「そらひでーな!」
「食いもん粗末にするのが許せねぇなぁ」
「確かになー!」

ああもうまったく白い、肌も髪も睫毛も産毛も、指も爪もみんな白い。
それほど赤いわけじゃないんだろうとは思うのに、唇がそこだけ赤くて、だからやっぱりそこから、目が離せないのは、俺のせいじゃないよな、これは。

日本人は白が好きなんだよ、神様はいつも死んで生き返って再生するから、永遠に変わらないものなどないと知っているから、季節と同じように神様も再生すると思っているから、だから神様に白を捧げるんだよ。神様は白だから、何度汚れても壊れても死んでも、穢れを払って禊を受けて綺麗になるから。

剣にも神様がいるなら、きっとこんな形してんだろうなと思いながら、山本は目の前の白いものを、至極楽しげに眺めていた。





夢見すぎだろーと思わないでもないが自重できる状況ではない(笑)

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あなただけ

YSの基本はここだよなー、という友人の突っ込みに同意。




あなただけだ。

そういわれて震えたのは、たぶん、魂とか、そういうもの。

あなただけだ。

理解している、感じている、そういう意味なら本当に、俺はおまえにとって唯一で、俺にとってもおまえは唯一だ。
ボスは俺の唯一だが、ボスにとっての俺は唯一ではない。
おまえにとってのツナは唯一だが、ツナにとってのおまえは「みんな」のひとりで、唯一ではない。
それと同じように、俺たちは相手にとって、「唯一」だ。
手の中に得物を持っているという点において。
誰よりも優れた能力を、そのために使うことを厭わないということにおいて。

相手の命を、その腕で奪う感触を、知るものとして、という意味で。

あなただけだ。

そうだろうな、俺もそうだ。
俺にとってもおまえだけが、俺の刃の意味を知っている。おまえにとっての俺だけが、おまえの刀の感触を知っている。おまえだけが、おまえだけに。

わかってるんだろう、山本武。

俺たちはそうして、刀を手にして向かいあい、打ち合うそのときが一番、近いということを、おまえはわかっているんだろう。そのとき俺たちはひとつ、ひとつになる――間に誰かを入れることなく、純粋に向かい合える。魂がぶつかる、その快感は知っているだろう。

直接肌に触れて、キスをして指を絡め、身をよじって相手を受け入れても、俺たちはずっと、遠いことを知っているんだろう。
肌に触れればわかるだろう。俺たちの間には、刃で向かいあうときもずっと多く、何人もの人間が、間にいることがわかるだろう。

おまえだけだ。

裸の肌の間にそんな、誰かの気配があることを、知っていても抱き合いたがるのは。

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右手を胸に

手を差し出す。
こんなことをしたことはない。
いつもは逆で、ザンザスが差し出した手を取るのはスクアーロの役目のようなものだった。
ひざまずいてその手を取り、両手で恭しく掲げて、中指に口付けるまでの一連の動作、それを何度、この男の前でやったのか、スクアーロは覚えていない。
そのときの胸の高鳴りと耳の奥の静かな気配は、ひどくよく覚えているのに。

差し出した手を取る。
こんなことをしたことがない。
この男が自分から手を出すのはベッドの中にいるときだけで、感極まってなにもかもわからなくなってしまってからようやく、背中や肩に手を回して、髪を撫でるようになる。
それまで絶対に手を出さない。
手を回すときも至極慎重に、左手を直接、肌に触れないように慎重に、右手の上に重ねるか、服の上からしか手を出さない。
普段からじかに手を取ったことがない。
本当に昼日中、光の中でスクアーロの右手を見るのは本当に、年単位で久しぶりなのではないかと考える。

ザンザスは手にした指輪を右の手の、中指にそっと嵌めこんだ。
紋章の入った大きな指輪の、石ではないが珍しい澄んだ青が光る。
しかしやはり石だとしか言いようのないそれが――光を浴びてきらりと光る。
「これがそうなのかぁ?」
「そうだ」

何も言わずとも思い出す、数年前の苦い夜の記憶。
ザンザスの指から落ちた証の指輪のその重さが、一瞬二人の間をよぎる。
スクアーロがその記憶に、ふっと目を細めて――その拍子に、額を隠す銀の髪が、光に透けて、かすかに光った。

ボッ。

思わず、といったふうに、蒼い炎が指輪から上がるのを、二人してただ美しいものだと思いながら眺めていた。
神の御前で婚姻を誓う、その姿勢と同じままで。

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目覚めろと呼ぶ声が聞こえ

YSというかY→←Sかなぁ…この二人の関係ってボスとは絶対違うよなぁ……

一度俺は死んだ。
綱吉が俺を助けてくれて、だから俺は生き返った。
まさに生まれ変わった、んだ。
そう思っていた。

「起きろ」
その声はいつも俺を目覚めさせる。そのままの意味で、それ以外の意味で、それ以上の意味で。
「いつまで寝ていやがるんだぁこのガキがぁ」
一緒に暮らして二日目、スクアーロが存外いろんなことが出来ることを知った。翻って、自分がなんにも出来ていないことを知った。自分がただの子供だったことを改めて自覚した。何度も。
「あのさ」
「ん?」
カーテンを開けて外を見る。太陽の光を浴びて起きるなんて久しぶりだった。
なんだかおかしいな、と思った。
暗殺を生業としている彼が朝の光の中にいて、普通の中学生だったはずの俺は日の指さない地下施設で毎日暮らしているなんて。
なんだかおかしいな、と思った。
「スクアーロはさ、自分が生まれ変わったって感じたことってある?」
だから別にちょっと、聞いてみたかっただけだっていうか――口から出ただけの言葉だったんだ。他意なんかなかった、全然。

「ある」

朝の光の中で白い背中がそう言ったのは、だから凄く、驚いた。

「世界が、…こんな色だったんだ、って思ったぜぇ、……。いままで自分が何をしてたんだろう、これが全部このためだったんだな、って思った」

顔は見えなかった。でもなんだか、ひどく凪いだ顔をしてるんじゃないかと思った。なんとなく。

「全部の俺を肯定された。世界に。全てに、――それでいい、と」

それはなんというよろこびか。

「生まれ変わるのは死ぬわけじゃねぇ。…受け入れることだぁ」

そう言って振り返った瞳はただ深く、青く、透き通っていて、俺はなんだか泣きたくなった。無性に。
「返り血を浴びるのはおめぇだけだ。それがおめぇだ。そんだけだ」
「はは。そうだな、……そうだね」
「そうだぁ」
「酔う自分を知って初めて、酔わない方法がわかるだろぉ。二日酔いと同じだぁ」
「俺まだ未成年だから酒は飲めないよ」
「……そりゃ悪かった、タケシ」

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